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お互いの第一印象ミスらずに

ようやくヒロインちゃんが出たので読まなくても大丈夫です。

 どうも、赤目なトリィです。


 いやはや、前回はとんだ醜態をお見せしました。

 決壊したダムの如く、止まることを知らない私の激流が、ペルーティアさんの谷に川を作ってしまうところでしたね…。


 思えばあんなに泣いたことは、今生ではありませんでしたね。やっぱり我慢は体によくないです。

 今は憑き物が落ちたように、スカッと爽快で生まれ変わったような気分です。


 後で、ペルーティアさんと、故郷の両親に手紙を書いておきましょう、感謝をしたためて。



 さてさて、再び101号室に戻って参りました。

 三人部屋なこの部屋は、確かに人が3人活動するに相応しい大きさで、部屋に入って左右の壁と部屋のど真ん中にベッドが置いてあります。

 ベッドの脇には勉強机が設置してあって、どうも椅子の代わりにベッドに腰かけて使用するようです。


 照明は、魔力が封じられた魔石を使用する魔導式ですが、窓が南側にあるので日中は太陽パワーで大丈夫そうですね。


 扉側に向き直ってみれば、向かって左隅に大きめのと小さめのクローゼット。シェアしろってことでしょうか?

 逆側には、布が被せられた姿見が置いてありました。


 そして、先輩特待生の方が居るとのことで、既に右側のベッド周辺には、生活用品が整理整頓されて置いてあります。

 几帳面な人なんでしょうか?


 なので、左手のベッドかど真ん中の二択ですが、これは、左一択ですね。ど真ん中ってさすがに寝にくいですよ。

 さ、そうと決まれば、ささっと荷ほどきしてしまいましょう。


 はい、ここは特に何もないのでカットです!



 ◇◇◇



 ベッドに横たわるのはそう、トリィです。


 このベッド、全然埃っぽくなくて、ふんわりお日様を感じられます。こういうところに気が配られているのは、素直に感心できるポイントです。正直予想外。

 優しい人がいるもんですねぇ。


「んむぅ、…ペルーティアさん家のお布団も柔らかかったなぁ…」


 …ハッ!駄目です、せっかくのふわふわお布団が湿ってしまいます。

 ぐうぅ、早くもホームシックを患ってしまったのでしょうか?

 しっかりしないと…。

 ペルーティアさん家は実家じゃないですが。


 …コンコン


 扉をノックする音が聞こえました。

 え?まさか、もう相部屋の方が来たんでしょうか。それとも、先輩?

 まずいです、完全にだらだらしてました。このままでは、トリィちゃんの第一印象が「だらしない」になってしまいます!

 最初にしくじるとその後もずるずる行くのは目に見えてます!

 学園でのトリィはクールな淑女であると決めたのです。でないと、母に怒られます…。



 コンコン



「!ちょ、ちょっと待ってください!」


 何でこんな時に限って薄着になってしまったでしょうか、私!?

 このままでは、変態裸族の称号すら得てしまいます!


 ガチャ


 ああ!上着が後ろ前反対に……、て、ガチャ?



「あー、やっほー、トリィちゃん」


「ひえぇぇぇ!……って、カンナさんじゃないですか…」



 うわー、びっくりしましたよ。うーん、カンナ(おバカ)さんなら慌てる必要ありませんでしたね。

 私の中でのカンナさんの地位はなかなか低いですよ。今後の振る舞いで頑張って昇進してくださいね。


「ごめんね?トリィちゃん、お着替え中だったかな?」


「いえ、あ、いやその、は、はい…」


 違うんです、部屋だといつも薄着なんです。

 てか、これから他人と共同生活するのにこの癖はよろしくないんじゃ?


 この国では、女性はなるべく肌を露出すべきではない、という慣習がありますから、私って普段結構異端な格好を普段してるんですよね。


「もう!女の子なんだから、あんまり肌は出さないの!この寮は男の子も生活するんだから、油断してると食べられちゃうよ?」


 ん?何言ってるんですか。


「…ふっ。この貧相なボディに欲情するような奴はただの変態ですよ?」


 せっかく女の子に生まれ変わったのに、このメリハリの無い体ときたら…。


「拗ねないでー?でもでも、トリィちゃん可愛いから、ホントに気を付けてね?」


「かわっ!ほ、褒められても嬉しくないです!」


 …確かに身内贔屓、というかナルシズムですが、私って割りと可愛らしい顔ではあります。おそらく。

 ただ、体型がロリとは行かないまでも、年の割に貧相で悲しくなるような肉付きなのです。できることなら、大きな胸で肩を凝ってみたいものです。

 ちなみに、前世の私の好みのタイプは見た目も中身も包容力のある人です。


 ああ…あと身長がもう15cm位欲しい…。


「…というか、何しに来たんですか?」


 着替え中という設定を活用して、さりげなく上着を直します。

 カンナさんが生温かい視線を寄越している気がしますが、そんな事は無いでしょう。


「トリィちゃん居るか見に来たの!」


「?ここに居るのって、何かおかしいですか?」


 え、まさかこの人暇とか言うんじゃないでしょうね。ちゃんと仕事してくださいよ?

 というかこの人本当に成人してるんですか?


「んーん、大丈夫だよー。んふふ、ちょっと待っててね」


 扉からスッと頭を引っ込めるカンナさん。

 いったい何を待てと言うんでしょうか?


 というか、今日はもうNOT薄着、完全装備で過ごしますか。どうせ、同部屋の方と顔合わせするでしょうし。

 時間をかけて薄着でも違和感無いように、認識を浸透させていきましょう。もはや洗脳ばりに。


 と言っても、残すは足元のみ、すなわち無造作に脱ぎ捨てられたソックスを両足に再臨させるだけです。

 早速、右足から──


 コンコン


「?カンナさんですか?」


 開けっ放しだった扉からひょっこりとカンナさん。


「カンナさんですよー!」


 うわっ、カンナさんだ。


 そして、部屋に入ってきたカンナさんの右手には謎の荷物。

 鞄の隙間から見える物は布、服でしょうか?


 んん?私の荷物なら全て搬入済みのはずですが………って、これは、まさか!?


「おーい、こっちだよー」


 カンナさんが"廊下"に向かって話しかけ、呼び掛けるジェスチャーをすると──


「ここですか?分かりました」


 扉の影から鈴の鳴るような声。澄んでいて、でも柔らかくて聞き心地の良い音。

 その声に追随してカンナさんの後ろから現れたのは──


「紹介するね、トリィちゃん!じゃーん!この子が同部屋になる"アイリス"ちゃんだよ!」


「おお……」


 綺麗というか、可愛いというか、中間というか、良いとこ取りの整った顔立ちはまるで、お伽噺のお姫様のようで、私のような村娘なんかでは、到底太刀打ちできる相手ではありません。


 スタイルも抜群でまだ14と同じ年であるはずなのに、170cmは越すであろうその身長、手足は長くスラッとしていて、どちらかと言うと筋肉質に見えるその体つきは、まさしく健康優良児。アンバランスを許さないそのプロポーションは、いっそ芸術だと言ってもいいような気がします。

 あと、胸に谷間があるのでムカつきます。


 というかこの人、ゲーム『青空の向こうに』の女主人公ですね。


 このゲーム、プレイヤーは主人公の性別を選べるのですが、1つの特徴として選ばなかった性別の主人公が、なんと攻略対象としてゲーム内に登場するのです。

 思い返せば、女主人公のデフォルトネームは確かに"アイリス"だった気がします。

 ゲームではイラストでしたが、実際に実物を見ても、まさに絵に描いたような完成された魅力を感じます。


 さて、ここは1つ挨拶をかまして、パーフェクトな第一印象を刻み付けてやりましょう!


「初めまして!私はトリィです!これから、よろしくお願いしますね」


 ベッドから立ち上がり、力強い挨拶。

 そのあとあざとい角度に首を傾げて、満面の笑みを見せつけます。


 ふふ、このコンボを浴びて好印象を持たなかった相手はいません。幼児体型ではないですが、時には武器となるのです!




「……………」




 あれ?何の沈黙ですか?

 もしかして何かやらかしました?


「…あ、あの…?」


 ふと、アイリスさんに視線を向けると、そのアイリスさんはまるで宝石のような瞳を見開いて、私のことを凝視していました。


「?どうしたの、アイリスちゃん?」


 カンナさんがそう声をかけると、アイリスさんが気付いたのか、おもむろに両手の荷物を足元に置きました。

 アイリスさんの視線はずっと私に向いていましたが。


 え?私、何かおかしいですか?


 !あ、ソックスを右しか履いてないじゃないですか!

 ま、まさかこのアンバランスで珍妙な格好に失笑を堪えているのでは?

 ヤバい、こんななのに挨拶してドヤ顔晒してしまったんですか?

 恥ずかしい!ちょ、これじゃ私、変な子じゃないですか!?


「…………………………か…」


 ?

 アイリスさんが何か呟いた気がして、意識を向けると、不意にアイリスさんの体がぶれたように見え──


「かわいい」


 アイリスさんがいつの間にか目の前に!


「ぴゃぁ!?」


 変な声出ちゃった。


 は、はひ、何ですか?これが噂の超スピードですか?


 突然目の前に現れたアイリスさんから、距離を取るように後退りますが、後ろにはもうベッドと壁しかありません。

 後退る足がベッドに引っ掛かり、みっともなくベッドの上に仰向けに倒れます。すると、


 ガバッ!


「ひいぃっ!」


 覆い被さるようにアイリスさんが倒れこみ、私の投げ出された両手の手首を押さえつけ、それだけで身動きが取れなくなってしまいます。


 アイリスさんから垂れた銀の髪がカーテンのように辺りを遮り、もう目の前には、至近距離まできたアイリスさんの顔しか見えなくなってしまいました。


「……ぁ……ぁあ…」


 虚ろなその目が、焦点が合ってないように見えるのに、私の全部が見られているようで、僅かに乱れた呼吸が、まるで獲物を前に興奮した肉食獣のように思えて…。


 こ、怖っ。


 ひええ、美少女に押し倒されている状況は、言ってしまえばご褒美なんですが、もはや恐怖しか感じません。

 蛇に睨まれた蛙。強者を前にもはやなす術などありません。


 不意に右手が開放されました。押さえつけていたはずのアイリスさんの手が、アイリスさんの顔の横で拳を握った気がします。


 ああ、故郷のお父さんお母さん、私、ここまでのようです…。


 ヒュッ


 風を切る音。


「ひいぃぃ!!」


 目を瞑る。


 直後


 ドゴォッ!


 やっば、何の音ですか!?

 エグい音しましたけど?


 意を決して開いた視界には、アイリスさんの顔に突き刺さるアイリスさんの右手。


 って、自傷ですか!?やば、ヤバいですこの人。さっき、凄い音してましたよ?


 すると、暫くフリーズしていたアイリスさんが、何事もなかったように私に向き直り、光の灯った瞳を細めて、綺麗な唇を動かします。


「初めまして、私はアイリスだよ。これからよろしくね?」


 アイリスさんの口から、赤い滴が私の頬に垂れたとき、


「───ぁ」


 本日2度目のダムの決壊が起きました。



ありがとうございました。

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