運命の日
1艘の小型船が大海原を往く。
船の先頭に立つ少女は黒きマントを羽織り、両端にリボンを結んだ金色の髪を大きく風に靡かせる。
「シンアイか……」
赤い瞳で水平線を見つめる少女の表情は険しい。
やがて、少女の瞳に小さな町が映る。
「あの町に目に特徴のある男性がいるのか……」
少女の期待と不安を乗せて、船は町へと進んだ……。
「いつでも出港出来るよう、ここで待機してますんで」
「ありがとう」
少女は見知らぬ土地に足を踏み入れ、辺りを見渡しながら真っ直ぐに進んでいき、大勢の人で賑わう町の大広場に辿り着いた。
その男に対して大雑把な情報しか知らない。
少女はひとまず、情報収集をするため世間話に花を咲かせている2人の女性に近づいた。
「すみません、少しいいですか?」
「あら、どうしたの?」
女性は少女に笑顔で答える。
「この町に目に特徴のある男性はいますか?」
「あぁ、零真さんの事ね」
自分が探している男の『名前が零真である』という情報を得た少女はなるほどと心の中で頷く。
「でも、今日は見てないわ」
1人の女性がそう答えると、もう1人の女性が続けて答える。
「そうねぇ……この時間に来てないなら今日は来ないんじゃないかしら」
それを聞いた少女は1つの疑問を抱いた。
「ここに住んでるんじゃないですか?」
「ん~……ほとんど毎日来てるし……住んでるようなもんだけどねぇ……」
もともとその男について知らない事が多い少女はますます疑問を抱く。
「どこに住んでいるか分かりますか?」
2人の女性は揃って首を振るったが、その内の1人が大きな家に向かって指を差す。
「あそこに住んでいるこの町の町長さんならきっと知ってると思うわ」
「分かりました。ありがとうございます」
少女は小さくおじぎをして町長の家へと向かった。
その道中、少女は今朝早くに母に言われた事を思い出す。
『ルーサー島、シンアイという村に特徴的な瞳をした男性がいる。その人を探して連れてきなさい』
昨日は町の人々との交流を兼ねてのパーティがあった。
珍しく父親が出席していないのが気になったが、それなりに実りのあるパーティだった。
だが、そう語る母親の表情はどうにも切羽詰まった表情をしており、どうにも頭から離れなかった。
あれやこれやと考えている内に、町長の家に着いた。
ーーコンッ、コンッ
家のドアをノックしてしばらく待ってみるも、反応が無い。
留守かもしれない。
そう考えながらも、もう一度ノックを試みるーー
ーーガチャッ
「うわぁ!?」
急にドアが勢いよく開き、バランスを崩すと、強烈な臭いが鼻を突き刺す。
「酒臭っ!!」
あまりの臭いの強烈さに腕で顔を覆いながら勢いよく元の体制に戻った。
「ん……あぁ……お客さん……ようこそシンアイへ……なにかご用ですか?」
河崎の予想外の登場に少女は苦笑いを浮かべながら本題に入る。
「あの……町長さんのお宅で間違いないんでしょうか……?」
「あぁ……町長の河崎です……このような形で申し訳ない……」
少女は肩を落として、落胆しながらも続けて尋ねる。
「町長さんなら、零真さんの自宅をご存知だとお伺いしたのですが……」
「あぁ……知ってるよ……」
「よければ、教えていただけないでしょうか?」
「申し訳ないですが……道が複雑でして……道案内でもない限りは……」
しかし、壁に手をついてやっと立っていられる状態の河崎に道案内が出来るはずもない。
「……他に道を知っている方はいませんか?」
少女がそう尋ねると、そこに1人の男がやってくる。
「お~い、町長!頼まれてた薬、持ってきたぞ~」
「おぉ……すまん、すまん……」
男は河崎に薬を手渡すと、川崎は男に金を渡す。
「『酒と波には飲まれるな』。聞き飽きた言葉だろ?」
「あぁ……気をつける、気を付ける……」
「今日はもう無理すんなよ?」
そう言って男は立ち去ろうとすると、町長はそれを引き留める。
「待て、敬二……お前、この後暇か……?」
「いつも通りだ」
「よし……こちらのお客さんが醒技に用があるみたいでな……案内してやってくれないか?」
敬二は先ほどからちらちらと視界に入っていた少女を見ると、少し考えた後、それに答える。
「……分かった。案内してやる」
「ありがとうございます!」
少女は敬二におじぎをすると、町長に別れを告げる。
「ありがとうございました。お身体のほう、大事になさってください」
「あぁ……申し訳ない……ゆっくり休む事にするよ」
少女は家のドアをゆっくり閉めると、敬二の後について行った。