第十二話・乙女ゲームとの相違1
「隠しルートの一つはバルアランド帝国の皇太子で、もう一つはわかりません。及川さんは『そう来るかーって感じだよ』と言ってました」
隠しルートの一つが帝国ルートなら、転生者の可能性は低いな。
最後まで聞き終えた母上・ブライアン・カーチェは何かを話し合っていた。
「領地にいる姉様が巻き込まれるのですか?」
「わたしが阻止するわ!アレク兄様も手伝って下さいますよね」
あの……どうして私の弟妹は『アレキサンドラ』がいる前提で話してるんだろう。
「まずそこから、だわ」
母上サフィールとパメラに視線を向けて説明する。
「わたくしが腹を痛めて産んだのはアレキサンドル、サフィール、パメラのみです。アレキサンドラは王国からの依頼で作り上げた偽の娘です」
「「は?」」
生まれた時、私は一人で寝かされてたんだから、アレキサンドラという人物が存在しないことは最初からわかっていた。
「『第2王子』という廃嫡が決まっている雌豚の子供に貴族の娘を婚約者として充てがうわけにはいきません。
ゆえに高位貴族でちょうどいい時期に産まれたわたくしのアレキサンドルを双子ということにし、時期を見て平民の子供を代役としてたてる予定でした」
確かに廃嫡が確定事項だとしたら、貴族の令嬢を使うわけにはいかないだろう。最初から事情を話した平民を使い、追放や身分剥奪した形をとったあと報酬を与えれば傷は小さい。
「しかしパメラ様のお話ですと完璧な令嬢となるまで成長させねば辻褄が合わなくなります」
え?そこ重要??不思議そうに見上げた私たちに母上は静かに問いかけてきた。
「アレキサンドル、パメラ。二人とも『強制力』という現象を聞いたことがありますか?」
それって普通の意味で言ってる訳じゃないよな。
「ネットスラング的な意味なら物語がそうなろうとして、奇跡的な事ばかり起きることです」
母上は頷き、私の言葉を肯定した。
「それで間違っていません。
以前、根本から話の筋を変えようと、ヒロインを他国に移動させたり、婚約者を変えたり色々した国がありました。しかし、その『強制力』が働き、他国でストーリーは進み、彼女から引き離したはずの攻略対象たちは全部ヒロインに籠絡され、入れ替えたはずの婚約者と元々の婚約者、その両方に被害が広がるという最悪の事態がおきたのです」
被害が国を跨いで起きたのか。それは最悪だな。自国なら調整できたかもしれないが、他国では干渉もしにくくなる。
「逆に性格の矯正した場合は優秀な人材であれば引っかからず、人材と廃棄物の区別するのに有用と判断されました」
母上、ところどころに鋭いトゲを感じる。
「被害が拡大しないように自国で舞台を造り、攻略対象で問題を起こすものは粛清・調整・廃棄・排除をすればいい、というのが同盟国会議で決まったのです」
貴族も王族も国王も怖ぇぇぇっっ!!!
なんだよ、調整って。それに処刑もありなのかよ。
「パメラ。ゲームに出てくる『アレキサンドラ』はどのような人物だったのか、詳しく教えてちょうだい」
母上に聞かれたパメラは大きく頷いた。
「はい。ゲームの中の『アレキサンドラ』姉様は成績優秀で立ち居振る舞いも洗練された究極の公爵令嬢です。なのに自分の立場に奢らず、下位貴族にも優しく、ヒロインに対しても貴族令嬢としての作法を丁寧に注意・指導してくれるんです」
愛理も彼女のことを『悪役令嬢的立場』って言ってたな。実際は存在しない『妹』だけど、手放しで褒められると嬉しいな。
母上達も幻の娘の評価に満足気に頷いている。
「処刑されるルートだって、第二王子が何も非のない彼女との婚約を破棄するための冤罪で、本来なら処刑されなかったはずなのに、毒を盛られて寝込んだ国王の許可を第一位の王位継承者という立場を利用した王子が偽造し、公開処刑されたんです。
ただそのルートだとヒロインはサフィール兄様と共に第一王子と私の所に来て姉様の無実を証明し、無念を晴らすの」
続けられたパメラの説明に周りの大人の笑顔が黒くなる。
「あらあら、どうして第二王子が第一位王位継承者になれるのかしら」
パメラは前世の記憶を辿るため、ぐぐぐっと眉間に皺を寄せた。
「確か第一王子のお母様が下位貴族で、国王の勅命で正妃にはなれたけど、子供が王位を継ぐのは許されなかったという設定のはず」
なんか無理矢理な設定だ。
もし国王の勅命で子爵以下の身分の者を正妃にした場合、他国……敵国とはいえ王族の姫を妃にするなら、妃の順位を変えるはずだ。
疑問に思い聞こうと思ったがブライアンの
「いろいろ違いがありすぎますが、先にパメラ様のお話を聞いてしまいましょう」
の一言でパメラの話が続けられる流れになった。しかし母上は手の先だけで執事を止めた。
「そうね、でもこれだけは教えて『アレキサンドラ』の容姿はどのように設定されてるの?」
「アレク兄さまにそっくりです!!」
自信をもって宣言するパメラに大人達は『ニタァ』と口角を上げる。
「ふふふふ、それはよかったわ」
嬉しそうな母上の表情に若干悪寒を感じるのだった。