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朝練と、喧嘩するほど仲が良い

なかなか話が進まないので読まなくても大丈夫です。

 おはようございます、トリィです。


 怒涛の昨日を終え、新しい朝がやって来ました。不愉快な疲労もなく、今日の体の調子は良好です。

 前世の時刻に沿えばだいたい6時頃でしょうか、少し肌寒い空を、小鳥がチュンチュン鳴きながら飛んでいきます。


 とりあえず、起きてから気付いたことと言えば、私が使うはずだったベッドが、アイリスのと入れ代わっていて、部屋の真ん中で目覚めたことと、そのアイリスが既に部屋に居なかったことです。

 ベッドについては諦めましょう。何てったって、アイリスは絶対強者で、クソザコな私には抵抗できませんからね。


 さて、入寮の翌日、すなわち今日のメインイベントはズバリ、入学式です。学園長様のありがたーいお話が待っています。

 さらに、今年は王子様がご入学される関係で、普通あり得ない、我らが国王様からの挨拶が予定されているとのことです。

 とは言っても、さすがにご本人自らの挨拶ではないでしょう。


 ちなみに、王子様による入学生挨拶はあるようで、そのために多くの警備員が派遣されています。

 警備員と言っても、その実完全武装した騎士団で、王宮直属の超エリートと謂われる第二騎士団が派遣されているようです。


 余談ですが、このアルメリダ王国において騎士団という組織は、九つに分かれています。

 王家の生活圏を中心に第一騎士団から配置され、数字の小さい騎士団ほどエリートだとされています。ただ、第九騎士団が弱小かというとそうではなく、最前線にて真っ先に戦闘を行い国境を防衛する他、王都郊外の危険とされた魔物の駆除など、こと戦いにおいては全騎士団随一の戦力を誇るようです。


 そんな騎士団は憧れの的、そんな騎士団に所属することは名誉なこととして、入団の為に剣を持ち、剣を習うため学園を志す子供も数多く存在するようです。

 そんな学生の為に、学園側としても身分問わず優秀だと評価されれば、騎士団への推薦を行うそうです。


 そのため、特に平民の学園に入学する理由の、なんと6割は騎士団志望らしいのです。

 騎士団ならば学はなくとも、腕っぷしがあれば可能性がありますからね。


 ついでに、貴族さま方の入学理由ですが、その大半が、箔付けのためのようです。この学園の卒業証書は国王によって保証されるので、所持するだけでもかなり価値のあるものなのです。


 そんなこんなで、王立アルメリダ学園については、毎年凄まじい数の受験者が現れ、そして散っていきます。

 学力や体力諸々で厳選され、最終的に約200名の入学生が生まれるのです。

 ただ、一身上の理由で退学したり、進級規定を満たせなかったりして、卒業できるのはその半分程らしい、です。


 まあ、ごちゃごちゃと話しましたが、端的に言うと今日は学園に200人を越える人間が集まってごちゃごちゃするということです。

 体格的な問題で人混みが苦手な私ですが、新しい出会いを考えると少しワクワクしてくるので、今日はちょっと楽しみだったりします。


 とにもかくにも、まずは朝の身支度を終わらせてしまわないといけませんから、ここで一端区切らせてもらいますね。



 ◇◇◇



 まだ食堂は開いてませんでした、トリィです。


 今日は入学式ということで、髪をしっかり梳いてさっと流すだけにしておきました。化粧なんかはしてません。

 女として産まれた以上、身だしなみは気にかけていきたいですからね。元男としては、理想的な女性のビジョンがあるわけですから、これに近付けるよう日々鍛練しているのですよ。


 今はまだちんちくりんですが、卒業する頃には町行く男共が10人中11人は振り返るような、ないすばでー&あだるてーな素敵な女性になっているでしょう。


 ちなみに、服装は学園指定の制服を着ています。

 この学園において、制服の着用義務はありませんが、在学証明にもなりますし、生地や製法から見ても格安で入手できるため、服を買う余裕があまり無い平民にも優しいのです。

 ただ特待生については、一般学生との区別のために着用義務があり、私はそれに倣っているわけです。


 とりあえず、食堂が開くまでもう少し時間がありそうなので、アイリスを探してみることにします。

 寮内は既に人の気配がしていて、平民の朝は早いですから、既に起きて活動し始めているのでしょう。


 そんでもって、アイリスは存外早く見つかりました。

 というのも、外でヒュンヒュンと風を切るような音が聞こえたので覗いてみたら、アレクと並んで何かの素振りをしていたのです。おそらく木刀でしょうか?


 ただ、なんというか二人の振る暫定木刀が全く見えないのですが……、こういうものですか?普通。

 私の動体視力では二人の剣筋を見極めるどころか、実際二人が何を振るっているのかすら分かりません。


 確かにゲームの設定では、主人公二人はどんな分野においても才能ありで、プレイヤーの選択次第でどの道のエキスパートにでもなれるとされていましたから、現実となってもそのチートは遺憾なく発揮されているわけですね。


 どうやったら、素振りするだけで木の葉を揺らす風圧が発生するんでしょうか。飛ぶ斬撃ができそうですね…。


「………っ………、ふっ、……っはぁ。……?」


 お、アイリスが気付いたようです。手を振ってみると、アイリスは少し目を丸くしたあと、軽くはにかんで手を振り替えしてくれました。…ちょっと嬉しいですね。


「ふっ……………!おお、トリィ。おはよう!」


 アレクも気付いたようで、大声で挨拶をしてくれました。隣に居たアイリスが、咄嗟に耳を塞ぐのが見えて思わず苦笑してしまいました。


 二人が何やら言い合いを始めてしまいましたが、激しくならないうちに、私はタオルを持って駆けて出しました。

 二人の鋭い動きを見たせいか、私の身のこなしも少し洗練された気がします。


「おはようございます!アイリス、アレクさん!」


「んふ、おはよう、トリィ」


「おはようトリィ!…それと、俺はアレクでいいぞ」


「えと、分かりました、アレク」


 アレク、と呼んだ瞬間、アイリスが凄まじい顔をした気がしましたが、ここは華麗にスルーして二人にタオルを渡します。


「おお、すまんなトリィ。ありがとう」


「ありがとう、トリィ。…………………………ぁあ、トリィのにほひぃ………」


「?」


 何やらおかしな挙動のアイリスですが、たぶんこれがデフォなんでしょう。気にしないことにしておきます。


 にしても、二人ともあれだけの素振りをしていたのに、全然涼しげな顔をしていて、タオルを持ってくる必要がなかったような気がします。汗もそんなにかいてないようですし。


「お二人は、いつも素振り、というか朝練をしてるんですか?」


「ん、ああ。ここ暫くは一緒じゃなかったけどな」


「…あんまり嬉しくないけど、アレクとは剣の師匠が同じだから」


「だから、なんでアイリスは俺にキツいんだ?」


「……自分の胸に聞いてみなよ」


「俺の胸は喋らんぞ?」


 おわ、アイリスが凄い渋いものを食べたみたいになってますね。

 アレクは、昔からこんな感じだったんでしょうか。だとしたらアイリスが苦手そうにするのも分かる気がします。


 にしても、剣の師匠とは、心踊るワードですね。代々伝わる秘伝の技とかってあるんでしょうか。

 ゲームだと、主人公に師匠が居たという設定はなかった気がしますが、現実になった故の誤差ですかね。まあ、あまり私には関係ないと思いますが。


「あはは…。あの、剣のお師匠様っていうのは?」


「んー、ただの酒飲みジジイだね。トリィが気にするほどの人じゃないよ?」


「あぁ、剣の腕はこの上ないんだけどな」


「な、なるほど…」


 アイリスだけでなくアレクも渋い顔をするので、お師匠様はなかなか強烈な方なんでしょう。ただそういうのも、異世界モノの創作物だとあるあるな気がします。

 まさか、こんな人が実は最強だった!とかに当てはまるんじゃないでしょうか。


 ───カランカラン


 お喋りしていたら、寮のロビーの方から五月蝿くない程度のベルの音が聞こえてきました。

 それと同時にふわっと良い匂いが漂ってきました。


「お、飯みたいだな!」


「っ、アレクっ、耳元で急に大声出さないで!」


「ははは、わりぃわりぃ」


「ふふっ。さ、二人とも行きましょう」


 やっぱり仲の良い二人を引き連れて、私は食堂に向かいます。見れば昨日のガイダンスの時に見た顔ぶれも向かっていますね。


 さて、この世界の寮食がいかほどのものか、試させてもらいましょうか!

ありがとうごさいました。

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