第1話:プロローグ
布団に入って睡魔に襲われ、気が付けば森に立っていた。
(えーっと……)
小鳥のさえずりが聞こえる。
「ニートで引きこもってないで、外に行けって身体が言ってるのかねぇ……」
日頃の引きこもり体質を身体が夢で非難してきたのかと思っていたその時。
『ビュンッ!!』
「うおぉおおおおおおおおおお!?」
ボーっとしていた自分の髪を棍棒がなぞる。いつものように晩飯を食べ、風呂に入り、飼い犬と飼い猫を抱きしめて布団に入った所までは覚えているが、気が付けば醜悪な顔をした小鬼に襲われている。
「夢か!? いつかネットで見た怪談話のせいか!? これがサ〇夢ってやつか!? 夢なら覚めてくれ!!」
夢であっても逃げてしまうのは人の本能だろう。何より追いかけてくるのが可愛い女の子ではなく、醜悪な顔をした小鬼なら逃げるに決まっている。
以前にも夢の中でパンツを頭に被った友人に『俺って可愛いだろ……可愛いだろ……』と追いかけられたな、とこんな時に考えてしまうのは夢の中だからか、それとも頭が混乱しているのか――。
「うおぉっ!?」
変な事を考えていたせいか石に躓き転んでしまう。地面に張り付き顔をしかめた自分の頭に、追い付いた小鬼がニヤニヤしながら棍棒を振りかぶる。
(あ、死んだわこれ)
死んだと感じると同時に、これでこの夢からも覚めるだろうとどこか冷静になる自分がいた。そんなぼんやりとした顔に棍棒が触れ――
『ギィイイイイ!?』
殴り殺されると思ったが、なぜか倒れたのは目の前の小鬼だった。醜悪な顔がさらに醜悪なものになり、自分に倒れかかってくるのと同時に、頭にこびりつきそうな悪臭が漂う。
「うへぇ……最悪だ、しっかしもう少しいい夢見れないのかよ俺、可愛い女の子の一人も出てこないじゃ――」
「夢じゃないわよ」
自分に倒れかかった小鬼に顔をしかめながら声が聞こえた方を見上げると、銀髪碧眼の美少女が剣を携え立っていた。
「夢だけど、これは夢よ」
美しい所作で剣についた小鬼の血を振り払いながら、もう一度繰り返し呟く。
(夢なら覚めないでほしい、もう少し見続けたい)
これからの少女との夢のような展開を想像し心躍らせながら、俺の夢が始まった。