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始まりの入学式とテロリスト

今頃魔法を使い始めたので、読まなくても大丈夫です。

 熱気ムンムン、どうもトリィです。


 アイリスの意味深な発言を不思議に思いつつも、とうとう入学式が始まってしまったので、そちらに意識を向けておきます。

 修練場は、例えるならスポーツスタジアムと言える形状をしていて、更に言うならサッカースタジアムとか陸上競技場みたいに、横長な施設です。

 前回体育館と形容しましたが、床が土だったり明らかに観客席が作られていて、単に運動や集会をするための施設では無さそうです。


 さて、体育館と思うと少しばかり大きく感じる修練場に、約200人プラスアルファが終結していて、今日は生憎の無風。更に防犯観点から窓は開けられていないため、修練場の中はだんだんと熱気が籠ってきています。すなわち──


(……あ、暑い!)


 換気も滞っているので、余計に辛いです。

 ふと、横にいる見知らぬ生徒を見れば、彼も額に汗を流しているものの、その表情は涼しげで、私の我慢が足りないのだと思い知らされた気がします。


「……ねぇ、トリィちゃん。大丈夫?」


 後ろのニアちゃんからヒソヒソと心配されてしまいました。

 振り向いて応えることのできない私は、事前に教えられたハンドサインを後ろ手に、ニアちゃんに今の気持ちを伝えることにしました。


 右手を後ろに回して、グーパーグーパーと掌を閉じたり開いたりします。このハンドサインが意味するのは──


(無理、です!)


 はい、式が始まってまだ20分経ってませんが、もう無理っぽいです。思えば、今朝も一度逆上せた気がします。

 前方に見える一段高いステージに立つ、学園長と紹介されたおばちゃんが挨拶をしているのですが、内容はほぼ頭に入ってません。

 こんな状態の私を、どのようにニアちゃんは救ってくれるのでしょうか。


 ──フワッ


「……んっ」


 おお、そよ風が後ろから吹いてきました。修練場は無風のはずなので、つまるところこれは"魔法"ですね!

 学園に来て初めて魔法に触れましたね。そよ風を起こす魔法は、この世界では基礎的な魔法に分類されていて、属性適正が無くても問題なく行使できる"一般魔法"に属します。


 勿論私も使えますが、短いものの詠唱を必要として、エアコンのように温度を調節して風を送れる訳ではないので、あまり積極的に使うものではありません。


 ただ、今吹いたそよ風の魔法ですが、私の感覚が正常ならば、詠唱は聞こえませんでしたし、そして涼しいものでした。

 ということはつまり──


(どういうことです!?)


 こ、これは凄い魔法使いが居たもんですよ!

 冷風の仕掛けは分かりませんが、詠唱が聞こえなかったのはすなわち、ニアちゃんは詠唱を省略できる技量を持っているということです!

 "無詠唱"という技術は高位の魔法使いが、長年の修行を経て身に付けるものだと、いつぞやの調査団員の一人に教えてもらいました。あの人の説明によれば、基礎的な魔法ほど無詠唱での発動は難しいということで、それはつまりニアちゃんの能力の高さを示していると言えます。


 なるほど、さすがは特待生と言う訳ですか。

 え?同じ特待生でも、私にはできませんよ?言っておきますが、私の特待生要素は知識だけですからね!



 ◇◇◇



 まだまだ続きますよ、トリィです。


 入学式が終わりません!

 ニアちゃんのおかげでだいぶ回復しましたが、再びダウンするのも時間の問題です。

 今、在学生代表の挨拶が終わったところで、続いては新入生挨拶。そう、攻略対象が一人、本年の目玉生徒の、正真正銘王子様による挨拶が行われます。


 名を呼ばれ登壇するのは、見るも鮮やかな金色の髪。透き通る白い肌に、まるで宝石のような青い瞳が煌めくその人こそ、アルメリダ王国の第二王子、"クラウス・ティガ・アルメリダ"様です。


 正面に立ったクラウス様が、白い肌に良く映える赤い唇を開くその瞬間──


「ニアっ!」


 突然のアイリスの鋭い声。それと同時に後ろに引っ張られる私は、気付けばニアちゃんの腕の中にいました。

 混乱する私に届いた次の声は、先程のアイリスと同様に鋭いアレクのものでした。


「行くぞっ!守りきる!」


「言われなくてもっ!」


 ニアちゃんの腕から振り向けば、後ろに居たはずの二人は既に見えなくなっていました。思わずニアちゃんに状況を聞こうとした瞬間──


 ──ドガアァン!


 左右からの凄まじい破壊音。近い左の壁を見れば、土煙の奥に大きな穴が開いていて、その原因であろう大きな影が見えました。


 ここにきて、ようやく私の脳内に『テロ』の文字が浮かんだのです。


「トリィちゃん!僕から絶対離れないで!」


「は、はいっ!」


 ほんわかした表情が嘘のような、真剣な目を私に向けたニアちゃんは、懐から黒い紙を取り出すと、それに口を寄せた後放り投げました。

 空中で焼け落ちるように消えたその紙の代わりに、私たち生徒を囲むように半透明なドームのような結界が張られました。


「!って、"結界魔法"!?」


「あー、トリィちゃん。僕がこれやったのは黙ってて欲しいな?」


「あっ、それは、はい」


 "結界魔法"というのは防御系統の魔法で、これもまたある程度高度な技量を必要とする魔法です。基本的に魔法によって引き起こされる現象は()()()ものとされていて、その場で同じ形を保つことは難しいと言われています。

 結界魔法はこの魔法の固定化、硬質化によって実現するもので、無詠唱ほどの難度ではないにせよ、一人前の魔法使いを証明できる魔法です。


 ただ、小規模の結界魔法であれば強度はともかく、魔法の扱いの練度が低くても使えないことはありません。

 しかし、ニアちゃんが今使った結界魔法は、修練場の内部全体を囲うように展開しています。つまり、これほどの大規模な結界魔法を張れるということは、ニアちゃんの魔法の才能を証明しているに他ありません。


 正直興奮しています。故郷に居た頃では滅多なことでは魔法を目にする機会が無く、知識と憧れと、あと前世からのロマンを持って来たこの王都で、早速こんなハイレベルなものが見られるとは思っていませんでした。


 凄くないですか!?昔やった鬼ごっこの「はい!バーリア!」が、現実にできるんですよ!?

 やはり、魔法は私たちのロマンですね。


 よし、私も特待生の端くれ、ニアちゃんほど強力な魔法は使えませんが、以前、私も私なりの魔法研究をしたのです。かの調査団の皆さんと開発したあの魔法を解禁してやるとしましょう!


「ニアちゃん!少し胸をお借りします!」


「ひえっ!ちょっ、トリィちゃん!?」


 若干の後ろめたさを感じながら、ニアちゃんの胸に飛びついて顔を寄せます。うぅ、見た目女の子なニアちゃんに対する、もはや変態的な行為ですが、これから使う魔法のためには仕方ないことなのです。

 …何だか、お花の匂いがします…。


 さて気を取り直して…。自身の魔力が細い糸であるかのようにイメージして、ニアちゃんの左胸に通していきます。


「?トリィちゃ、んっ!……?」


 他人の魔力が干渉するとき違和感を伴うのですが、ここは我慢していただきましょう。


 魔法というのはイメージがモノを言うスキルです。より具体的なイメージを持って扱うことによって、威力や強度は勿論ですが、特に精度や効率が向上していきます。


 私がニアちゃんの左胸にイメージするのは電子回路に似たもの、前世で見たコンパクトな電子回路と、ニアちゃんの回路を重ねて無駄な箇所を見つけていきます。電子を魔力に置換して、その回路の無駄を省き、効率良く、より合理的に調整していくのが、私が開発した魔法です。誰かカッコいい名前をつけてあげて下さい。


 という訳でニアちゃんの回路が見えてきたのですが…。


(うわっ、何ですかこれ?)


 そこには、めちゃくちゃに複雑な回路が見えたのです。おそらく、ニアちゃんとしてもできるだけコンパクトにまとめている魔法の回路なんでしょう。

 正直、どうしていいか分からないんですが…。


 とりあえずゴチャッとしているので、それを整えるだけにしておきましょう。テレビの液晶を拭くだけでも性能が良くなるように、魔法の回路、魔法回路でいいですね、これの絡まりをほどくだけでも効率は上がります。


「………ふぅ、どうですか?ニアちゃん」


 とりあえず、作業を終了してニアちゃんに問いかけると、何だかポカンと口を半開きにしていました。それに顔も少し赤いですし、私の魔力を通したのがまずかったですかね?


「大丈夫ですか?」


「…!っ、だっ大丈夫だよっ!それにっ、何だか体も軽くなった気がするよ!」


「そ、それは良かったです…」


 跳ねるように再起動したニアちゃん。とりあえず、体調不良ではないようです。展開されている結界も異常無いようですし、上手くいって一安心ですね。

 まあ、単に前世の知識があってこその魔法です。前例の無い創作魔法なので、慎重にやっていかないと、下手したら魔法回路がショートする可能性もあります。


 まだまだ改善の余地はありそうですが、今回はまずまずの出来映えだったので、多少胸張っても良いんじゃないでしょうか?ちょっとした、地味な効率アップですが、後からじわじわ効いてくるはずです。

塵も積もれば何とやらってことですね。


「………ねぇ、トリィちゃん。さっきの気になるから、後でいろいろ教えてね?」


「え?あ、はい」


 そう言ったニアちゃんは、何故だか焦ったような顔をしていました。

ありがとうごさいました。

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