3.それは彼女の日常風景/エピローグ
「桜……?」
俺は彼女の名前をもう一度呼んでみる。
しかし、つい先ほどまでそこに居たはずの彼女は、返事をしない。それどころか、姿形すら無くなっていた。突風で目を離した隙に何処かに隠れたのかと考え、机の下や椅子の下を覗いてみても、彼女は見付からなかった。何処へ行ったのか、と視線を上げるとはためくカーテンと開け放たれた窓が目に付く。
まさか、窓から、という考えがよぎった所で、つっと背筋が凍った。此処は三階なのだ。窓から落ちて無事で済む訳が無い。いや、桜ならもしかしたら大丈夫な可能性もあるが、それでも――。混乱する頭で、窓まで駆け寄り窓の下を確認する。其処には、桜の姿は無かった。ほっと胸を撫で下ろす。流石に杞憂だったらしい。
こうなると、桜は何処へ行ってしまったのだろう、と首を傾げた時、スパーンと生徒会室のドアが開かれた。
「大和君!」
ドアを開けたのは、まさしく今探していた混乱の張本人、桜だった。
「ちょ、お前、いつの間に部屋から出たんだよ。あと、ドアは大切にしろ?」
「え? 召喚されただけですよ。でも、間違いだったみたいで帰ってきました。そんなことより、大和君の淹れてくれたお茶を頂きたいです。まだ、温かいですよね? あ、ドアは失礼しました」
お茶は、勿論淹れたてなので飲み頃である。湯飲みを差し出しつつ、桜のいつもよりも落ち着き無い様子が気になる。
「何か、あったのか?」
「たいしたことじゃないです。ただ、少し残念だっただけで……。でも、大和君のお茶のおかげで、元気が出て来ました。やはり癒されますね。ありがとうございます」
桜の様子は気になるものの、にっこりと綺麗に笑まれて感謝の言葉を掛けられれば嬉しく、俺も笑って答える。
「どういたしまして」
*
それから暫く、程ほどに平穏な毎日を過ごしていると、クラスに転入生がやってきた。
「ウィリアムといいます。宜しくお願いします」
金髪碧眼の男は流暢な日本語でそう挨拶すると、桜の前へやってきて言った。
「私はまだ貴女を手に入れることを諦めていないぞ、サクラ」
キャーっとクラスから上がる黄色い悲鳴。男子諸君からの物騒な視線。
何ということだ。また変な男が現れやがった。
そう、桜の周りには妙な男がよく現れる。唐突に。
例えば、長い髪に青白い顔をした男。赤い目と尊大な態度が特徴的だ。日が落ちた頃、黒いマントを羽織って口説きにくる。口説き文句が貴女の血はきっと甘美なのでしょう、って完全に変質者だ、やばい。
例えば、いつも白衣を着用している眼鏡を掛けた男。桜の事を前世で生き別れになった妻の生まれ変わりだと勘違いしているらしく、口説いてくる。前世とか言い出している時点で頭が疑わしい、やばい。
例えば、大柄な筋骨隆々の男。頬に大きな傷がある。その巨体で突進しながら、口説いてくる。口説くというより、そのまま拉致していこうとする。幸い桜にはひらりと避けられているが。こいつは基本的に脳筋族で話が通じない、やばい。
こういった桜とは何処で知り合ったのかも不明な、悪い虫達が千切ってはわいてくる。いずれも桜は取り合わず都度断っているものの、奴等の不屈の精神には困ったものである。駆除しなければ。
かくして、俺と悪い虫達との闘争の日々は続くのであった。
桜ちゃんは、勇者に憧れて謎の努力(?)を続けて謎の力(?)を手に入れたにも関わらず、何故か恋愛召喚されてしまう体質の女の子、でした。努力は報われず、要らないフラグとストーカーだけが増えていくという、ある意味での悲劇のヒロイン。客観的に逆ハーヒロイン。
その後、大和君が勇者召喚されちゃったりして、戸惑っている内に桜ちゃんも自力でやってきてハイテンションで魔王を討伐しちゃう、とかだと楽しいなーなんて想像したりして。伝説の勇者は彼だった! みたいな。
……後書きが長いのも見苦しいので、その他ちょっとしたこぼれ話や反省等は活動報告に記載しようと思います。
以上、処女作につき見苦しい点多々あったかと思います。
誤字脱字、変な箇所等を見つけられましたら、作者までこっそりやんわり教えていただけると嬉しいです。
最後まで読んで下さりありがとうございました。