第十話・乙女ゲームの活用法
母上は自分の後ろの光景の異常さを歯牙にもかけず、私たちわ抱きしめる。侍従も侍女も笑みを浮かべて、その姿を見守ってくれる。
あ、あれ?おかしいと思うのは私だけなのか?この世界では侍従が首輪して四つ足歩行してもスルーされるのか?
「母上、なんでジョルジオはお馬さんみたいな格好してるんですか?」
私の聞きたかった事をサフィールが訊いてくれた。
「あらぁ、違うわ。サフィール。これは愚物から進化した豚よ?」
はーはーうーえーっ何を幼気な子供に吹き込んでるんですか。
「「豚ですか?」」
汚れを知らない子供二人は母上の言葉が解らず、首を傾げている。
なんか理解できる私の方に問題があるように感じる。
「うふふ、わかったかしら、アレキサンドル。これが純粋な子供の反応ですよ。18歳未満が読んではいけない本に興味など示さないものです」
今の一言であの本が父上だけのトラップではないと気付かされた。
「「アレク兄さま?」」
ああ、二人のまっすぐな視線が痛い。
「まあそれはさておき、アレキサンドルとパメラの前世の話を聞きましょう。二人は顔見知りということでいいのかしら?」
居たたまれない空気に身悶えている私に満足した母上は、話を切り替えてくれた。
わたしとパメラは同時に頷く。
「エレベーター式の私立校で小等部から高等部まで同じ学校だった」
「でも同じクラスになったのは、高等部からです」
あの学校は小等部から中等部までは順繰りにクラスを割り振られる。親友・愛理ともパメラの前世・神田さんも中等部まで同じクラスになったことはない。
愛理と仲が良かったのは、幼稚園も同じ、親同士が親友、家がワンブロックも離れてなかったからだ。
逆に高等部になると勉強の出来に大きく差が出て来るのを鑑みるためクラス分けの方法が変わる。
「高等部から半分成績上位者、半分大口寄附者で順にクラスを作るから」
うんうんと、パメラも頷いている。
サフィールが羨ましそうにこちらを見ているので頭を撫でてやると、何故かパメラが身悶えていた。もしかして、妹は純粋なのに腐っているのか?愛理によって腐った薔薇の種子を埋め込まれているのだろうか。
「それでは『乙女ゲー』もしくはこの世界の『もの』と思われる『何か』が出て来るような小説・漫画などに心当たりはありますか?」
次の問いに私とパメラの動きが止まった。
「あら、二人ともに心当たりがあるようですね」
母上は私たちの様子に目を細める。
「私自身はやってないですが、親友が死ぬ前にクリアしていたゲームに似ています」
愛理が言っていた私にそっくりな『公爵令嬢のアレキサンドラ』の代わりに『公爵令嬢(擬)のアレキサンドル』がいるし、彼女の推しだった『サフィール・パージェンシーもいる。所々に齟齬があるものの概ねゲームの世界とリンクしている。
「ゲームの話はアレク兄さまより、わたしのほうが詳しいです」
パメラかちいさいむねを叩かながら宣言する姿に、ほんわかな空気が流れた。
「でも、どうして『乙女ゲー』と言う言葉がこの世界に?」
この世界にTVゲームがあるとは思えない。それなのに概念として、理解している気配がある。
「ここ十数年でそう言う例が多数存在してるわ。
最初は隣国タイルーン王国で男爵家の庶子の娘がの重鎮の跡取りばかりを籠絡して行く事件が起きたの。
その娘の最終目標は王太子、しかし、彼は彼女を自分の側近候補を堕落させて行く薄気味悪い女としか思えなかったの。
第一、男爵家の娘が王太子妃にはなれません。ましてや庶子など他の貴族が認めるはずもない。
さらに王太子には勿論、籠絡された男達にも婚約者がいた。それを無視して近づくことに対して、危険視した正常な判断力を持った者達が王太子と婚約者への侮辱罪で彼女とその取り巻きとなら下がった元側近候補達を捕縛。
その時、彼女が『私はこの世界のヒロイン』『なんでゲームのとおりにいかないの』と暴れたことで乙女ゲーというものがあると判明したのです」
やらかし系のヒロイン転生か。王太子や社会秩序を守る貴族が未然に防いたのでなんとかなったと考えるべきか。
「最初、『乙女ゲー』というものを危険視する声もあったのですが、王太子の婚約者である公爵令嬢が、自らもその内容を知っており、疫病や他国こらの干渉など国や地域にこれから起こる事件を告げた。
そのおかげで事前に対処が出来、被害の拡大を防ぐことができたわ。
それを受け、我がグレンフィア王国が中心となって、『乙女ゲー』の事を知っているものがいる場合は詳しく話を聴き、自分がヒロインだと勘違いして者には徹底的に現実を見せることが決まったの」
まさか『乙女ゲー』を預言書がわりに使うとは。案外、この世界のにもしぶといと言うことか。
「あなた達、ヒロインじゃないわよね?」
母の言葉に、私とパメラは高速で頷き続けるのであった。