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護り人、破壊人  作者: 新千 愛作
預り屋
7/8

襲撃者AーⅠ

生暖かいビル風が吹く、とある都会の交差点。

休日の昼間とあって人通りは多い。

信号が青に変わり、()き止めたダムを開放するように、人が流れていく。

友人たちと群れてる人、あるいは一人で歩く人もいる、家族で仲良く歩く人、恋人と手を繋いで歩く人。誰がどう見ても、普通としか言いようの無い風景である。

その中に、その誰とも異質な空気を放つ男がいた。

年齢は不詳だが30代に見える。

5月だというのに黒のロングコートを着て、マフラーを巻いている。頭にはシルクハットを被り、その下はスキンヘッド。頭の血管が青白く浮き出ている。背は割と高く、手足は昆虫のように、細長い。ちなみに足は裸足だ。

そして何より、この見てくれより奇妙なのがその顔である。一言で言えばバッタ。細長い顔に、目は離れており、焦点は合ってない。鼻は、あるのか無いのかわからない程に(たい)ら。そして口元は、(よだれ)にまみれた下顎だけが突き出ていて、そこから黄ばんだ歯が露出している。

彼は信号を渡ることもなく、表情のわからないその顔で、通り過ぎる人たちのその(さげす)む視線を受けていた。

その間、彼は微動だにしなかったが、突然、腕時計で時間を確める。

すると、にやりと笑うような表情をして、その複眼(ふくがん)のような目を閉じる。

しかし、彼にとってその目は本当に複眼だったのかもしれない。

今、彼の目にはあらゆる「(つな)がり」が見えている。

電波の送受信による繋がり。人と人の繋がり。過去から未来への繋がり。

彼はその全てを見ることができ、触れることができる。

勿論(もちろん)、それらを切ることも。

有り(てい)に言って、彼はそれを生業(なりわい)としていた。

今回は「玉座の猫」回収のため、その周辺人物の排除を任された。排除、というのは決して殺すという意味ではなく、関係を「切れ」ということである。命を奪わないだけ人道的だろうが、それが良いことなのか、悪いことなのか、彼には理解できなかった。

今はその猫を中心とした「繋がり」を見て、意識の中でその繋がりに手を触れている。

感触は様々だ。その繋がりが強ければ強い程に、固く、そして強く結び付いていて、逆もまた然りである。ただ、その結び付き方も様々で、(つな)のように線が絡み合って一本の繋がりを成しているものもあれば、何本もの線が(たば)になって繋がってるのもある。因みに前者は家族や恋人などに多く、後者は会社の管理職などに多い。

しかし今回は、今まで見てきた繋がりの、そのどれもとは異なるものだった。

主に「過去」という軸に伸びた繋がりが、まるで大木(たいぼく)のようである。そればかりでなく、その猫を抱える少女との繋がりは、光を放つ程に輝いていたのだ。

「あぁ!なんとこれは神々(こうごう)しい!」

思わず彼は叫んでしまった。しかしこれは意識の中での出来事だから、現実で通報されることはない。

「これを切るだなんて、私にはできない!……だが、この繋がりの感触を他の者が共有するなど許せない!ん?この近くにいる男はダレダ?……コイツ!横取りしようとしてる!ダメだ!許さない!」

そう言って少女の横にいる男の繋がりを全て切ろうとする。

しかし、(やいば)が入ったのは数ヶ所だけで、それらは大した繋がりではなかった。つまり、全く人生に支障がないレベルと言っていい。

「な、何でだ……?まさか、コイツ……!ぬぁぁぁあ!」

途端に動揺した男「ラインカッター」は、意識を現実に戻し、項垂(うなだ)れ、そして叫んだ。

その複眼のような目は血走り、下顎にはだらだらと涎が流れ落ちている。それが吐く息に合わせて飛び散ったり、泡を()いたりしている。

それを見ていた路上の人々は、悲鳴をあげたり早足で遠ざかったりした。

男はそんなことは毛頭気にせず、ロングコートの袖で下顎を拭い、(しか)と前を見定め、その裸足で走り始めた。

その口が笑っていたのかはわからないが、その口の中では、(じか)に殺さなければ、直に殺さなければ、と繰り返し呪文が唱えられていた。

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