入寮は出会いとアホさで日が暮れる
進めたつもりが、ほとんど話が進みませんでしたので、読まなくても大丈夫です。
二度寝まして、トリィです。
いやぁ、二度寝って背徳感すごいですね。短い間でしたがぐっすりです。
さて、いよいよ到着とのことで、ペルーティアさんに起こしてもらいましたが、…その小動物を見るような優しい眼差しをやめて頂けませんか?
「おはよう、トリィ。可愛い寝顔だったよ?」
「はぅあ!」
やめてください!そんなはっきり言わないでください!
「寝顔見られて可愛いって言われても、そんな、嬉しくありません!」
「あはは、怒った顔も可愛いよ?」
「ひぃぃ、やめてください!」
何なんですか!イケメン面でそんな事言われたから、お腹の奥の方がキュンって、なったじゃないですか!
顔があっついです!
でも元男ですから、イケメンには負けませんよぉ!
「もう、そろそろ到着なんですよね?もう離してもらっていいですから」
「む、あと少しなら、最後まで抱かせてくれ」
はぎゃぁ!?
も、もう私のライフゲージは0です…。お願いします、許してください。このままじゃメス堕ちしてします…。
まったく、何て台詞ですか…欲求不満なマダムも即落ちですよ。
テンションおかしくなったの、馬車に乗ってからですよね?
この馬車呪われてるんじゃないですか?
◇◇◇
そんなこんなで、ペルーティアさんのおもちゃになること数分、いよいよ学園の敷地内に侵入しました。
学園に入るとまず、正門から校舎の玄関までの間に、馬車が通行するためのロータリーがあって、その中央に学園創立者である5代目国王の銅像が、大きな校舎をバックに出迎えてくれます。
ロータリーは途中で分岐して、玄関に向かって左右の方向に道があり、右に行くと学園の裏へ回ることができます。
主に、備品や食堂で使われる食料の配達といった目的の馬車が通るようです。
対して、左の道を行けば、校舎と張り合うほどの大きな建物が見えてきます。これが今回の目的地である学生寮、の隣にある、貴族用の学生寮です。
貴族様は、天蓋付きのベッドで寝るらしいので(平民並の感想)、一人一人に与えられる部屋が非常に大きいらしいのです。平民は中に入ることすら許されていません。
侵入しようものなら、文字通り首を切られる覚悟が必要ですよ。
対して平民学生寮ですが、馬鹿デカいお屋敷みたいな建物の隣にあるせいで、まるで物置小屋かと錯覚するほどです。とは言っても小さな宿屋ぐらいはありますが。
平民寮のキャパシティは約50人ほどで、貴族寮は学生プラス使用人プラス護衛がセットで200人は生活できるようになっているそうです。
さて、ここまでの流れ分かるように、『王立アルメリダ学園』、というか『アルメリダ王国』全体の特徴のひとつとして、公共施設の敷地面積が馬鹿デカいことが挙げられます。
余談ですがここで少し、『アルメリダ王国』について話しましょう。
王国の歴史は古く、500年以上は前、周辺地域の宗教を纏めあげる総本山として大聖堂が建てられ、これを中心に街が形成されました。
その後参拝客や観光客が多く訪れ、また、これに目をつけた商人たちによって市場が形成、みるみる内に巨大な国が構築されていきました。
しかし、近隣諸国にはこれを快く思っていない国もあり、建国から僅か数年、とある国から攻撃されたのです。
当時の王国は急成長による人口の爆発的な増加によって、数はあれど、全くと言っていいほど統率がとれていませんでした。そこで当時の教会のトップ、後の初代教皇さまがが自らの長男を国王にすると宣言。初代国王が生まれ、王国としての歴史が始まりました。
国王誕生に次いで同時期に、教会で僧兵として訓練されていた人たちの中から、神の御加護を受けた女性が現れました。後に『救国の聖女』と呼ばれた彼女は、初代国王と共に指揮を執り、見事勝利をもたらしたのです。
以降王家の血に聖女の血が混じり、アルメリダ王家の下、大国として現代まで発展していったのです。
以上、余談でした。
とまあ、そんなこんなで人が集まるこの国は、それに伴ってキャパシティ増加のため、施設がどんどん大きくなっていったのです。
さあ、皆さんにどうでもいいこと語ってる内に、目的の平民寮に到着です。
馬車の窓から見える寮の外観と言えば、先に言った通り小綺麗な木造の宿屋といった感じで、前世で言うと部活の合宿先ぐらいの感じですかね。
「…あの、もう着きましたよ?」
「ん?そうか…」
「はい、もう着いたのでそろそろ離してもらって…」
あの、ギュッてしないでください。私は抱き枕じゃないです。
割りと身動きが取れないので、まだ自由な右手を後ろに回してペルーティアさんの頬をペチペチしてみます。
すると、気づいてくれたのか腕の力が緩んだので、この隙をのがさず、まるで蛇のような身のこなしで華麗に拘束から抜け出します。
椅子の角に足をぶつけてはいません。
さて、馬車を降りて先ずしなければならないことがあります。
「カチョーさん、ありがとうございました!」
「お、おう。嬢ちゃんも元気でな。あと、おっちゃんの名前はカーチョだで?」
はい。御者さんにお礼を言わなければなりません。
前世から大事にしてきたことですからね。これは、是非今生もでも続けていきますよ。
疲れた上司みたいな雰囲気が漂うカーチョさんに別れを告げ、ペルーティアさんと一緒に荷物を降ろしたあと、馬車を見送ります。
「えと、この後受付しないといけないですね」
「そうだな、荷物は私に任せてトリィは先に受付に行っててくれ」
「!そんな…あ、いや、お任せします」
自分の生活用品なので、ペルーティアさんに迷惑かけたくないですが、こういう時水掛け論になってしまうので、お任せするに限ります。
受付の窓口は玄関の右手にあって、そこで手続きをするのですが…。
受付には誰も居ませんね。ちょっと着くのが早すぎたんでしょうか?でも、事前に聞いた受付開始時間はとうに過ぎてるので誰もいないことはないのですが…。
あ、呼び鈴がありますね。鳴らしてみましょうか。
──チリンチリン
おお、意外と優しい音。
──す、すいませーん!!すぐいきまーす!!
お次は元気な音が聞こえてきました。
──きゃぁっ!?
──バタバタッ!ビターーンッ!
おおお?大丈夫でしょうか?
そうして奥から姿を現したのは、真っ赤な鼻を押さえた涙目なお姉さんでした。
◇◇◇
「ごめんね?ちょっとバタバタしちゃってて…」
開口一番謝罪してきたのは、どうやら受付お姉さんのようです。
「あ、あの、トリィと言うものですが…」
「トリィちゃん!…はいはい、聞いてますよ!えと、名簿で確認するね。…えと、名簿……名簿………」
受付お姉さんが受付カウンターに消えてしまいました。
え?この人大丈夫ですか?
見間違えじゃなければ、よだれの後があるので、まさか今まで寝てたんじゃないでしょうか?
「…あっ!あった!あったy、痛ったぁぁ!!」
頭ぶつけましたね、さては。
どうも、名探偵トリィですよ。
頭を名簿で押さえながら、カウンターから受付お姉さんがぬっと浮き上がりました。
「うぅぅ…。ごめぇん…。…ん、トリィちゃんね。うん。確認しました!はい!ようこそ、アルメリダ学園へ!!」
「あ、ど、どうも」
素晴らしい笑顔ですね。歓迎ありがとうございます。
いっそうるさいほどの元気の良さに、こちらの知能指数も下がっていく気がします。
「トリィちゃんは特待生だから…、って、特待生!?すごーい!!こんなちっちゃいのに、賢いんだねー!!あたし、尊敬しちゃうよ!」
え?やば、何この人。
想像以上のアホさなんですが。
「さあ、そんな優秀なトリィちゃんにお部屋の番号を教えるよ!」
「あの、もっとトーン落として貰えます?」
「え?何?」
「何でもないです」
ああ!会話にならない…!
「はい!トリィちゃんのお部屋はズバリ!!101号室でーす!!」
「……はあ、分かりました」
「荷物が大丈夫なら、案内したげるよ?」
完全に小さな子供扱いですね。可愛らしい笑顔なんですが、無性に腹が立ってきましたよ。
そういえば、ペルーティアさんはもう終わったのでしょうか?
とかなんとか、噂をすればペルーティアさんですね。
「トリィ、受付は終わったかい?」
「あ、ペルーティアさ「あ!ペティ!!」ん……」
うわ、うるさっ。
「ん?…!ああ、もしかしてカンナ?」
「はい!久しぶりペティ!カンナだよ!」
「あれ?もしかして感動の再会ですか?」
受付お姉さん改めてカンナさんは、どうもペルーティアさんと旧知の仲のようですね。
「よし!じゃあ自己紹介するよ!あたし、カンナ!平民寮の寮母やってるよ!よろしくねトリィちゃん!」
「よ、よろしくお願いいたします…」
新生活への不安が、だいぶどっか行っちゃいました。
ありがとうございました。