いざ行かん無能寮母と土いじり
9月中にあげられなかった…。
どっこい、トリィです。
一波乱あった昼食を無事に終え、一息つきながら今、レイシーさんと談笑しています。
一度噎せてしまったせいか、食事中レイシーさんの心配する視線を常に感じて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
案の定食べるのが遅くなって、レイシーさんを待たせてしまいましたが、むしろ嬉々としてお世話してくれた気がします。
「もしかしてレイシーさん、兄弟がいたりしますか?」
「………え?…うん、弟が3人と妹が2人…」
「ろ、6人兄弟なんですか…!」
とのことで、レイシーさんの溢れんばかりのお姉ちゃんみは、正にお姉ちゃんだったからこそのようです。
前世含めて私には兄弟がいなかったので、羨ましい限りですね。
でも、それだけの人数を養えるなんて、実家は大きなとこなんでしょうか?
「………実家で、馬を育ててるの。…主に軍馬だけど、馬車馬も育ててるよ…」
「へぇ、だったらレイシーさん乗馬できるんですか?」
「………うん、まあそこまで上手じゃないけど」
「いいですね~。私、乗馬なんてしたことないですから、憧れちゃいます」
地元は山がちで、馬で移動するには不便でした。なので、馬を育てるようなことはありませんし、たまに来る商人が連れているのを見るぐらいしか、触れ合う機会がありませんでした。
もちろん前世でも乗馬なんてしたこと無いので、死ぬまでに一度はやってみたい事の1つだったりしました。
もう、死んでしまったんですけどね!
…。
「………どっかで機会があったら、教えてあげられるよ…?少しだけど…」
「!本当ですか!?」
お、おお…!これは願ってもないことですね…。ここはお言葉に甘えて、何時になるか分かりませんが、その時には是非ともお世話になりましょう。
さて、こんな感じでゆるゆると談笑を楽しんでいると、いつの間にか増えていた人たちも少なくなり、気付けばレイシーさんと2人きりになっていたようです。
随分長居してしまったことに気付いて、お互い苦笑した後、席を立ったところで、入り口からバタバタと忙しない足音が聞こえてきました。
──バタン!
「……あ!トリィちゃん!それに、レイシーちゃん!2人ともいい所に!」
乱暴に開かれた扉から現れたのは、一度見たら忘れられない笑顔の人。すなわち、カンナさんでした。
さっきの足音から察するに、走り回っていたと思われるカンナさんは、胸に手を当てて呼吸を整えると、明るい瞳をこちらに向けて大きな口を開いたのです。
「畑を耕すから!手伝って!」
◇◇◇
駆り出されて、トリィです。
カンナさんの意味不明なお願いを聞いた後、あれよあれよという間に帽子と軍手を渡されて、着いて行った先にあったのは、寮の裏手、そしてそこに一面の草、草、雑草。
あれ?畑と聞いてきたんですが?
「………あ、あのカンナさん。…これは一体…」
レイシーさんが戸惑いを隠せずに恐る恐る問うと、まるで待ってましたかと言わんばかりに、ドヤ顔を決めたカンナさんが、恐るべき発言をしたのです。
「ここを!耕して!畑にします!」
え、えー…?
カンナさんが腕を広げて示す先に広がるのは、地面すら見えない雑草の山。一体どれだけ手入れされてなかったのでしょうか…?
しかも、割と背の高い草が大半を占めていて、レイシーさんやカンナさんはともかく、私には随分と荷が重い気がするんですが。
畑にするとは言いますが、どんな規模の開拓をすればいいんでしょうか。
見た感じかなり広いですが…。
「えっと、ここに杭があるでしょ?壁に沿って奥にもあるの!あと、だいたい直角に離れたとこにもあって、この杭の中をやります!」
カンナさんが指差した寮の壁際に、半ば雑草に埋もれた杭が顔を覗かせていて、カンナさんが言うに、これが四方にそれぞれあるらしいのですが…。
他の杭がどこなのか全く分からないので、従って範囲が分からないです。
しかし、カンナさんは私たちの動揺など気にも留めず、のんきに準備運動を始めてしまいました。
「え、あの、カンナさん。手伝うのはいいんですけど…。まさか、たった3人で、道具も無いんですか…?」
流石にそれはないと思いつつ聞いてみると、返ってきたのは謎の沈黙。
ま、まさかのまさか、そのまさかだと言うのですか…!
衝撃の事実にさしものレイシーさんも、思わず後退り。私としてもドン引きで、カンナさんを見る目も冷たくなるのは仕方ないことでしょう。
沈黙に堪え兼ねたのか、カンナさんが両手をあわあわ動かしながら、弁明を始めました。
「カンナさ「ち、違うんだよ!?さっきまで道具はあったんだよ!お手伝いさんも確かに呼んでたし!」
いや、そんな訳ないでしょう。と、心の中で突っ込んで、ジト目でカンナさんを見ていると、呆れオーラを感じたのか、カンナの目が俄に潤んできたように思います。
「あの、カ「そ、そんな目で見ないでよ!本当だもん!もう一人呼んでたはずだもん!」
もんもん言い出して幼児退行し始めたカンナさん。見た目可愛らしい女性でも、いい歳した大人だと思うと、もはや悲しく思えてきます。
しかしどうしましょう?
別に時間はあるので、手伝うのは吝かではないんですが。やっぱり道具がないと駄目ですよね。
というか、王都の施設なんですから、便利な魔道具なんかがあってもおかしくはないと思うので、それさえ見つければ結構楽なのでしょうか?
「だから、あ「カンナさん。とにかく私は手伝いますから、道具を保管している所を教えてもらえますか?」
「…ちょっと!!」
カンナさんに尋ねた時、どこからか、何処かで聞いたことがあるような声が割り込んできました。
あれ?ここには3人しかいないはず…。しかも、男性の声が聞こえます。
不意に聞こえたその声に、レイシーさんもカンナさんもキョロキョロと視線を散らしています。
「な!?い、いじめですか!?…流石の僕でも傷つきますよ…」
悲痛な叫びが聞こえた方に目を向けると、そこには荷車を牽いてきたらしい、影の薄いあの人が項垂れていました。
「………」
「………タ、タルマー先輩…」
微妙な静寂の後、レイシーさんが呟いた名前を聞いて、ようやっと輪郭が確かになったのは、寮長でもあるタルマー・ヒゼ先輩でした。
別に名前が出てこなかった訳じゃないんですけど、ね。
「はぁ……あのー、カンナさん。頼まれてた道具です。簡易耕運機はちょっと状態が良くなかっので、動くかは分かりませんが…」
「え?あ、ああ!そう!頼んでたよねー!ありがとう!…ほ、ほら2人とも、嘘じゃなかったでしょ!?」
…その様子だと、タルマー先輩に頼んだことすら忘れていたんですね…。しかし、タルマー先輩は何時からいたんでしょうか?
やっぱりこの人なら、忍者になれる才能があると思いますね。
さて、何故か得意顔のカンナさんは置いといて、タルマー先輩が持ってきた道具を確認しておきます。
荷台には、鍬と鎌と、これが耕運機でしょうか?手押し車のような形状の機械が2つありました。
さて、この耕運機は所謂、魔道具と呼ばれており、魔力の籠った魔石を燃料に稼働するものです。前世の機械と比べると、製作者の技量に依りますが、機構はとてもコンパクトになります。
燃料である魔石も、魔力を持つ生命体なら、人間でさえ体内に生成されているものであり、また、特殊な環境ではそれ単体で生成されたりする物なので、供給には事欠きません。
さらに言えば、使い終わった魔石は、ただの石ころになるので、環境にも良いクリーンエネルギーなのです。
しかし、魔道具は機械についての知識はもちろん、魔法についての知識も修めなければならず、その時点で製作できる人は少なく、多大な労力を以てして作られるので、かなりのお値段がします。
しかも、とにかく燃費が悪くて、どう効率を良くするか、魔石内の蓄積魔力量を増やせば、という研究が、長年続いているそうです。
まあ、魔石自体は腐るほどあるので、量を確保できればあまり気にすることはないと思いますが。
「…うん、良かった、動作は問題なさそうだね…。さあ、トリィさん、レイシーさん、あとカンナさん。早いとこ終わらせてしまいましょう。」
「うわーん!あたしが悪かったから、おまけ扱いはやめてぇ!」
タルマー先輩による開始宣言を戴きました。
唯一の大人は無視して、さっくり終らせましょうか。
ありがとうごさいました。




