朝 3
「太一、ご飯ここに置いておくからね。」
扉の向こうから母親の声がした。
いつものことだ。
母親は、一歩もこの部屋に入って来ることはない。
食事は三度毎回毎回運んでくる。
俺は、母親の足音が遠くなるのを確認してから、扉を開け、飯を部屋に運ぶ。
こんな生活をして、もう何年経つのだろう?
カーテンの閉めきった部屋。
ずっとつきっぱなしの、TVとパソコンの画面。
ホコリだらけの部屋の中には小さな机が置いてある。
その机の中央に置いてある、直径30センチほどの瓶の中にいるもの。
今の俺はそれを眺めている時だけが、どんなことよりも興奮した。
瓶の中にいるもの。
先日捕まえた仔猫が入っている。
仔猫と言っても、この姿を見てすぐに仔猫だと分かる人間はほとんどいないだろう。
耳も無ければ、両手両足、そして、目玉もない仔猫の亡骸。
あっ、舌を切るの忘れてた。
でも、もう腐りかけてるし、今回は止めとくか。
誰もいない部屋なのに、俺は心の中で話した。
もう何年も人と会話していないからだろうか、声を出すと言うことをほとんどしていなかった。
俺は、生き物の舌を切るのが一番好きだった。
しかし、生きている間はこんなに柔らかい舌だが、殺したあとすぐに切らないと死後硬直の影響で固くなり、うまく切れなくなる。
そう言えば人間の舌ってどんな感じなんだろうなー。切りてーな。
またそんな衝動が頭をよぎった。