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夢現闘争(更新停止中)  作者: ポピー
第一章
5/12

潮風な日々2

すっかり3月になって少し暖かくなってきましたね。季節の変わり目は体調を崩しやすいのでくれぐれもお気を付けください。それでは本編です。


 醒技達は昼食を食べ終えると、明日風は満足そうにお腹を擦る。


 「ふぅ~!茜さんの温かい気持ちが込もった味がしました!!」

 「明日風ちゃんが手伝ってくれたお陰よ?」


 醒技は明日風のおぼんの上に乗っているものを自分のおぼんの上に重ね、茜も同様に灯のおぼんの上に乗っているものを重ねた。


 「さて、そろそろ行くよ。今日はあんまり時間に余裕がなさそうだ」


 醒技と明日風は立ち上がって、醒技はおぼんを持とうとする。


 「あっ、そのままで大丈夫ですよ。灯、お願いね」

 「はーい」


 やんわりと返事をした灯は醒技が持とうとしてたおぼんを自分の近くに寄せる。


 「灯、頼むな」

 「これも仕事の内ですから」

 「そうか、行くぞ明日風」

 「はい!」


 元気よく返事をした明日風は障子を開けると、手のひらを上にして醒技に道を譲る。


 「どうぞ……!こちらお出口となっております……!」

 「何をしてるんだ?」

 「ちょっと真似してみました!」

 

 それを見た茜はフフッと笑い、灯は右の口角が上がる。


 「また時間があるときに一緒にお昼ごはん食べましょうね?」

 「うん!ありがとうございました!」


 優しく微笑む茜の笑顔を見た明日風も、同じく笑顔で手を振り座敷を後にした。


 醒技達が扉を開け外に出ると、噴水の周りが賑わっている。


 今日は非番の漁師や夕飯の買い物に行く主婦など様々な人々が集まり、静かだった朝とは打って変わって、町全体が活気づいている。


 醒技は噴水の傍に建てられた時計を見ると、針は短針と長針が重なりちょうど正午を指している。


 「とりあえず、いつも通りリスターに向かうとするか」

 「その後に山寺さんのよろず屋に行くんですよね?」

 「訓練場に寄ってからな」

 「よぉし!今日はいつも以上に頑張らなきゃ!」


 そうやって話している2人は、「灯大」の前に位置する「リスター」と書かれた看板のある建物の前に着く。


 扉には「CLOSED」と書かれた看板がぶら下がっており、足元には店をライトアップするための小さな照明が設置されている。


 明日風は走り出して勢いよくドアを開けた。


 カウンターの向こうには酒瓶が等間隔に置かれており、その隣には小さなワインセラー、ビールサーバーが酒場の雰囲気を作り出す。


 そしてその前には1人の女性が立っている。肩をさらけ出し、白い服、緑色のミニスカートを着ている色っぽい女性が明日風を迎えた。


 「いらっしゃい明日風ちゃん」

 「麗香(れいか)さん!こんにちは!」

 「今日も元気いっぱいねぇ~その調子でお手伝いよろしくね?」

 「任せてください!」


 明日風は、麗香がすでに用意していたモップを持ってテラスに駆け出す。


 テラスには小さなテーブルと背もたれのある椅子があり、夜には暗い海の潮騒(しおさい)を聞きながら穏やかな時を満喫できる。


 「空の~向こうには~何かが~あってぇ~」


 モップを掛けながら1人で口ずさむメロディーが響き渡る。


 「答えを~求めて~空を~見上げる~」


 醒技は明日風が入って少ししてからゆっくりとドアを開けて中に入る。


 「騒がしくて悪いな」

 「いいのよ、いつも元気を貰ってる」


 麗香はカウンターの後ろにあるワインセラーでワインを厳選しながら、横目でルンルン気分で歌いながらモップ掛けをしている明日風を見て醒技の方に振り返る。


 「いつもより張り切っているわね、誕生日だからかしら?」

 「覚えていたのか」

 「大切なお客さんの事だもの。それくらい全部覚えているわ」

 「そうか、ありがとう」


 醒技は台布巾でテーブルを拭く。


 この酒場にある2つの丸いテーブルはだいたい別の大陸から来た人たちがこの席に着き、旅の疲れを癒し、英気を養う。


 醒技がその周りに設置されてある丸い4つの椅子を拭き終わり、もう一つのテーブルを拭きにかかったところで麗香が声をかける。


 「そういえば醒技くんの誕生日っていつなの?」

 「忘れたよ」

 「そう」


 テーブルを拭きながら答えた醒技が、間もなく椅子を拭き終える。


 醒技は室内のテーブルを拭き終わったので、テラスへ向かおうとしたところを麗香に呼び止められる。


 「醒技くん、ちょっと………あった!これこれ!」


 麗香はカウンターの上に桐箱(きりばこ)を出す。中を開けると透き通った緑色をした瓶が姿を現し、ラベルには「自由次第(じゆうしだい)」と書かれている。


 「明日風ちゃんと一緒にお祝い出来てちょうどいいから、あなたの誕生日も今日ということでいいでしょ?」

 「……麗香も知っているだろう?俺は酒を飲んだことがない」

 「大丈夫よ、これは初めての人にもオススメ出来る銘酒。値はそこそこ張るし、そう簡単には手に入らない代物なんだから」

 「そんな高価な物なら余計に受け取れないな」

 「今日は給料を払わないわ、その代わりにこれをあげる」

 「……飲まないかもしれんぞ?」

 「はいはい」


 少し嬉しそうな麗香は桐箱に瓶を閉まった。


 醒技はドアを開けてテラスへ行くと、柵に両手を付けて水平線の向こうを眺める明日風の横に並んだ。


 「どうした?」

 「ひなたぼっこ中です……」

 「仕事中だぞ?」

 「はいぃ~……」


 明日風はモップを持って潮風に煽られるようにフワフワと室内に戻ると、醒技は先ほどと同じようにテーブルを拭き始めた。


 明日風が室内に戻ると、カウンターの上に乗ってある桐箱に気づく。


 「おぉ!それなんですか!なんですか!」


 眠そうな目をパッ!と開いて、本能の赴くままにカウンターに近寄る。


 「これは醒技くんにあげるお酒よ、明日風ちゃんはこっち」


 麗香はピンクのリボンが付いた小さな袋を明日風に手渡す。


 「クッキーだ!ありがとう!麗香さん!お掃除頑張る!」


 明日風はクッキーをポーチの中に仕舞うと部屋中をモップを持って駆け回る。

 

 しばらく駆け回り、そろそろ終わりそうなタイミングで明日風は麗香に尋ねる。

  

 「そういえば、醒技はもうそのことを知っているのですか?」

 「えぇ、受け取ってくれるみたいよ」

 「えぇ!?よく素直に受け取ってくれましたね!何をしたんですか!」


 明日風はカウンターに身を乗り出して麗香に詰め寄る。


 「ふふ、大人のテクニックよ」

 「お、大人のテクニック……!」


 麗香は前のめりになった明日風の唇を人差し指でそっと押す。


 「体がムズムズするぅ……!!私にも!私にも大人のテクニックを教えてください!!」


 明日風はワクワクする気持ちを抑えながら、全身をプルプル震わせる。


 「ゆっくり引いたり……」

 「うんうん!」


 明日風は素早くモップを自分の身体の近くに引き寄せる。 


 「ゆっくり押したり……」

 「はいはい!」


 明日風は腕を目一杯伸ばしてモップを自分の身体から遠ざける。


 「最後に大胆に押し押し通すのよ」

 「おぉ!!」


 体制を維持しながら、3度前進した明日風は閃いた。


 「剣の心得に似てる!!」

 「へぇ~どんなの?」


 明日風は嬉しそうに答える。


 「醒技がね『静を空に、動を波に学べ』だって!!」

 「あの人らしいわね、どの辺りが似てると思ったの?」

 「砂浜に打ち寄せる波に似てるなって!」

 「ロマンチックねぇ~」

 「ロマンチック!!」


 テラスの方のドアが開いて、掃除を終えた醒技が室内に入ってくる。


 「もう掃除は終わったのか?」

 「あぁ!まだ終わってないです!」


 明日風は慌てて掃除に戻る。


 「ロマンチストな人が帰ってたわ」

 「どういう意味だ」


 醒技は、麗香に台布巾を返した。


 「剣の心得教えて貰っちゃった」

 「あぁ、そういうことか……剣を使いたいのか?」

 「いや、遠慮しておく」


 醒技達が取り留めのない話をしていると、明日風はビシッと敬礼をする。


 「終わりました!!」

 「ご苦労様、モップは元にあった場所に戻しておいてね」

 「はい!」


 明日風はモップを元の場所に戻すと、麗香は桐箱を取って付きの布袋を醒技に渡す。


 「このあとはいつも通り練習しに行くの?」

 「そうだな、今日は敬二に呼ばれてるからあんまり長くは出来ないかもしれんが」

 「そう、頑張ってきてね」

 「あぁ」


 醒技は布袋を受け取るとドアを開けたままにして明日風が出てくるのを待つ。


 「麗香さん!また明日!」

 「明日風ちゃんも頑張ってきてね」


 右手を横に振りながら店を出る明日風に麗香は小さく右手を振って見送った。  

 



 


 

 



前回に引き続き胃の不調をまだ引き摺っておりまして……前回以上におかしなところがあるかもしれませんので、そちらの方はご指摘いただけると幸いです。それでは、失礼します。

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