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問いの一 死人映りし、描くは人 3





『先日○○市で発見された遺体について。 警察の調べにより、亡くなった男性の死因は左胸に刺さっていた刃物による出血死と見られています。 凶器からは亡くなった男性の指紋が検出され、自殺と見られています。』




「………」

「まぁ、このざまだ。 で? 写真屋、なんか分かったか?」


黒のスーツ、オールバック、鋭い目つき。見た目は極道の世界の人に見える。 しかし、彼は立派な警察官だ。 テレビから流れるニュースを聞きながら、僕の出したコーヒーを納得いかない表情で飲み干した。



「……何も無かった。 一応、絵の方も実際の現場もこの目で見たけれど。 …絵の方に違和感は感じたけれど、現場の方では何も感じなかったよ」

「するとあれかい? なにかあるとすれば絵の方かい? てことはやっぱ絵を書いた小野屋の野郎が!!」


「……佐野。 刃物からは亡くなった男性の指紋が出てるんだろ。 それじゃどうしようもない」

「しかしなぁ! …… まぁ、いい」



納得いかない、そんな言葉を飲み込んだんだろう。

犯罪のことはよく分からない。 指紋の偽装なんて簡単に出来るかもしれない。 しかし、考えてみれば。 もしも小野屋さんが男性を殺害したとしたら、なぜ絵を展示した?

わざわざ怪しまれるような行為をするなんて、正常な判断ではないと思う。 馬鹿、と言えるだろう。 ばれないと思った? そんな小さな嘘をつくとは違うのだ。 命が失われたのだ。


……分からない。 この世に僕の分かることなんてどれくらいあるのだろう。 現状、今の僕に分かることは一つもないのだ。

あの絵に感じる違和感。それを描いた作者の心理。 自ら死を選んだ男性の心理。 何一つ、分かることなんてない。



「……今日は晴れている」

「…ああ? そんなん見なくても分かんだろ?」


……見なければ、分からないさ。 どんなことも… 見なければ、聞かなければ。 一つだって、分かりはしないんだ。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎








「おーてん、と〜さま〜。 きょーもせっかいを、かんしちゅう〜♪」



鼻歌交じりに、一人の女がベンチに座って空を眺めている。



「いいお天気ですね」


少し背の丸まった、40代ほどの男性。 ベンチに座る女に愛想良く話しかけた。


「そーですねぇ! いやぁ、日向ぼっこでもしたくなりますねぇ!」

「そうですねぇ」


男はゆったりとした口調で答える。 女はそれを見て、嬉しそうに笑う。



「ところで。 つかぬ事をお聞きしますが」

「はい? なんでしょう?」















「人殺しでも、私と同じように良い天気を喜べるものなんですかねぇ?」

「……どうでしょう。 人それぞれ、なのでは?」



女の問いに、男は変わることなくゆったりと答える。



「……ああ。 この人は、曲者だなぁ」



少し呟いて。 女は立ち上がり、男を指差した。




「神問うて、人解かん。 ……いろいろ調べても分からないことだらけだからね、直接聞きに来たんだよ」


「何をですか?」















「あなたは人を…… 殺した?」








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