序章:喜劇役者がいっぱい
悪役令嬢転生が書きたくなって、リハビリ目的で書き始めました。
「面の皮が厚いだけはある、よくもこの場に現れたものだなアレキサンドラ・パージェンシー」
「そうですな。しかし、この厚顔無恥を理解したうえでカルロス殿下は糾弾の場を作るとはすばらしい限り」
「さっさとメギツネをやっつけちゃいましょうよ」
目の前では茶番が執り行われようとしている。
第一、私がこの場にいるのは当然の権利と義務によるもの。この学園を首席で卒業し、答辞を読み、さらにはいま行われている卒業パーティを手配・主催している状態での欠席はありえないだろう。
それをわかっている王子とゆかいな仲間たち+α以外の人物は『何でそんな発言を?』と怪訝そうな顔をしながら、こちらの行く末を興味津々で見守っている。
喜劇役者たちの筆頭は第二王子・カルロス・プライオリ・グレンフィア。隣国から嫁いできた第二正妃が産んだ第二位の王位継承権を持つ王子。私、アレキサンドラの婚約者とされている。ある特殊な理由で婚約をするように王と両親から言われていたが、「それを行ったらどんな手段を行ってでも家を出て、野垂れ死んでやる」と脅し、婚約者『候補』で抑えてもらっている。
カルロス王子の言葉に同意していたのは宰相の次男で、顔だけインテリのジェイムス・オーガニック。兄より優れていると豪語しているが、その自信がどこから来るのか私には皆目見当がつかない。
人を女狐呼ばわりしたのは天使のような面をしたミシェイル・ボーネット。ボーネット子爵の長男だが、自分の家よりも格上である公爵家の子供に暴言を吐いて、家がつぶされるとは思わないのだろうか。
「アレキサンドラ様は何も悪いことはしてませんっ!みなさんの誤解です!!」
カルロス王子にかばわれるように立っている少女が、たしなめるように発言する。栗色の髪に薄緑色のつぶらな瞳、かわいらしい容姿と声を持つ少女はおろおろと周りにいるみんなを見ている。
彼女はプリメイラ伯爵家の庶子として高等部から入学してきたアリエラ・プリメイラ。状況を把握し、事を出来るだけ大きくしすぎないようにしているが、バカ達に彼女の声は届かない。「アリエラは優しいな」とか「彼女が君にしたことを公にしないと」などと戯言を抜かしている。
ちなみに私の情報部の連絡では彼女は、彼らの言う疑惑をずっと否定しているのだが聞く耳を持ってもらえないそうだ。
彼女の後ろでは私の弟・サフィールが口元を抑えている。大丈夫か、弟、喜劇を間近に見て笑いをこらえているのがまるわかりだぞ。
避難がましく弟を見ていたら、二つの異なる視線を感じた。
一つは喜劇側の人間に属する城騎士団長の長男マクシミリアン・グランド。射殺さんばかりに無言でこちらをにらんでいる。こいつは、私が公爵『令嬢』であろうと抑え込んだりしそうな屑である。騎士の魂があるなら、立場ある女性をとらえるためだけにその身に触れたりはしない。
もう一つは+α側に属する近衛騎士団長の長男クロード・バレンアッティ。『どこまでこの茶番を衆人環視の中で続けますか?』と視線で聞いてくる。
「聞いているのか!アレキサンドラ!!」
第二王子が大声をあげて、文句を言っている。
がならなくても耳が遠くないから聞こえると言いたいが、さらにうるさくなるのがわかっているのでぐっとこらえる。
「もちろん、聞こえております。ただ言われている内容が意味不明すぎて答えに窮してもいます。私自身が元生徒会長であり、今年度の首席卒業生として主催しているパーティに『よく現れたものだ』というのは、どのような了見でのお言葉なのでしょうか」
「元生徒会長は僕だぞ!!」
私の言葉にカルロス殿下は顔を真っ赤にして大きな声で主張する。
その主張に聞いていた観客が大きく目を開けて驚いている。
私は大きく息を吐くと、持っていた扇子を閉じ、その先で自分のこめかみをぐりぐり押した、ああ、頭痛が痛い。
「1年の時に権力でもぎ取って就任したのに、秋になるころにはリコールで解任されてしまったことをお忘れですか?
カルロス殿下の次に生徒投票により生徒会長についたのは私です」
彼は記憶力も欠如しているらしい。
小ばかにするような態度に、カルロス王子はこちらを指さし大きな声で宣言した。
「お前みたいな女狐、未来の王妃にふさわしくないっ!!今、この場を持って第二王子にして『第一位王位継承者』たるカルロス・プライオリ・グレンフィアはパージェンシー公爵令嬢アレキサンドラとの婚約を解消し、国母にふさわしき女性プリメイラ伯爵令嬢アリエラと婚約をするっ!!」
「ええっ!!」
アリエラが驚きの声をあげる。
私は待ち臨んだ言葉に、深く頭を下げ、上がってしまう口角を隠した。
ああ、やっと、男に……『アレキサンドル』に戻れる。
公爵令嬢は男です。