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夢現闘争(更新停止中)  作者: ポピー
第一章
2/12

穏やかな日常

今年ももう年の瀬ですね。来年もよろしくお願いします。


 広がる青空。新緑(しんりょく)の木々に囲まれている広々とした平原。雲の隙間(すきま)から(あかつき)の光が大地を照らす。色とりどりの花々は咲き(ほこ)り、上流から流れてくる川は底まで()き通る、(けが)れを知らぬ(おだ)やかな場所。平原には一本の木が立っており、そよ風に吹かれて、静かに音を立てる。


 その(もと)(まき)が半分程入った背負籠(せおいかご)を背負う1人の男が(たたず)んでいる。黒い髪がそよ風に揺れ、茶色のコートを着ている。左の(こし)木刀(ぼくとう)を差し、右の腰には鋼製(こうせい)の刀を差している。そしてなにより白みがかかった黒い(ひとみ)をしている右目が特徴的。

  

 一度(かご)を置き、中から一つ薪を取る。それを上に投げると男は鋭い眼差(まなざ)しで正面を見つめ(つか)を左手で握りしめ、右手で(さや)を支える。


 薪が男の眼前(がんぜん)に来た刹那(せつな)一閃(いっせん)――。薪が半分になって地に落ちる。それから何度も刀を納刀(のうとう)しては、薪を籠から取り出し、一閃――。一閃――。一閃――。やがて最後の薪を斬り終えると落ちている薪を拾って籠の中に一つ一つ入れていく。


 一仕事終えた男は木の根元に静かに腰を降ろし、色とりどりの花々を(なが)めて思い(ふけ)っていた。

 

 (あの時は赤子だった子供も今日で16歳を迎えるのか……時が経つのは早いものだなぁ……)


 立ち上がって籠を背負う。川に架かる橋に向かって歩き始めて帰路(きろ)()く、男は少し微笑(ほほえ)んで森の中へと入っていった。

   


 光が程よく大地を照らす。森の中を男が歩く。

 白い花がぽつりぽつりと木陰(こかげ)から顔を(のぞ)かせ、草木が()(しげ)る自然(ゆた)かな森。


 そんな森の中に点々と5つの木造(もくぞう)の小屋が建っていた。

 そして男は、1つの木造の家の前に立って籠を下ろすと、ドアを2回ノックした。

 

 「朝だぞ~起きろ~明日風(あすかぜ)~~」


 そう言って男は続けざまにもう4回ノックをするも、特に反応はなかった。

 男はため息をつきながら、ドアノブを(ひね)り、ゆっくりとドアを開けた。


 ドアを開けると部屋の(はし)のベットの上で1人の少女が仰向(あおむ)けですやすやと気持ちよさそうに眠っている。


 「明日風、起きろ、明日風」


 男は少女の体を揺さぶると、少女はゆっくりと目を覚まし起き上がった。


 「んんぅ……もう朝……?」

 「窓から光が差し込んでるだろう?そういうことだよ。」


 ちょうど外から小鳥のさえずる声が聞こえる。


 「醒技(せいぎ)ぃ……もう少しだけ寝かせてよぉ……」

 「それは小鳥達が許してくれないだろうな、さっさと起きなさい。」

 

 そんなやり取りをしている2人の部屋にコケコッコー!と(にわとり)の鳴き声が響き渡る。すると醒技はにやりと笑った。


 「もう(あきら)めろ、な?」

 「うん……」


 そんな彼女はやるせない顔をしていた。


 「今から朝ごはんの支度(したく)するから、もう少ししたらちゃんと起きてくるんだぞ?」

 「は~い……」


 そう言って醒技は部屋から出ていき、明日風は両手を大きく上げ伸びをする。

 そしてようやくベットから起き上がった彼女は、白のパジャマを脱いでベットの上に畳むと、いつものメイド服に着替え、肘までかかった真っ白な髪を一つに束ねて黒色の(ひも)()う。最後にベットの横の引き出しから右腰にポーチ付き、左腰に鞘付き、のベルトを取り、それを締める。

 

 「これでいいかな……っと!」


 玄関前にある自分の背丈(せたけ)ほどある鏡で自分の姿を黒い瞳でじっくりと目を()らした。上から下まで確認すると、胸のリボンの形を丁寧(ていねい)に整えた。


 彼女が(くつ)()き外に出ると、涼しい風が吹き、地面にはところどころ小さな水たまりが出来ていた。

 夜中は雨が降っていたんだなぁ……と思いながら彼女は1羽しかいない鶏小屋へ足を運び、鶏の前でしゃがみ()んだ。


 「コケちゃん、もう少し寝かせてくれてもよかったんじゃない?」


 そう言った明日風に対して、鶏はコケーッ!!と鳴きながら(つばさ)をばたつかせ抗議(こうぎ)()を見せると、明日風もムッとして言い返す。


 「昨日は遅くまで〈魔法(まほう)〉の勉強してたんだから!!もう少しくらい寝かせてくれてもいいでしょ!!」


 すると鶏は更に鳴きコケーッ!!コッ!コッ!コッ!コケーッ!!!と(だん)じて許さんとばかりに鳴き(わめ)き、小屋中を()け回った。


 「うぅ……コケちゃんの分からずや!!」


 明日風は走って屋根の上に煙突(えんとつ)の付いた木造の小屋に入った。


 まず彼女は食卓を横切って、台所に向かい手を洗い、うがいをし、顔を洗う。 


 「ひと悶着(もんちゃく)あったみたいだな?」

 「うん……」

 

 台所の(そば)にあるタオルを取り、顔を()きながら不満そうにそう答える。


 「……まぁ、なんにせよかまどに火をつけてくれないか?このままじゃあ、いつまで()っても朝食が作れん。」

 「はい!」


 その言葉を聞いた明日風は、台所の横にある石造(いしづく)りのかまどに意気揚々(いきようよう)と近づき、右手の人差し指でかまどを差す。そして目を閉じて精神を集中させる……。


 「……はぁっ!」


 明日風がパッと目を見開くと、指先から小さな火の玉が出てきて、かまどの中の薪に着弾し火が点いた。先ほどの表情(ひょうじょう)(うそ)のように、彼女は得意げな顔をして胸を張る。


 「私もこれに随分(ずいぶん)()れてきました!」

 「あぁ、()()()()()()()なことにならなくて良かったな?」


 ――少し場が静まり返った後に、明日風は窓際(まどぎわ)冷蔵庫(れいぞうこ)から牛乳(びん)を取り出し、窓から入る優しい光が差し込むいつもの席に着いてくつろいでいる。


 醒技は台所で一斤(いっきん)の食パンを袋から取り出し、6分の1程度の大きさに切ると、バターナイフでバターを適量(てきりょう)取り出し、パンの片面(かためん)にバターを()る。台所の下の(たな)から平皿(ひらざら)深皿(ふかざら)、大きな透明(とうめい)の袋を取り出し、そして、かまどの上にフライパンを置き、パンを焼く。


 しばらくしてパンを裏返すと、きつね色に焼けた食パンが姿を現し、バターを焼く(こう)ばしい匂いが部屋全体を包む。明日風はその匂いと優しい光でうとうとすると、ハッ!と思い出したかのように背筋(せすじ)を伸ばす。 


 「そういえば、夜中は雨が降ってたんですか?」

 「あぁ、まぁまぁ降っていたよ。今日が雨じゃなくてよかったな」


 そう言いながらパンをもう一度裏返(うらがえ)す。


 「今日は何か特別なことでもありましたっけ?」

 「……自分の誕生日なのに忘れたのか?」

 「……そういえばそうだった!」

 「まぁ、なんとなくそんな気はしてたんだがな……」


 パンを平皿に移すと、3つあるうちの2つの卵を深皿に割り、菜箸(さいばし)でそれを()く。塩が入った白い包みと、胡椒こしょうが入った茶色の包みから、小さなスプーンで少量(すく)って味付けをし、フライパンに流し込んだ。


 「今年でもう16ですか!私もそろそろ大人ですね!!」

 「大人はな、自分の事を大人だといちいち主張(しゅちょう)しないものだ。俺から見ればまだまだだな。」


 菜箸で適当に卵をかき混ぜ、スクランブルエッグ風のものを作り、それをパンの全面に乗せ、瓶に入ったケチャップを大きなスプーンで掬うと、全体に(うす)く広げるようにかける。


 「むぅ……私だって色んな魔法がほんの少しだけ使えるようになったんですよ!!」

 「ほんの少しだけだろ?」

 「これからいっぱい練習してめちゃくちゃ使えるようになるんですぅ~!!」

 「あぁ、期待してるよ」


 スクランブルエッグ風のものの上にケチャップがかかったパンを4等分にナイフで切り分けると仕上げにベーコンを4枚フライパンの上に乗せ加熱する。少し()げたベーコンが出来上がり、それを切り分けたパンに1枚ずつ盛りつけ、出来上がったそれを食卓に運んだ。


 「おぉ!豪華(ごうか)な朝ごはん!!」

 

 明日風は目を(かがや)かせながら食卓に運ばれたそれを見て無邪気(むじゃき)にはしゃいでいる。醒技は明日風の向かいの椅子に腰を下ろす。


 「コケちゃんのおかげで出来た贅沢(ぜいたく)な料理だからな、ゆっくりと味わうんだぞ」

 「コケちゃんありがとう!いただきます!!」


 明日風は4等分に分けられた一切れを手に取りかぶりつく、一口食べて、上唇(うわくちびる)にケチャップが付いたのでそれを舌で()め取る。もう一口かぶりついてまた上唇にケチャップが付いた。 

 

 「美味しい!けど少し食べづらい!!」

 「そうか、もうそろそろ料理も上手くなってきたと思ったんだがな……まだまだだな」


 その後、明日風が(ひと)切れ、(ふた)切れと食べる様を醒技は眺め続けているとそれに明日風が気づく。


 「まだケチャップ付いてるんですか?」

 「明日風」

 「なんです?」

 「――大きくなったな」


 そう言い放った醒技は笑顔だったが、なにか思うところがあるように見える、そんな笑顔だった。

 明日風は最後の一切れに手を伸ばし、それを食べ終えると醒技に問いかける。


 「醒技が16歳の時ってどんな人だったんですか?」

 「随分(ずいぶん)と昔のことだ、あまりよく覚えてないなぁ」


 あまりよく覚えてないと言われたにも関わらず、明日風は続けて問いかける。 


 「今の私より強かったんですか?」

 「……いや、今のお前の方が(はる)かに強いだろう」

 「覚えてるじゃないですか!」

 「あまりよく覚えてないって言っただろう?多少は覚えてるよ。」


 明日風は()に落ちないまま食べ終わった平皿を台所に持っていき、料理に使った食器(るい)を全て水に()ける。醒技は物がなくなった食卓の上に刀を出す。明日風は醒技から去年の誕生日に貰った刀を受け取ると、それを鞘に差す。その瞬間に、ふとあることを思い出した。


 「あっ!そういや去年の誕生日に来年は昔の事を話してやるって言ってたじゃないですか!!」

 「ん?そんなこと言ったか?」

 「とぼけちゃってぇ!私が去年は醒技が昔どんな人だったか聞きたいって!!だからそれが誕生日プレゼントがいいって言ったら来年話してやるって絶対言った!!!」


 興奮(こうふん)しながら醒技の両(かた)に手を置きその身体を(はげ)しく揺らす。


 「あぁ……16歳の誕生日になったら絶対に渡そうって昔から決めてた物があるから、それは来年だな」

 「今、来年は話してくれるって言いましたよ!!!」

 「あぁ言ったな」

 「本当に来年ですからね!約束ですよ!!」

 「覚えていたらな」

 「来年忘れてたらものすごいぐずりますよ?」

 

 醒技は台所に戻り、かまどの中にある先ほどまでは薪だった(すみ)を大きな透明の袋に詰め、それを肩に(かつ)ぐ。

 

 「……そろそろ町に行くか」

 「また話()らしたぁぁ!!」

 「あっ、台所の上にある卵を持ってくれ。それも持っていく」


 明日風は台所の上にある手のひらサイズの卵を片手で掴み、それを醒技に見せつける。

 

 「これでいいんですよね!これで!」

 「……そいつはコケちゃんにとって《希望》なんだ、割らないように気を付けてくれ」


 ご立腹の明日風に醒技は真剣な表情で諭すと、卵をそっとポーチの中に入れる。

 

 「よし、それじゃあ行こうか」

 「はい!」


 醒技と明日風はダイニングキッチンから出ると、町へ向かって歩き始めた。

 

 


 

 

 

まだまだ色々と浅いので、間違っている事、疑問に思うこと、アドバイスなどがありましたらご指摘いただけると幸いです。

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