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一番は

 リカルドが言うには、どうやら彼等は2日間ほど僕の家に滞在するらしい。

 暫く庭できゃいきゃいと遊んでいたのだが、彼が疲れたとぶーたれ始めたので客室へと案内した。リカルドの我が儘にも馴れたもので、苦笑いしながらはいはいと対応出来るようになった僕の心の広さは偉大だと思う。

 客室についてからは延々とリカルドの愚痴を聞かされている。主にお姫様のことが多い。

 だから僕も母さんのことでちょっとした不満なんかを聞いてもらってる。

 お前いつか洗脳されるぞと若干顔色を悪くしながらリカルドが言うのだが、どこら辺にそんな要素があったというんだ。

「おまえのとこのばーさん、カルダのこと好きすぎだろ。びっくりなんだけど」

 服に皺が出来るのなんて気にする素振りもなく、ふかふかのベッドに仰向けに寝転がっているリカルドがうっげえと顔をしかめた。

 対してその近くの椅子に腰かけている僕は首を傾げる。

「それ兄さんにも言われた。でも普通だと思うんだけど」

「あーあ! これだからお子さまはこまるんだ」

 君も十分お子様じゃないか。

 そんなやり取りを続けながらまったり過ごしていたら、不意に扉をノックする音が響いた。

 リカルドが入室を許可するのを待ってから入ってきた人物は先程庭で別れた筈の姉さんである。

 普段兄さんと喧嘩する時のあの鬼の形相はどこへやら。今はにこにこと優しげに微笑んでいる。もう落ち込んでもいないようだ。

 姉さんは母さんが僕を呼んでいると言っているけれど、それは多分嘘だ。姉さんは嘘を付くとき喋るのが早くなるから意外と分かりやすい。でもこうして僕に嘘をつくのは何か理由があるのだろう。素直に従った方がよさそうだ。

「カルダ、おわったらすぐにもどってこいよー」

「あ、はい」

「カルダがいない間、わたしがリカルド様のお相手になります」

「さいあく!! あんたうっとうしいからキライなのに!」

 うわあ、姉さんの笑顔が引きつった。

 今の言葉で心が抉れたに違いない。でも僕はしーらない。

 そそくさと姉さんの横を通り過ぎて部屋を出る。けれどちょっぴり中の様子も気になる。

 好奇心がひょっこり顔を出してはむくむくと膨れ上がる。それに抗うことを僕は知らない。

 完全に扉を閉めることはせず、ほんの少し隙間を残して中を覗いてみた。途切れ途切れだが、二人の会話もなんとか耳に入ってくる。

「座っても宜しいでしょうか?」

「だめ。どうしてもすわりたいなら、自分のへやにもどれば?」

 嫌われすぎだろ。何をやらかしたんだ姉さん。

 リカルドが毛を逆立てて警戒する猫みたいになってるぞ。

 それなのに姉さんがリカルドを見る目は、母さんが自慢の宝石を眺めるそれに似たような感情が宿っている。

 わかりやすく言えば、いいなー、これいいなーといった具合だ。

 リカルド、目を付けられてるぞ。将来有望だから今のうちにマークでもするつもりなのか、姉さんは。

「では、立ったままでも構いませんわ。それならこの部屋にいても宜しいでしょう?」

「しゃべるな。うるさい」

 どうしよう、笑いがこみ上げてきて押さえきれない。

 下唇を噛んで耐えようとしても押し殺した笑い声が吐息と一緒に漏れてしまう。

「カルダ?」

「に、兄さん、見て」

 いつの間にか、僕の後ろには怪訝な表情をしまま此方にゆっくりやってくる兄さんがいた。

 口元を手のひらで覆い隠しながら振り返って、視線だけで扉の向こうを促す。 これにまたもや怪訝な表情を見せる兄さんだったが、僕に倣って扉の隙間を覗いた瞬間、まるで面白いものを見つけたかのようににたりと口角を釣り上げた。

「へーえ。随分な嫌われようだな、あいつ」

「僕もそう思う。けど、見てる方としてはなんか面白くて」

「だな」

 頑張ってリカルドに声をかける姉さんだけど、そのたびに冷たくあしらわれてしまっている。それもスッパリと。

 あんなに堂々と嫌いと言われておきながらも尚にこやかな微笑みを維持している姉さんに、僕は母さんの姿を垣間見た。

 考えてみれば、怯えてはいるが姉さんは家族の中で誰よりも母さんに尊敬の眼差しを向けている。だからちょくちょく母さんの言動を真似ていたりするんだが、だからだろうか。姉さんは誰よりも雰囲気が母さんに似ている。

 それが一層リカルドに不快を与えているようだ。無理もない、だってリカルド、母さんのことをあまりよく思ってないし。そういった所が姉さんを嫌がる理由に拍車をかけているのかもしれない。

 もしかしたら、兄さんと姉さんが頻繁に喧嘩する要因にも含まれていたりするのかな。だとしたら納得だ。

 それにしても、いつまでもこうして覗いているのは流石によくない。加えて、僕の好奇心が薄れてくると共に興味も無くなってくる。

 最初は面白そうに眺めていた兄さんだってつまらなそうになってきたし。そろそろ引き上げよう。

「ね、兄さんの部屋に行ってもいい? 貸してもらいたい本があるんだ」

「そう言えば前もそんなこと言ってたな。別にいいぞ。本の一つや二つ、好きなだけ持っていけ」

 僕の頭をわしわしと撫でてから歩き出しだす兄さんに、やったと両手を上げながら着いていく。菓子もやるよと柔らかく目を細めてまた僕の頭を撫でる兄さん。

 僕はやっぱり、家族の中では兄さんが一番だ。

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