不動のコート
不動のコート
――そのコートを手に入れた者は、どんな何をも弾く不動の力を得ると言う――
「……ふぅ、ようやく最下層についたか」
一人の男が、暗い洞窟の隅で、そう呟いた。
ここはとある山奥に在る迷宮、その最下層である。
あわられる化物はすべて人では到底戦うことなどできないような、そんな地である。
しかし、だからと言ってこの男が、そんな化物と相対することができるような、人外の力を持っているかといえば……そうではない。
「いやー化物が全部、動物系とかオレほんと運いいな! 全く見つかる気配ないな!」
自称怪盗と言う名のこそ泥である彼は、気配遮断や盗み足などさまざまな己の特技を使い、一度も敵と対峙することなくここまでたどり着いたのだ。
しかし、何故わざわざ彼が、こんな山奥に来ているのかと言えば。
――それはまさしく、ここにお宝が眠っているからだ。
この世界には“遺物”と呼ばれるものがある。
迷宮から発掘されるそれらは、現代の技術では到底作ることができないような力を持ったもの。
そして、数ある迷宮の中でも最難関の一つに数えられる迷宮たちの一つであるここにも、遺物が存在する。
その名は、不動のコート。
そのコートを羽織れば、たとえ子供であっても老人であっても、決して朽ちぬ、あらゆる力をも弾く、不動の力を手に入れると言う。
風のうわさでその伝承を聞いた彼は、わざわざこうしてやってきたのだ。
「さぁーてと、お宝ちゃんはどっこかな~」
他の迷宮と同じように、最下層に化物の姿は見当たらない。
彼はにんまりと笑顔を浮かべながら、未だ誰も見たことが無いと言うお宝を求め、足を動かす。
と、数分あるけば、彼の前に一つの部屋が現れた。
「おっと~こりゃオレの鍵開け技術が光るとこ――ってなんだ、開いてんのか」
ずいぶんとぼろぼろな扉を開ければ、そこには小さな部屋が広がる。
そこには、人型の像と、それに着せられた漆黒のコートだけがあった。
↑不動のコート
ご丁寧に、看板までついている。
「おーこれがお宝ちゃんか~。さーて、いただいちゃいましょうかね~」
そう言って、彼は石像に着せられたコートを丁寧に脱がしていく。
やけにリアルな筋肉美を見せ付ける石像からは目を背けつつ、彼は一度、そのコートを広げてみる。
「やっぱ一度は自分で着てみないとな! さーてほんとに力なんてあるのかね」
いくら遺物のうわさを聞いているとはいえども、実際に見たことが無い彼は、本当に遺物というものの力について、あまり信用していなかった。
ただ、お金になるから取りに来ただけである。
しかし、コートに手を通したその瞬間から、彼は己に流れ込んでくる力を感じた。
「うあ、すっご!!!」
そんな小並の感想しか出てこない。
「力がわいてくるぞー!」
そう言って両手を大きく上げ、叫ぶ。
そして。
「ふう……、やっと動けるようになったか……」
部屋に低い声が響き渡る。
全身を筋肉の装甲で覆うような大男は、己が着ていたコートを見て、苦々しい表情を浮かべる。
「すまんな、兄ちゃん。どこの誰かは知らんが、俺の代わりになってくれてありがとよ」
ぱんっ、と手のひらを合わせ一度だけ頭を下げ。
彼の目の前に刺さっていた看板を、新しく、新しくコートの犠牲となった男の前に刺しなおした。
「そんじゃ、達者でな」
軋んだドアの音と共に、男がそう言い放つ。
部屋にはまた、静けさが戻ってきた。
不動のコート
着た者に、不動の力を与えるコート、である……。




