潮風な日々
遅くなりました。胃の調子の方がだいぶ治ってきました。まだ治りきってはいないのですが、ペースの方は徐々に上げていけたらなと思っております。前置きの方が長くなりましたが、それでは本編です。
木製のアーチ状のゲートをくぐると、心地よい潮風が2人を迎える。赤レンガ造りの家が軒を連ね、町の中心には噴水があり、それを囲むようにして4つのベンチが置かれている。
街並みを歩いていると、船の汽笛が町中に響き渡る。
この町では3隻の小さな漁船が出港の合図として鳴らす汽笛で朝を迎える。昼にはいろいろな店が開店し、それに向かう人、ベンチに座って世間話をする人などで賑わう。夕方には漁船が帰ってきて、埠頭の方で競が行われる。夜には海沿いの酒場で朝まで飲み明かす事もあり、倒れて動けなくなった人が向かいの宿屋に運ばれる事も少なくないとか。
……とにかく血気盛んな町である。
醒技達が中央の通路を歩いて噴水に差し掛かろうとした辺りで1人の少女に声を掛けられる。
「今日は随分と遅かったんですね?」
「あぁ、ちょっと寄り道してたからな」
「灯さん!田島さんのところに行ってきました!」
話かけてきた灯と呼ばれた少女は、露店で出来立てのパンや瓶に入った牛乳などを売っている。裏にある宿屋から1分もかからないので、すぐに焼きたてのパンを持ってくることができ、町では朝ごはんをここで済ます人も多い。長い茶色の髪の毛にピンクのエプロンを着ており、胸には「灯大」と書かれた名札をしている。
「俺は宿の方手伝ってくるから、灯の店番でも手伝うなりなんなりしといてくれ。灯も明日風を頼む」
そういって、醒技は噴水を右に曲がって宿屋の方に向かっていった。
「醒技さんも心配性よね~」
「ホントですよ!今日私誕生日なんですよ!1歩大人への道を歩んだって言うのに!!」
「もう一通り終わったから手伝ってもらうようなことが無いわ……はい、お姉さんからのプレゼント」
灯は、手のひらより少し小さい特に変わったところのない普通のパンを差し出した。
「これはね、『大人パン』っていうのよ?」
「大人パン……?普通のパンに見えますけど……?何か変わったところでもあるんですか?」
パンを半分に割って、中身を確かめようとする明日風の手を灯は掴んで止める。
「……どうして止めるんですか?」
何かを疑う目つきで、灯の方をマジマジと見つめる明日風に灯はこう答える。
「中身に何が入ってるか分からないおみくじのようなパンだから中身を開けられちゃ困るのよ」
「ふ~ん……まぁいいや!せっかく貰ったし食べちゃお!」
明日風がそのパンの半分をかじって、口の中で大きく一回噛むとあんこの味が口で広がった。
「あっ、あんこ味でし――」
3回噛んだところで、明日風の口に中で異変が起こる。
「あぁぁぁあ!!これぇ!!わさびぃ!!!辛いやつぅぅ!!!!」
明日風が涙を流しながら悶える様子をみて、灯は少し口を開けて笑っている。
「ふふ、明日風ちゃんが誕生日なのを覚えておいたから事前に用意して――」
――気が付くと灯の口の中に例の大人パンが入っていた。
明日風は涙を流しながらもしたり顔で、両手で灯の頭部と顎を押さえて口を開けないようにする。
「よく噛むんですよ!解毒効果もあるらしいです!非常においしいです!!」
涙ながらにその味を訴える明日風が語る大人パンはおいしい筈もなく、灯も明日風同様涙を流している。
「わさびこっちに偏ってた!!痛い!痛い!!」
2人の悲痛な叫びは周囲をこだまし、息を吸ったり吐いたりを何度も繰り返した後に、灯は自分の露店で出していたイチゴ牛乳に左手を伸ばし、蓋を開けて口の中に流し込む。
「ずるい!ずるい!!ずるい!!!」
横で騒ぐ明日風に灯は、イチゴ牛乳を飲みながら右手でもう一本取ると、明日風の方にグイグイと伸ばす。明日風はすぐに蓋を開けて、両手でそれを持ち一気に飲み干した。
「灯さんのせいで酷い目に遭いました!灯さんなんか嫌いです!!」
そっぽを向く明日風に、灯は別のパンを取り出して、明日風の肩をトントンと叩く。
「ごめんなさいね、こっちが本命」
明日風は横目でチラッとそのパンを見ると、ホイップクリームが真ん中にあり、それの周りを囲むように刻んだバナナが花びらのように並べられているパンが目に入った。
「……信じてもいいんですね?」
「今度は大丈夫よ、心配しないで」
「もしこれがまたさっきみたいなものなら海に突き落としますからね……?」
灯からそれを受け取ると、目を細めてジーッと眺める。それをほんの少しずつチビチビと食べて覚悟を決めて3分の1ほど一気に食べる。
口の中にチョコとホイップクリームの甘さが広がり、ところどころバナナの風味が合わさる。まさに至高の一品を味わった明日風は一口、もう一口食べ、3回でそれを食べきり、満足そうな顔をしている。
「どう?『チョコバナナホイップパン』は?」
「すごく美味しかったです!灯さん大好きです!!」
「気に入ってくれたようでなによりだわ」
満足そうな顔をしている明日風は、ふと我に返り考え事をし始める。
「……さっきの大人パンって大人パンじゃないですよね?」
「どうして?」
「醒技が言ってました、大人は自分の事をいちいち大人だって主張しないって……こういうことだったのか」
「あぁ……あの人ならそういうこと言いそうよねぇ……」
醒技は、長い煙突が特徴的で、屋根には木製の看板に「灯大」と黒い文字で書かれた家の扉を開ける。
中に入ると、正面には大きく『安全第一』と書かれた掛け軸がかかっており、その下に先が丸い花が生けられている。すぐ右にある階段は、2階に続いており、左にある扉はトイレになっている。
通路の左にある襖の先から、騒ぎ声が玄関に響いているが、その声を聞き流し右に曲がって紺色の暖簾をくぐる。
その先は広い厨房に繋がっていた。銀色の長机が真ん中に置かれており、フライパンやまな板、色々な調味料や食材が並んでいて、周りに椅子が2脚置かれている。その奥の台所には、茶髪の髪の毛に、青いエプロンを着た女性が立ちキャベツを包丁で切っている。
「茜さん、すまない遅くなった」
「あぁ!醒技さん!心配したんですよ!!……何か事故にでもあったのかもしれないって……」
そう言いながら茜は両手を上下にブンブン振り回す。その右手にはしっかりと包丁が握られている。
「あぁ……これからちょうど事故に遭うかもしれん」
「えぇっ!?そんな!?私、どうしたら……」
醒技は更に腕をブンブン振り回し、パニックになる茜の右手を掴むと、包丁を取り上げてまな板の上に置く。
「これでもうしばらくは事故に遭わないで済むな」
「あっ……包丁を置くように言ってくれれば良かったのに!」
事の顛末を知った茜は安堵の溜息をつく。
「それで、今どんな感じだ?」
「えぇっと……お風呂の掃除がまだ出来てないのでお願いします」
それを聞いた醒技は、先ほど襖の先から大きな騒ぎ声が聞こえてきたのを思い出す。
「今日は客が多いんじゃないのか?」
「いえ、4部屋のうち1部屋も使ってないですし、風呂は私達が使ったので、女湯の方だけお願いします……お湯はもう抜いてありますんで」
「あぁ……とりあえず行ってくるよ」
「いつもお世話を掛けます。それじゃあお願いしますね」
優しく微笑む茜は、軽く頭を下げると、醒技はキッチンを後にする。階段を上り、途中にある踊り場の部屋に入る。
正面に窓が一つ存在する。窓は開いており、部屋に冷たい空気が流れている。窓の側に立てかけてある緑色のデッキブラシ、スポンジ、洗剤の入った霧吹きが入っている青いバケツ以外一切何もない。殺風景な物置部屋に入ると、醒技はそれらを持って用は済んだとその場から立ち去る。
2階に上がり、4部屋の客室を開ける。特に使われた形跡がないことを確認し、そのまま浴場に向かった。
男湯と女湯の間に「ご自由にお使い下さい」とかかれた札を裏返し、「清掃中」と書かれたほうを表にすると、女湯の方に入る。脱衣所にバケツを置き、中から霧吹きを取り出すと、デッキブラシを持ったまま浴場に入る。
浴場に入ると、男湯と女湯を隔てる6mはある壁の上にある天窓から光が差し込み、浴場の全体を照らす。夜になると電気をつけるが、朝と昼はつけなくても十分に明るい。椅子とシャワーが4つずつ並び、そのもとにシャンプーとボディーソープが2組配置されていいる。浴槽の近くには桶が下に2つ、その上に1つ乗っており、小さな山を作っている。
醒技はまず、補充しないでいいかシャンプーとボディーソープの残量を確認する。お湯がない浴槽に霧吹きを吹きかけ洗剤を床全体に撒くと、緑のデッキブラシで擦る。少しずつ確実に、丁寧に黙々と進め、一通り床をデッキブラシで擦り終わると、排水溝に向けてシャワーで洗剤を流す。
先に壁に洗剤を撒くと、一度脱衣所に戻ってデッキブラシを置き、バケツに霧吹きを入れスポンジを取り出す。今度は壁に洗剤を撒きスポンジで擦り始める。ちょっとずつ着実に、冷静に淡々とこなす。続けてシャワーヘッド、桶を擦ってまたシャワーで洗い流し、排水溝の上でスポンジを絞った。
浴場を出てスポンジをバケツの中に入れる。デッキブラシ、バケツを持ってそのまま物置部屋に行き、デッキブラシを立てかけ、バケツを置くと、厨房へと戻った。
「醒技さん!さっき外から灯たちの叫び声が聞こえたんですが!!大丈夫ですかね!?」
「ん?たぶん、大丈夫だろう」
醒技は、左目を閉じて明日風達がいるであろう方向を凝視すると、左目を開けて2回うんうんと頷いた。
「うん、大丈夫みたいだな」
「……もしかして見えてるんですか?」
そう聞かれた醒技は、少しの間沈黙して答えた。
「あぁ……おおよそな」
しばらくして、茜は1つ椅子を引いて椅子に座るように促す。醒技は黙って椅子に座り、茜は奥の椅子に向かい合って座った。
「あんまり無理をしないで、適度に身体を休めてくださいね。はい、今日の分。300メルね。」
茜は銀色の硬貨を3枚机の上に置いて醒技に渡そうとする。が、醒技はそれを受け取らなかった。
「今日は30分も働いてないから、そんなに受け取るわけにはいかない」
「いいのよ、本当はもっと出せたら良いんだけどね……これでも、他の所と比べると半分にも満たない額なんだから」
そう言われた醒技はしぶしぶお金をコートの右ポケットにしまう。
「今日、明日風ちゃん誕生日なのよね?」
「あぁ、今日で16だ。」
醒技達が厨房で話していると、玄関の方から明日風達の声が聞こえる。
「お母さん、ただいま」
「おかえりなさい、灯」
灯が厨房に入ってくると、そのあとに明日風が後ろから元気よく入ってくる。
「茜さん、こんにちは!」
「あら、明日風ちゃん!誕生日おめでとう!」
明日風は茜に対して、笑顔で右手を伸ばしVの字を作る。
「今日で16です!どうです!もうなんでも出来ますよ!」
「そう?じゃあ、今日は昼ごはんごちそうしちゃうわ!」
「やった!!」
「その代わり!ちゃんと手伝ってもらうからね!」
「はい!」
喜び、はしゃいでいる明日風とは反対に、醒技は微妙な反応を見せる。
「いや、しかし――」
「灯!醒技さんをお座敷にお通しして!」
「はいはい、ほら醒技さん立って」
明日風は台所に向かうと、醒技は大きく息を吐き、立ち上がる。
「1名様、ご案内ってね」
「灯……お前分かっててやってるだろう」
醒技は、灯に連れられ厨房を出る。すると、白いセーターに灰色のジーンズを着た1人の男が宿から出ようとしていた。
「おぉ、灯ちゃん、ごちそうさま!今日も美味しかったよ」
「ありがとうございます。母も喜びます」
「今日は醒技君も一緒か!」
「町長、ご苦労様です」
醒技は男に向かって頭を下げると、男は苦笑いで答える。
「相変わらず真面目だな、私の事は河崎と呼んでくれていいと言ってるのに」
「いえ、そういう訳にはいきません」
面と向かってそう言い切られた河崎は、右手で頭を掻いて少し笑うと参ったなという表情をしている。
「この後はいつも通り、『リスター』に行くのか?」
「そのつもりです」
「さっきまで山寺と一緒だったんだがな、あとでよろず屋の方に寄ってほしいそうだ」
「そうですか、分かりました」
「確かに伝えたからな、しっかり頑張れよ!」
河崎は醒技達に背を向け、右手を上げヒラヒラと振ると、扉を開けて宿から出ていった。
「さて、行きますか」
灯は襖を開けると、障子がずらりと並び、座敷も客室同様4部屋存在する。天井にある小さな電球が、ぼんやりとした橙色の明かりを放ち、廊下全体を照らす。手前から赤、青、黄、緑の行燈が足元を照らし、緑色の行燈の手前に立つと、手のひらを上に向けて部屋を差す。
「こちらでございます。どうぞごゆっくり」
灯にそう言われた醒技は、少し笑って靴を脱ぐ。
「随分板に付いてきたな」
「まぁ、もうやり始めてそこそこ経ってますからね」
醒技が障子を開けると、畳が広がる床の真ん中に掘りごたつがある。その周りには、座椅子が4つ置かれており、その上に紺色の座布団が設置されていて、和やかな趣の部屋になっている。
灯が部屋の電気を点けるためにスイッチを押そうとすると、醒技はそれを止める。
「そこの障子を開ければ点けなくてもいいんじゃないか?」
「え……う~ん……」
灯が障子を開けると、廊下の明かりが座敷にほんの少し入り、部屋の手前のほうをうっすらと照らすも、奥の方は明かりが届いておらず暗いままの状態が続いている。
「まぁ、飯を食べる分には充分だろ」
そう語る醒技を無視して、灯は黙ってスイッチを押した。
「何で押したんだ?充分明るかっただろう?」
灯は溜息を吐いた。
「料理の見栄えとか、気にしたことあります?」
「今朝は少し気を使ったが……」
「それに、さっきお母さんから無理するなっていわれたんじゃないの?」
「聞いていたのか?」
「お母さんの事だから、それぐらい分かりますよ」
灯は逆さまにして置いてあるコップを2つ取り、ウォーターピッチャーで水を注ぐ。醒技はそれを受け取ると、一言礼を言った。
「そういえば、今日は茜さんに殺されかけたなぁ」
「パニックになって包丁を握ったことを忘れて腕を振り回し続けたとか?」
「……本当になんでも分かるんだな」
「お陰様で反射神経が良くなりました」
「なるほど、そういうことか」
2人が談笑していると、醒技はコップに手を伸ばして水を飲む。
「あれでもお母さん、本当に心配してて、何か事故にでもあってたらとか、何か無茶なことしたんじゃないかってずっと1人で言ってたんですよ」
「茜さんは心配性だなぁ……」
茜は心の中で、人の事言えないけどねと密かに思った。
台所に立つ明日風は、ワクワクしながら茜の指示を待つ。
「何か食べたいものとかある?」
明日風は首を横に激しく振る。嬉しそうな明日風の様子を見た茜は、笑いながらメニューを決める。
「じゃあ、ハンバーグにしようか!」
「いいですね!ハンバーグ!」
茜は冷蔵庫から銀のトレイを取り出すと、それを明日風に渡す。その上には、すでに形が整ったハンバーグのたねが4つ乗ってある。
「型が出来上がったものしかないから焼くだけになっちゃうけどいい?」
「分かりました!」
茜はフライパンをコンロの上に置き、スイッチを捻って火を付けた。
「はい、もういいわよ」
「んふふ……」
明日風は手を石鹸でよく洗い、トレイから素手でハンバーグのたねをフライパンに置く。ジューッ……と音を立ててその場を盛り上げる。もう1つもフライパンの上に置くと、更に音を立ててお祭り騒ぎな雰囲気を醸し出し、心を躍らせる。
茜はその間にご飯茶碗、ハンバーグを乗せる大皿、箸、それらをまとめて運ぶ木で出来たおぼんをそれぞれ4つずつ用意すると明日風に話しかける。
「そういえばさっき、叫んでたけど何かあったの?」
「灯さんが誕生日にチョコとかバナナとか、クリームが乗ったパンをくれましたよ!まぁ、他にも色々あったんですけど……」
「心配したのよ?醒技さんがここから確認してくれて大丈夫だって言ってたけど……」
明日風は焼いているハンバーグをじっと見つめて息を呑む。覚悟を決めて、右手でハンバーグを掴むとそれをひっくり返した。
「あぁ!!熱い!熱い!!」
ハンバーグはひっくり返ったものの、明日風は予想以上の熱さに目に涙を浮かべ右手をブンブン振って冷まそうとする。
「何やってるの!?」
「素手で入れたからひっくり返すのも素手でやるのかなって思って……!!」
茜は、トングでハンバーグを掴んでひっくり返す。
「こうやってひっくり返すのよ?次からは気を付けてね?」
「うぅ……」
明日風は涙を拭い、右手にトングを握りしめ、フライパンの前に再び立つ。
「それで、さっきの話なんだけど……」
「ん?あぁ!醒技ならここからでも視えますからね!」
「……でも明日風ちゃんは、この正面の壁の向こう側にいたわよね?ここには右か左の壁にしか窓はないし、換気扇があるにしてもそこから覗けるとも思えないわ」
「あれ?茜さん醒技から聞いてないんですか?〈醒技は魔力が視える〉んですよ?」
そう言いながら明日風は、トングでハンバーグを握りしめ大皿に持っていくと真ん中にゆっくり置き、それを2回繰り返す。その後にもう一度ハンバーグのたねを素手で掴んでフライパンの上に2つ置く。
「いや、聞いたことがないわ」
「う~ん……なんていうか私もよく分かんないんですけど、相手がどんな魔力を持っているのかどうか、どれくらい持っているのかどうかっていうのが視えるみたいです」
明日風は今度こそ!と意気込んでトングを使ってひっくり返す。今度はしっかりとひっくり返すことができ、勝利の笑みを浮かべる。
「……そんなこと聞いて良かったのかしら?」
「え?何でダメなんですか?」
「聞いちゃいけないことな気がして……」
明日風はさっきと同じようにハンバーグを2つ大皿の上に盛りつけると、近くにあったキャベツの千切りをハンバーグに添え、その上にプチトマトを乗せる。その様子を見た茜は驚いた。
「よく覚えてたわね……!」
「はい!!」
明日風は胡麻ドレッシングの方に手を伸ばすと、茜はシーザーサラダドレッシングを明日風に渡す。
「私はこっちをオススメするわ、ハンバーグには塩胡椒をかけて、ケチャップで完成ね」
明日風はそれに従って、シーザーサラダドレッシングを受け取ると、茜が浮かない顔をしていることに気づいた。
「……あのね!醒技が言ってたんだけど、この町に慣れ親しむことが出来たのは茜さんのおかげだって!」
「私……?何かしたかしら……」
「醒技は余所から来たって、それでみんなから敬遠?されてたって聞いたことあるんですよ!」
「……えぇ、そんな雰囲気は確かにあったわ、みんな余所者が来たって……それに……」
茜の言葉を遮って明日風は続けて話す。
「茜さんは醒技がこの町に来て初めて歩み寄ってくれた人だって!」
「そう……だったかしら……」
明日風は、サラダにドレッシングをかけるのを止めて茜のほうを見る。
「茜さん、泣かないでください」
「えっ……?」
茜は自分でも気がつかないうちに涙を流していた。
「今じゃこの町の人がみんな好きだって言ってましたよ!この町の人がみんな笑って過ごせるようにしたいって!歩み寄ってくれた人達に恩を返したいって!」
明日風は笑ってそう話す。しかし、その一切の迷いを感じさせない瞳で真っ直ぐと茜に向き合う。
「茜さんが泣いたままだと醒技に怒られてしまいますから!!」
「そう……ありがとう……」
明日風は塩と胡椒をハンバーグにかけると、ケチャップで丁寧にハートマークを書く。最後の1つまで書き終えると、思いのほか綺麗に書けたと思って満足そうに2回うんうんと頷いた。茜はご飯茶碗にご飯を入れて、ようやくおぼんの上に全てが揃った。
「よし!運びましょう!」
「そうね!」
明日風は両手で1つ。茜は片手で1つの2つずつ持つと、玄関を通ったところで明日風は茜に話しかける。
「この花は何の花なんですか?」
「それはね、『センニチコウ』っていうのよ」
明日風達が座敷にたどり着き、障子を開けると、醒技達が座って待っていた。
「おぉ、美味そうなのがきたな」
「スペシャルな出来に仕上がりました!」
そういって明日風は、もう1つのおぼんを取りに走って厨房に戻る。
「茜さん、目腫れてるが大丈夫か?」
「最近、夜更かしが続いてて……今日は早めに寝ます」
「……そうか」
「お母さんが無理するなって醒技さんに言ったのにねぇ」
「灯にももう少し手伝ってもらうわ」
話をしている間に、明日風が戻ってきて全員が座ったところで手を合わせる。
「「「「いただきます!」」」」
醒技はハンバーグにかかってあるハートマークのケチャップを見て疑問を抱く。
「一応聞くが、これ誰がやったんだ?」
「愛ですよ!愛!」
明日風がそう答えると醒技は分かってはいたものの妙に納得してこう答えた。
「なるほど、お前がやったんだな」
だいぶ期間が開きましたので、間違っているところやおかしなところがある可能性が大いにあります。もし間違っているところやおかしなところがありましたら、引き続きご指摘いただけると幸いです。それでは失礼します。