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プロローグ

 僕より三歳年上の兄さんと二歳年上の姉さんは、何故かすこぶる仲が悪い。

 いつもくりくりとした金色の瞳を怒りに染めて兄さんを強く睨めつける姉さんは、お気に入りのドレスを汚された時の母さんのような形相だ。目が合ったら石にされそうな気さえする。

 美人なだけに殊更迫力満点だ。僕はもう12歳だから大丈夫だけど、今よりさらに子供だったときはそんな姉さんの顔を見て大泣きした覚えがある。カルダに怒った訳じゃないんだよと、姉さんはあたふたしながら僕を抱き上げて背中を撫でてくれたけど、暫くは姉さんに近寄ることが出来きずにずっと兄さんに引っ付いていた。

 兄さんも僕や姉さんと同じ、燃えるような深紅の髪に金色の瞳をしているけれど、僕達と違って兄さんはきゅっと目尻がつり上がっている。そこにはくりくりの欠片もなく、切れ長で冷ややかな目が兄さんを近寄りがたい印象にさせている。

 姉さんはそれが生意気そうで癪に障ると吐き捨てていたけれど、姉さんと同じくりくりした目の僕からしてみれば、兄さんは凄く格好いい。もっと言えば羨ましい。なんで僕もあんな風にならなかったんだろう。

 姉さんよりも女の子みたいだなって兄さんに言われた時は、ショックで膝から床に崩れ落ちた。固く握り締めた拳を渾身の力で床に叩きつけて、「ど畜生!!」と叫んだのはほろ苦い思い出である。自分でやった暴挙でありながら、手が痛すぎて泣きそうになったのも覚えている。もう二度とするもんかと、ジンジンと響く鈍い痛みに涙目になりながら誓ったものだ。


 今思えばただの馬鹿である。




 堅苦しい家庭教師との一対一の勉強時間も終わり、そこそこ広い自分の部屋のソファでごろんと仰向けに寝転がる。ぐでーっとだらしないこの姿を母さんに見られたら、ドッバーナ家としての自覚が足りないと怒られそうだ。別に客人の前でなければ、例え貴族であっても腐抜けてたっていいじゃないかと僕は思う。でも、背後に『コオオオオッ』て効果音がつきそうなほどの凄まじいオーラを漂わせながら、にっこり微笑む母さんを前に文句なんて言えるだろうか。いや言えない。「わかったあ!」と元気よく返事するに限る。

 でも兄さんだけは、なんてことのないようにうるせえババアと言ってのける。

 流石だ。僕の憧れである。

 でも真似したいとは思わない。母さんの『コオオオオッ』が、『ゴオオオオッ』になった時の恐怖。あれは洒落にならない。



「カルダ、入るぞ」

 僕の名前が呼ばれたのだと理解すると同時に、けたたましい音を響かせながら乱暴に部屋の扉が開かれた。

 驚きからくる条件反射に任せるまま、がばりと体を起き上がらせ音の出所を見やる。

「なんだ、寝てたのか」

 両手をズボンのポケットにつっこみ、左足を上げながらにたりと意地悪く笑う僕の兄さん、クムド・ドッバーナがそこにいた。

 もしかしなくても、足で扉を開けたのだろうか。

「兄さん、もっと静かにしてよ。びっくりしたじゃん」

 この人はいつもこんなんだから注意しても変わらないだろうけど、一応伝える。その際になんだかなあと呆れの混じった笑みを浮かべると、兄さんは器用に片眉をひょいと持ち上げて、反省の気持ちなど微塵もこもっていない声音でゴメンナサイと返してきた。棒読みだよ。あからさまな棒読みだよ。

「…仕方ないか、兄さんだし」

 扉の大きな音により強ばっていた肩の力が、がくんと抜けた。

「それで、どうしたの?」

 姿勢を正ながら用件を問えば、途端に兄さんの顔が不機嫌になる。

 それだけで、また姉さんと喧嘩したのかと分かるくらいには、見覚えのある表情であった。

 そのままつかつかと僕の所に早足で歩いてくると、向かいのソファに荒々しく座って足を組む。あまりに勢いよく座るものだから、その反動で兄さんの体が少し跳ね上がった。どうやら相当苛ついているらしい。

「アリアスの野郎、ほんと有り得ねえ。なんだあのクソ生意気な女は」

 あなたの妹ですけど。

 そして僕の姉さんだけど。

「今度はどうして喧嘩したの?」


 そこからの兄さんの愚痴はすごかった。母さんに似て強引だの、我が儘だの、自己中だの、上げていったらきりがない。

でもそれ、兄さんにも当てはまってると思うんだけど。これが同族嫌悪というものなのだろうか。







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