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第4話:誰だこいつ?

 「さっきも思ったけどやっぱり変態だったわね! もう町まで連れていかず置いていこうかしら!!」


 先ほど啓吾に見せてくれた耳と尻尾を隠しつつ、腕組みしながら速足で啓吾の前を歩いていく。


 「い、いや申し訳ない、つい持病の発作が出てしまって……犬と猫には弱いんだよ。あまりにも夢みたいに可愛かったからテンプレみたいにほっぺをつねるよりどうせならしっぽで叩いてもらって夢かどうか確認したかったんだ」


 置いていかれまいと追うが、その速さはそれほど速くない。出会って短時間で色々やらかしているが、結局こうして見ず知らずの人間をまだ助けようとしてくれるのは心優しい女の子なんだろう。少し手が早いところがあるけど……。いまだズキズキとする頭をさすり、先ほどの右ストレートにより出てきた鼻血を拭う。



 「やっぱり変態じゃない、なんでそんな考えになるのよ! あーもー、臭い上に血まで出して、ほら、あそこに川があるから顔と服洗ってきなさいよ」

 「はい!! 行ってきます!」


 鼻血に関してはリリルのせいだろ、とも思ったが自分でもあれは初対面の女性に対しては気持ち悪い行為であると自覚もあるため、素直にゴブリンと自身の血を落とすため川に走る。


 「いててて、しかし可愛いのにさっきのゴブリンって化物の時と言いさっきのパンチといい凄い力だな。……ん? んんんッ!?」


 自身の服についたゴブリンの血を洗い(完全にはとれなかったが)、鼻血が付いた顔を水を川で洗いながら川を覗き込むと知らない男が自分を見ていた。


 「うおぉぉぉおお!? 誰だお前!? なんで川にいるんだよ!?」


 予期せぬシチュエーションに弱い啓吾は大声をあげながら尻餅をつくと、少し離れて待っていてくれたリリルがすぐさま駆けつけてきた。


 「どうしたのっ!?」

 「川ッ!! 川の中に変態がいる!」

 「変態はあんたでしょ!!」

 「いいから見てくれって!!」

 

 リリルが慎重に川に近づき川を覗くが、そこには銀髪碧眼のリリルの顔だけが映っていた。


 「何もいないわよ」

 「いや、確かにいたんだって」


 いぶかしげに啓吾を見て再度川を確認していたリリルだったが、合点がいったように振り返った。


 「分かったわ、確かにいるわね」

 「だろ!? なんで川の中にいるんだ?」

 「こっちに来てもう一度川を覗いてみて」


 何を言ってるんだと思いながらも言われた通り恐る恐る川に近づき、再度川を覗きこむとそこには先ほどの男の顔が映っていた。


 「ほらこいつだ、こいつはいったい誰なんだ?」

 「やっぱりこっちの世界にくるとみんなこうなるのね……」

 「どういうことだ?」


 どこか納得したように頷きながらリリルが答える。


 「そこに映っている顔、それは貴方よ。」


 近くで川魚が跳ねる……もう一度川の男を見る……川に向けてじゃんけんをしてみる。

 あいこ、あいこ、あいこ……そして不意打ちのパンチッ!!

 何も手ごたえはなく、再度知らない男の顔がそこに映る。


 「ええええええええ!?」


 自身が叫び声をあげると同時に、川の中の男も物凄い顔で驚愕していた。



---


 「いい加減それやめたら? ナルシストみたいで少し気持ち悪いわ」

 「いや、だってこれ、マジですか?」


 愕然としながら川の水で自分を見つめる。そこには毎日鏡に映る自分の黒髪黒目ではなく、茶色がかった髪をした茶色い目をした自分がいた。さらに顔の造形が異なり、明らかに日本人というよりはファンタジーの世界にいそうな顔である。


 「そういうものみたいよ、私は鏡を見る前にしっぽがついてたからもっと驚いたけどね」

 「いや、そういうものって言われても……余計夢みたいだけど痛みもするしいよいよ混乱してきたぞ。」


 (VRMMOのような仕組みなのか?でもVRMMOだとしても確か……)

 

 「いつまで裸でいるのよ、女の子の前でいつまでも裸でいるんじゃないの! ここはまだ危ない場所なんだから早く行くわよ。」


 先ほどのこともあり、裸である自分を少し非難めいた口調で先を急かしてくる。


 「いや、ほらまだ洗ったばかりで濡れてるんだって。こんなビショビショの服着れないだろ」

 「そんなの気にせず着ればいいのに、軟弱そうな見た目通りに軟弱なのね」


 どちらかというと線が細い顔と身体(それでも本来の自分よりは引き締まっていい身体だと思うが)を呆れたような口調でリリルが見てくる。


 「俺が軟弱かは置いといて見た目はほっとけ! 俺もこの見た目になったのは今日が初めてだ! こんな濡れた服着てたら風邪ひくだろ、しばらくこのままでいいじゃないか」

 「私がよくないのよ! ……まったく、分かったわよ。これは説明した後にしようと思ったんだけどな。いい? 私がこの服を乾かすから驚かないでよ?」


 人差し指をたてながら、親が何も知らない子供に言い聞かせるように諭してくる。


 「なんだ? ドライヤーでも持ってるのか?」

 「そんなものここにあるはずないでしょ。ほら、その服貸しなさい」


 匂いは少しマシになったが、血の赤が落ちきっていないビショ濡れの服をよく分からないままリリルに差し出す。


 「ほんとに洗ったの? 匂いも色も全然落ちてないじゃない。――しょうがない、先に匂いと色を取るわよ」

 「そんな便利なものがあるのか? 最初からそうしてくれよ」

 「便利だけどそんな都合がいいものじゃないわ、色々不具合もあるからある程度は自分で落とす必要があるのよ。――いくわよ?」


 リリルの真剣な顔からこちらも緊張してくる、この少女は何をするつもりなのか。


 「《清めよ》」


 凛とした声がしたと同時に、服が輝く。そして鼻をついていた異臭は消え、服についていた赤いシミもみるみるなくなっていく。


 「うぉおお!? なんだこれ!?」


 啓吾が光と服の変化に驚いている間に、服はすぐキレイになった。


 「《乾け》」


 同じような光と同時にビショ濡れだった服がすぐに乾く。


 「すげーッ! なんだこれ、これが異世界ものにセットの魔法ってヤツか? なんて魔法なんだ?」


 普段のニート生活で妄想していた魔法のようなものを見せられ、興奮しながらリリルを見る。


 「魔法みたいなものだけど少し違うわ、これも後で詳しく話してあげる。ほら、さっさとこれを着て、ここはまださっきみたいなモンスターも出るし、夢言(まほう)を使ってしまったから見つかりやすくなるかもしれないわ。」


 啓吾の興奮とは逆に何かを警戒するように冷静な彼女の言葉が啓吾の熱を少し冷やす。よく分からないことだらけだが今の魔法で何かまずいことでもあるのだろうか。疑問を感じながら服を着るとリリルが臨戦態勢の猫のように身構える。


 「運が悪いわね……こんな夢言(まほう)に反応されるなんて」


 形のいい唇を引き締めながら、碧眼で睨みつけた先には一匹の犬がいた。

 犬と呼ぶには少し大きすぎる魔物が立っていた。

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