導入を延ばして叩いて長くする
プロットもスタックもないエタる気満々の見切り発車的爆笑小説なので読まなくても大丈夫です。
「トリィ!お願い、私を癒してっ!」
「は、離してください!」
どうやら今日もヒロイン様は絶好調なようです。
「ん、…はぁぁ、柔らか…いい匂いぃ…」
「ひいぃ!いい加減にしてください!」
とても絶好調です。
◇◇◇
どうも。一般村人のトリィです。
クンバと呼ばれる小さな村に産まれた私は、所謂"転生者"というヤツで、前世の記憶を引き継いでいます。
人間いつ死んでしまうか分からないもので、前世の記憶の終点は丁度23歳の誕生日でした。けど、何で死んだのかが分かりません。
誕生日とはいっても一人暮らしだった私には、祝ってくれる人もいなくて、特に浮かれるようなこともなくその日は就寝したはずなのですが…。
ともかく、今はこうして異世界で新しいスタートが切れたわけで、ここはもう割り切って一般村人として悔いの無いよう長生きしたいと願っています。
が、さしあたって立ちはだかった壁、人生何が起きるのか、2度目ともなればまさに小説より奇なり。前世、男だった私は、今生ではなんと女として産まれたのです。
今生にて物心がつく頃に前世の記憶を思いだし、性別の違いを自覚したときは、我ながら素晴らしいアホ面をしてしまいました。
おそらく性転換モノ定番の「無い!?ある!?」を、まさか自分がやるとは。
男だった頃の意識があるためか、油断するとすぐ俺とか言ってしまって、親からはかなり厳しく淑女とはなんたるかを叩き込まれてしまいました。
村娘だとしても粗野な言動はあまりよろしくないようです。
12年も経つと、口調や身のこなしに関しては随分矯正されてしまいました。
けど、いずれ何処かに嫁入りすることになると考えると、どうしても抵抗感、違和感を持つくらいには、まだまだ前世の男の意識がメインです。
いくら女の子になったからといって、男とプロレスごっこするのはちょっと… 。
まあ結局のところ、前世の記憶があって今生のトリィですからね。女の子寄りにはならないでしょう。
親には申し訳ないですが、孫に期待しないでくださいね。
さて、そんな私ですが、いつの間にやら、どうやら王都へ向かわなければならないようです。
原因はおそらく2つありまして、1つは私の能力に依るものです。
別に超能力があるとかじゃありませんよ?
前世の記憶を持つということは前世の知識があるという訳で、そりゃもうこんな小さな村ではやれ天才だ神童だと持て囃されました。
まあ、確かに10もいかない幼女が、大人でもパッと解けない計算をサクッと解いてしまうのは、この世界の人たちからは考えられないのでしょう。
前世の算数がこの世界では数学レベル、みたいな感じでしたね。
ただ、商人さんなんかの、計算してなんぼじゃ!みたいな人たちは算盤片手に恐ろしい速さで帳簿をつけていきますよ。
とにかく、この世界において学問とは金持ち商人や貴族なんかが修めるのみで、私みたいな一般村人は字が多少読めればそれだけで十分とされる世界です。
商人さんは算盤術必須なのでそれだけは最低でも勉強するみたいですが。
ただ、賢く優秀な人材は王宮なんかに引き抜かれて、市民から貴族に成り上がった人たちもいたりしますから、野心や可能性があれば平民でも勉学に励むことはあるようです。
メジャーでは無いですし、出る杭は打たれますけどね。主にお金で。
ともかく私はその可能性枠として村全体から期待されているようで、村長やそれこそ私の親から、王都にある学園に行くことを度々推められました。
村長はともかく、親に関しては入学の費用とかちゃんと考えているのでしょうか?学園に行っても大成するか分かりませんし。
そして2つ目ですが、今、村の南にある山に王都の調査団の方々が、金が採れるのだ、と調査に入っているようで、10名ほどですが我がクンバの村を拠点に活動されています。
どうやら、この調査団の副団長さんが王都の学園関係者とお知り合いのようで、村長が私を紹介したところ、
「確かに、なかなか聡明な子ではないか」
とのお声を頂き、なんと入学へ便宜を計って頂くことになりました。
私、決して行きたいと言って無いのですが、期待を裏切りたくはありませんし、この世界の学校がいかがなものか興味もあったので、入学することを決意しました。
特待生なら学費免除らしいですしね。
しかし私、その学園の名前を聞いたとき大事なことに気がついたのです。
その学園の名は『王立アルメリダ学園』。
多くの若者が将来を夢見て勉強するそこは、前世の人気恋愛ゲーム『青空の向こうに』の舞台だったのです。
◇◇◇
さて、今年で14歳になるトリィです。
現在地は件の学園の正門前です。
というのも、実は今日『王立アルメリダ学園』入学試験の合格発表がされるんです。
いやー、入試ってすごいドキドキしますね。前世を思い出します。高校入試のとき、入試会場で隣に居たのがハーフの子で英語で何か喋っていたのを聞いてビビってました。
偏差値少し高めで身の丈に合ってないかなーなんて考えてた矢先に、ですよ。でもハーフの子が隣にいるとまるで自分も英語喋れるようになった気分になって、謎自信が湧いた私は謎の高得点を取ったのです。
それはさておいて、私が王都に入ったのは20日ほど前です。
帰還する調査団に便乗させてもらって王都に入りましたが、やはり故郷の村と比べると凄まじい人の多さですね。
おのぼりさんになってしまいました。
あ、後初めてスリに会いました。こう、人混みに紛れながら私のポケットを探っていたっぽいですが、事前にスリ対策を調査団の皆様に教えて頂いたので問題ありませんでした。
私の華麗なスリ捌きによって、財布も中身も無くなっていません。
でも意外とスリって、胸ポケットとか大胆に触ってくるんですね。もっと、接触もなくすれ違い際にスッと財布が消える手品な感じになるかと思いましたが、きっと私の方がスリさんより上手な身のこなしのせいなんでしょうね。
私の才能が恐ろしいです。伊達に2回も人生送ってませんから。
また、話が脱線してしまいました。
王都に着いて10日後、早速入試がありました。もちろん事前の対策勉強はばっちりで準備万端、意気揚々とテストに臨みました。こちらも調査団の皆様にご協力頂きました。全くもって恩しかありませんね。
そして、目指すはもちろん学費免除の"特待生"です。
因みに、ゲーム『青空の向こうに』では、特殊な加護を得た主人公が特待生に選ばれることで物語が始まります。
つまり、順調に私が特待生になればその主人公さまが同級生になる可能性があるわけです。
ゲームにおける時代と今の時代が違っていればこのようなことはあり得ないのですが、どうやら今年は"王子さま"が御入学されるようで、もちろんゲームの登場人物の1人と同じ方でした。
王子さまがそんなポンポン入学してくるわけ無いので、間違いないでしょう。
まあ、どうなるか分かりません。入試は正直ぬるゲーでしたが、貴族様方のご機嫌次第では特待生枠が減少するおそれもあるみたいですから。
面倒そうなら極力関わらなければいいですからね。私はモブになりましょう…。
…さて、どうやら発表が始まるようです。
受験者には番号の刻まれた木板を渡されていて、正門前に掲示される合格者番号の中に木板の番号があれば合格です。
いや、ドキドキもんですよコレ。
私は18番ですから、まず特待生合格枠を確認して……、あ、ありましたありました。
ここで落ちてたら本当にヤバいですからね。
貴族様方には本日以前に直接合否が伝達される仕組みのようなので、今日発表されているのは基本的に平民の受験者が対象です。
どうやら、平民の特待生は私を含めて4人いるようですね。主人公さまは一応チート設定なのでいいとして、平民特待生が更に2人もいるとは。ゲームでもそうでしたっけ?
まあ、実は特待生に選ばれる要因は何も勉強だけではありません。主人公は加護持ちを保護するためですし、過去には滅茶苦茶強いってだけのスラム出身の方がいて、卒業後騎士団所属、今や王国騎士団のトップになった事例も。
一番簡単なのはお金ですが。
さて、受かったと分かれば合格者ガイダンスを受けた後、故郷に手紙を書いて報告、入寮の手続きと荷物の搬入、とやることは沢山ですね。
あ、副団長にも報告しないといけませんね。
何はともあれ、これから私の学園生活が始まるのですよ。
ありがとうございました。
次話投稿頑張ります。