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俺の妹がバカな上にクズな件について。
コミカルに言い直したって何も変わらない。別世界でノイマンかフィッシャーと同等の知能を持つ幼女やナイスバディなおねえちゃんなれるワケでもない。
人生は一回きりだ。
もう一回、コンテニューだ、なんてコインが欲しいとも思わない。
だって、コンテニューしても、妹はバカでクズのままで、俺は不治のソレを何とか治すために腐心しているだけだろう?
そろそろ家を出ないとバイトに遅刻する、と壁にかかった時計が教えてくれるが、動く気力は、それこそ異界に行ってしまった。
要約すると、妹の陽子と同じくゴミクズの不愉快な友人は殺人鬼のアジトを見つけて、このままでは殺される、と気づいた。が、欲しいものは大量、財布の中は少量の女子高生のkとだ、強請るなどという最低な行為を閃いてしまった。
しかし、流石に自分やその友人の名を出すことはまずいと思ったのか、クラスのいじめられっこに電話をかけさせた。ゴキブリ並みに逞しい。そして図太い。
だが、殺人鬼はそんなノミの脳味噌を振り絞った知恵など見抜いていた。そのいじめられっこの死体を、妹のバカな友達に撮影し、メールで送信する、という恐怖を送りつけた。
ここまで聞くと、最初からバレてたんじゃないか、このクソバカと言いたくなる。というか、その女子高生を殺す前に吐かせたのだろう。無意味に無駄な人物へ協力をあおいだことが仇になった。お互いに。
俺は腕組をした。殺した方がいつもと違うのは、暗にそういう拷問があったと云っているようなものだったが、敢えて言わなかった。
時計は、バイトに遅刻を示す時刻を指していた。だが、相変わらず動く気にはなれなかった。妹のバカさと、命をほぼゼロ距離で狙われているという事実と、下手すれば自分も殺されるという事実が、足裏を床に縫い付けていた。
バイトは確実に遅刻だ。西村さん、すいません。
心の中での謝罪と、安いインターホーンが狭い部屋に反響するのはほぼ同時だった。玄関の薄いドアを規則的にノックする音も。
陽子何処にそんな元気が残っていたんだという素早さで台所に向かって、洗い籠に突っ込んであった包丁を掴んだ。そんなカボチャを切ったら確実に柄の根から刃が吹っ飛ぶようなモノが武器になるとでも思っているのだろうか。刃傷よりも破傷風で死ぬ確率のほうが高そうだ。
それ以前に、やはり陽子はバカではないのか。
俺なら殺そうと思う人間の家のインターホーンを律儀にならした上にノックなんてしない。そう思い、玄関へ向かう。背中に抗議のクッションが飛んできたが、あまり痛くはなかった。
「あ、智陰君」
半ばの予想通り、ドアを開けた先には西村さんが立っていた。珍しく当惑している。手にはスーパーの袋。店の買出しというワケではなさそうだ。こちらの顔色を窺うようにして、次の言葉を紡ぐかどうか悩んでいるように見えた。
そういえば、履歴書に住所書いたな、と今更なことを考えた。そうでなくても西村さんは親切だと知っていたのに。
今のように、陽子の高校で殺人が起きたからと見舞いに来るように。
「大丈夫?」
西村さんは俺の顔を覗き込んだ。眼鏡の奥、不安げに細められたくっきりとした二重の目が見えた。背後で、陽子が来訪者を確認し、包丁を強く握りなおす気配を感じた。俺は陽子を蹴り飛ばしたい衝動を必死で堪えた。
「ニュースで見て……。確か、あそこ陽子ちゃんが通っている高校だよね?」
Exactly。