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♥ 後編 「出発」

夢の中で学生時代の回想が展開。


《学生時代の回想(夢)》開始


〓 福島駅 〓


コンパの後、駅で大勢で盛り上がってる。


大橋「よーし!つぎ行くぞー!」

A「おう」

B「俺はねぶいぞー」

大橋「まだまだこれからだべ!」

田中「だぞ。いくべ、いくべ」

C「つぎはどこだー?」

高田「金ねえから直樹んところ行くべ。ここから一番近いべ?」

D「そりゃいいや!そうすべー」

直樹「だめだー。おめーらうるせいからまた大家に文句いわれるベー」

E「大丈夫、おとなしくしてっから」

F「そうだ、大丈夫だ!」。

直樹「しょうがねーな。よし、じゃいくべ!」

大橋「お許しが出たから行くぞー!」

田中「いくぞー」

高田「いくべ」

全員「オーッ」


《現実のシーン》


駅のベンチで寝込んでいる直樹


夢と現実の狭間の中でカバンを抱え込むようにして立ち上がり、夢の中の動きに合わせてフラフラと歩き始める(夢シーンにもどるが、現象的には直樹一人が夢の中の一員として暗闇を昔住んでいたアパートに一人向かって歩いている)。


〓 道 〓


A「危ねーから、ちゃんと歩けこのー」

大橋「うっせい、がたがた言ってんでねーぞ」

田中「さみーなー」

高田「冬は寒いに決まってるべ!」

B「しょんべんしてー」

C「かってにすれ、そんなもん」


酔った勢いで大騒ぎで歩く一同。


凍りつくような冬の美しい満天の星空。  


やがて皆でかたよせあって、大声で学生歌を大合唱しながら歩き始める。


一同「…みどーりたーつー自由の園にー今こっそお歌おう、青春の歌ーをー!」

一同「われらーは人間!」

一同「人間!」

一同「われらっは、がっくせい!」

一同「学生!」

一同「愛とーっ真理にー強く生きよおー」


歌声が徐々に消えてゆく。  


突然車の強力なヘッドライト。  

続いてけたたましいクラックションとともに車が通りすぎて行く。


《学士時代の回想(夢)》終了


挿絵(By みてみん)


シンシンと降る雪。


暗闇に独りぼっちで立っている直樹(酔いは醒めている)。  


目の前に直樹が昔住んでいた古アパート。


〓 アパートの前 〓


直樹「…夢?」


おもむろに腕時計を見る。  

深夜十二時を回っている。


直樹「…(困惑の表情)」


傍らに自動販売機。  


挿絵(By みてみん)


コインを投入して熱い缶コーヒーを買う。  

飲みながらアパートの塀に近づいて行く。  

明かりがついている一回の角部屋。


《学生時代の回想》開始


〓 アパート 〓


夏っぽく半袖のシャツにGパンをはいて自転車でアパートに戻った直樹。 

隣の部屋の友人、隆の部屋の前で彼を待っている純子。


直樹「あれっ?純子さん?」

純子「あっ、木村さん!こんにちは!」

直樹「こんにちは…隆…居ないの?」

純子「うん、そうなの、どこ行ったのかな。最近全然連絡とれないんです」

直樹「いや…そういえば僕もバイト続きでここしばらく会ってないや」

純子「…」

直樹「よかったら僕の部屋で待ってる?」

純子「本当ですか。ありがとうございます」


ドアをあけて純子を部屋へ招き入れる。


直樹「どうぞっ!」

純子「おじゃましまーす」

直樹「汚いけど(窓を全開にあける)」

純子「ウワー、奇麗!」

直樹「何も無いだけだよ」

純子「ううん、隆さんの部屋なんていつも部屋自体がゴミ箱みたいなんだもの」

直樹「男の部屋なんてそんなもんだよ」

純子「そうなのかなー」

直樹「そうそう…純子さんの部屋なんていかにも女の子の部屋ってゆう感じで可愛くて奇麗なんだろうなー」

純子「幻滅させて申し訳ないんですが、この部屋の方がよっぽど奇麗」

直樹「まさかー」


二人で大笑いする。


純子「木村さんの彼女は奇麗な人なんでしょうね、面食いそうですもの」

直樹「彼女がいたら休みの日のこんな時間に家に居ないでしょう」

純子「ウッソだー、木村さん優しいしモテそうですよー」

直樹「全然優しくなんかないし、それに優しいだけでもだめみたいよ(笑い)」

純子「エエーッ、もったいなーい。それじゃー今度私の友達紹介させてくださいよ」

直樹「ありがとう、でも…何か苦手でさ、そういうの…隆みたいに盛り上げられないし、気の利いたことも言えないし…」

純子「そんな事言ってたら何時までたっても彼女できないですよ?」

直樹「まあね…フフフ」


隣の部屋のドアが開く音。


直樹「あっ、帰ってきたみたいだな」

純子「ほんとだ」


先に外に出て、隆の部屋を見に行く直樹。


■隆の部屋■


隆の部屋のドアをあける。


直樹「隆、純子さんが…」


言いかけて、部屋の中に隆と女の子がいるのを知りマズイと思う。  

手招きで隆を呼び寄せる。


隆「どうした?」

直樹「(声をひそめて)シーッ!『どうした?』じゃねえよ、純子さんずっと待ってんだぞ」

隆「えっ!」

直樹「『えっ』じゃねえよ。その娘…」

隆「?」

直樹「どうにかしろよ…」

隆「どうにか…って…言ったって…」


突然隆が直樹の肩越しを見上げ狼狽する。   

振り返る直樹。  

張り詰めた表情の純子が立っている。


隆「…」

直樹「…」


何か言おうとするが言葉が見つからない。  

純子はいきなり走り出して行ってしまう。


〓 道 〓


直樹「純子さん!」


追いかける直樹。  

かまわずどんどん行ってしまう純子。  

諦めて再びアパートに戻る直樹。


〓 直樹の部屋 〓 


自分の部屋に入ると隣から楽しそうに話したり笑ったりしている隆と女の子の声が聞こえる。

何ともやり切れない表情の直樹。


ふと目を落とす。

部屋の中に純子が忘れていったバッグが置き去られている。


突然のクリスマスソング


《学生時代のクリスマスの回想》


クリスマスを象徴する街の光景


挿絵(By みてみん)


〓 直樹の部屋 〓


台所で忙しそうに料理している純子。


直樹の語り「結局そんなことがきっかけで、僕は彼女と付き合うようになった。隆は何時からか全く見かけなくなった。噂では女の子のアパートで暮らしているらしい」


居間から台所へ入ってくる直樹。


直樹「何か手伝うよ」

純子「大丈夫だからテレビでも見てて」


仕方なくテレビの前へ戻る直樹。


すぐ退屈になって、再度台所へ顔をだす。


直樹「手伝うってば」

純子「ほんとに大丈夫だから、ねっ」

直樹「…」


つまらないので肩を揉んだり、抱きしめたりちょっかいをだす。


直樹「ほらほら、邪魔だからどいてどいて」


冗談ぽく軽くたしなめる純子。  

再度テレビの前へ戻る。  

やがていいことを思い付いたという感じで立ち上がる。


直樹「ちょっと電話かけてくるね」

純子「いってらっしゃい」


〓 夕暮れの道 〓  


全速力で走ってくる直樹。  

やがて公衆電話ボックスが見えてくる。  

しかし、その電話ボックスはあっさり通り過ぎてしまい、さらに走りつづける。  

一軒の商店に着く。


〓 商店 〓


直樹「おじさん、蝋燭ある?」

店主「入口の下の段にありますよ」


入口の棚で、数十本入のローソクを手にしてレジに持ってゆく。


店主「五百六十円ね」

直樹「はい、千円」


買ったローソクを手に大急ぎで帰る。  

アパートの前で立ち止まり、呼吸を整えて平然と部屋へ入る。


直樹「ただいま」

純子「おかえり、遅かったねー」

直樹「うん、ちょっと話し込んじゃって…」


皿とか空缶とか何か適当なものに次々と  

買ってきたローソクを立てて目立たぬように部屋のあちこちに置いてゆく。  

全部のローソクを置き終わったところで  

順番に火をつけてゆく。  

つけ終わると部屋の明かりを消してみる。  

まばゆく光るローソクの灯りが美しい


(純子は気が付いていない)。


再び電気をつけて台所に様子を見にゆく。


直樹「できたあー?」

純子「できたできた、ごめんね遅くなって」

直樹「じゃー運ぼうか」

純子「うん、お願い」


料理を次々に運ぶ直樹と純子。  

全部運び終わり、二人ともコタツに座る。  

ワインを開け乾杯する。  

それぞれひとくちづつ飲む。


直樹「おいしい!」

純子「おいしいね!」

直樹「ちょっと待ってね」


直樹は立ち上がりおもむろに電気を消す。  

突然、数十本のキャンドルが暗闇にゆらゆらと美しく映える。  

この時初めてそのことに気付く純子。


純子「ウワー!綺麗!」

直樹「でしょ!」

純子「うん、ほんとステキ!」


嬉しそうにはしゃぐ純子。  

その反応に満足気な直樹。  

キャンドルの火が美しく揺れている。


嬉しそうにはしゃぐ純子、その反応に満足気な直樹。

クリスマスソングと共にキャンドルの火が美しくクローズアップされ、徐々にフェーズアウト。


直樹の語り「翌年の春、僕は大学を卒業して東京に戻りある銀行に就職をした。それは何の迷いもなく消去法で受かった企業の中から一番いい会社を選んだだけのことだった。学生生活の延長線上で社会人生活を楽観的に見ていた自分にとってそれはまさに過酷で苦痛なのだった。忙しさと 人間関係の難しさ、それに慣れない仕事での自信の無さのなかで余裕の日々がいきなり始まり、今の自分のことだけを考えることで精一杯の毎日だった」


《新人の銀行員時代の回想》


〓 銀行の店内 〓


預金係で大勢の女性職員の中で新人として一緒に仕事をしている直樹。  

端末の入力などをぎこちなくやっている。


事務長「木村君」

直樹「はあ」


呼ばれて事務長の前に直立不動で立つ。


事務長「これは何だね、間違ってるだろう」

直樹「すみません」

事務長「何回言えばわかるかね。ちゃんと精査してから回すんだよ」

直樹「わかりました、すみません」

事務長「…」


まわりの女性職員はまたかという表情で知らないふりをしている。  

バツ悪く席へもどり作業を続ける直樹。  

顔を上げてふとロビーの客席を見て驚く。  

一般の客にまぎれて座ってこちらをみつめている純子。


〓 喫茶店 〓


直樹と純子が向かい合って座っている。


直樹「驚いたな…」

純子「…」

直樹「どうしたの、いきなり来て」

純子「…」

直樹「何かあったの」

純子「…だって、電話したって居ないし…」

直樹「…」

純子「手紙出したって返事くれないし…」

直樹「…」

純子「どうしたんだろうて思うじゃない…」

直樹「…ごめん…忙しくって…」

純子「忙しくたって最初は電話だって、手紙だって欠かさずくれたのに…」

直樹「…」

純子「誰か他に好きな人ができたの?…東京には奇麗な人いくらでもいるもんね」

直樹「そんなわけないだろう!ほんとに忙しいんだ。もう気が変になるくらい」

純子「…」

直樹「わかってくれてると思ってたのに」

純子「…」

直樹「事前に何の連絡もなくいきなり来て、こっちにも都合があるし。こんなとこ見られたら何言われるかわからないし」

純子「…」

直樹「仕事の合間に抜け出すなんてこと新人の身には大変なことなんだから」

純子「…ほんとに変わったね。むかしは…そんな言い方絶対しなかった…」

直樹「…」

純子「帰るね …ごめんね、いきなり来て」

直樹「…」

純子「でも…よかった…来てみて…もうわかったから…」

直樹「…」

純子「忙しいのわかるけどあんまり無理しないでね…さようなら」


振り返りもせず一人店を出てゆく純子。  

ポツンと後に取り残された直樹。


直樹の語り「そんなつまらない一瞬で、二人の関係はあっけなく終わってしまった。忙しさにかまけて彼女に連絡を入れたのはそれから数ヶ月経ってからだった」


自宅で電話をかける直樹。


メッセージコール『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


〓 アパート前 〓


挿絵(By みてみん)


アパートの窓が開く音。

その物音に回想が中断され、我に返る直樹。

  

窓が開けられた部屋は昔直樹が住んでいた角部屋である。  

その窓を眺める。  


洗濯物を取り込もうとする手。  

つづいて女性の顔。


直樹「!(驚きの表情)」


目を見開いて感嘆の声を上げてしまう。


直樹「えっ!」

缶コーヒーが手から離れ落ちてゆく。


その声に驚いて女性も直樹の方を伺い見る。  


純子である。  

怪訝そうに直樹の方を見ている。  


それが直樹だとわかり彼女もはっとする。  


放心状態で見つめあう二人。  


やがて純子は、窓を閉めて部屋の中へ引っ込んでしまう。  


我にかえる直樹だが、当惑して茫然と明りのついた部屋を眺め続けている。


〓 アパート(外観) 〓


アパートの裏側から人影が向かってくる。


純子である。  

手を後ろに組み、じっとうつむいたまま  

直樹のもとへ近づいて来る。  

おどおどしながらそれを見守る直樹。


直樹の前に立つ純子(依然うつむいたまま)」


直樹「あ…あのっ(声をかけようとする)」


突然顔を上げる純子。


純子「こんばんわ!(満面に笑み)」

直樹「こっ、こんばんわ…(不意を突かれ動転しながら)」

純子「寒いね(手をこすりながら)」

直樹「…(軽くうなづく)」

純子「何でここにいるの?」

直樹「…」

純子「まっ、いっか!」

直樹「…」

純子「直樹!(大声で)」直樹に抱きつく純子。


要領を得ないが熱いものが込み上げて自らも純子を抱きしめてしまう直樹。


純子「何こんな所でつったってんの、来て!」


手を引かれて純子の部屋へ向かう直樹。  

部屋に入る純子。


〓 アパート‐室内 〓


純子「上がって」


玄関で躊躇している直樹。


純子「(せかすように)さあ!」

直樹「(当惑しながら)お…お邪魔し…ます」

純子「何してたの?寒かったでしょう?」

直樹「いや…酔っぱらちまってたから…」

純子「二十数年ぶりに会ったら、いきなりで、深夜で、しかも酔っぱらってたってか?」

直樹「…御免…」

純子「突然驚くじゃない!説明して…」

直樹「…実は今日、暁寮の同窓会があって福島に来て…今日中に帰るつもりで駅まで来たんだけど…吹雪で列車が止まってて、酔っぱらっちまってから…よくわからないんだけど…気がついたらここに来てて…」

純子「じゃっ…私に会いに来てくれたわけじゃないんだ…(少しガッカリした表情)」

直樹「まさかここに住んでるとは思わなかったし…」

純子「…」

直樹「だけど…会えて嬉しいよ」

純子「そう!(微笑みながら)」

直樹「でも…どうして…何でここに住んでるのさ?」

純子「どうしてって…一応ここは思い出の場所じゃない…別れた後、何となくここに来て…そしたらたまたま部が空いてて、それで…何となく引っ越しちゃったのよ…」

直樹「…驚いたな…」

純子「(話題を変えようと)仕事は相変わらず忙しいの?」

直樹「最悪」

純子「直樹は仕事の鬼だから」

直樹「皮肉だな(笑)」

純子「それで終わったんだもん、私達」

直樹「あの後連絡したらもう引越してた」

純子「…」

直樹「今何してるの?」

純子「幼稚園の先生。ほら、阿武隈川沿いにある信夫幼稚園」

直樹「そっか…」

純子「楽しいよ、毎日」

直樹「うん」

純子「いろんな子がいてさ…おとなしい子、元気な子、優しい子、怒りんぼうな子…」


コタツの上で切り貼りをしながら整理中のアルバムをみせる純子。


直樹「(それがやりかけの仕事だということに気付き)あっ…何か…仕事、やりかけ?」

純子「うん、遠足の時の写真。明日…じゃない、もう今日か(柱時計を見て午前1時を過ぎていることに気付いて)、みんなに見せてあげることになってるんだ」

直樹「御免、邪魔して…かまわないで続けて」

純子「ううん大丈夫、それよりどうするの、これから?」

直樹「うん、今日はもう帰れないから、どっか泊まるよ。明日一番で東京に戻らなくちゃならないんだ…明日も休日出社なんで」

純子「(あきれた表情で)やっぱり…仕事の鬼だ!」

直樹「(苦笑しながら)仕方ないよ、サラリーマンだもん」

純子「(苦笑しながら)じゃっ、隣の部屋で休んで。わたしこれ仕上げちゃうから」


立ち上がり隣の部屋に行き、押し入れを開けて布団をひき始める純子。


直樹「(あわてて制止しながら)いいよ、いいよ、ビジネスホテルにでも泊まるから」

純子「(聞き入れず)いいから!」

純子「(布団がひき終わり)さあ、寝て寝て!」

直樹「…有難う…じゃっ、休ませてもらうわ」

純子「おやすみ」

直樹「おやすみ」


襖を閉めて出て行く純子。  

衣服を脱ぎ、布団にくるまる直樹。  


隣の部屋で仕事を続ける純子が気になり、しばらくは襖からこぼれる明かりに気をとられているが、これまでの疲れがどっと押し寄せ、やがて眠り落ちてしまう。


〓 アパート(外観) 〓



鳥の声。  

カーテンの隙間からこぼれ入る朝日。眠っている直樹。  

やがて目覚め、薄目を開ける。

仰向けの姿勢で今の状況を確認する。  

起きて窓辺に近づきカーテンを開ける。  

外は晴天で一面の銀世界。  

恐る恐る襖を開けてみる。  


純子はいない。  


こたつのテーブルに一枚のメモ。


  《メモ》始め


直樹へ


あんまりぐっすり眠ってて起こすのが気の毒なのでこのまま幼稚園に行きます。

朝食を食べていって下さい。

会えて嬉しかった。

さようなら。

         

純子


《メモ》終り


テーブルに簡単な朝食の用意がしてある。  

窓を一杯に開けてみる。  

気持ちよく晴れ渡っている。  

遠くに雪をかぶったあだたら連峰が美しくそびえている。


直樹「…」


午前十時前をさしている掛時計。  

窓を閉めてこたつに戻り、用意されている朝食をとり始める(ポットから湯を注ぎ、コーヒーをつくったりしている)  

テーブルの上に置かれている電話。  


受話器をとりダイヤルを回す。  


脳裏を横切る張り詰めた職場風景。


直樹「…(途中で受話器を置いてしまう)」


朝食を済ませ、コートを着こむ。


簡単なメモ書きをする。


  《メモ》始め


突然深夜に押しかけて来てゴメン。

元気そうでよかった。

会えて嬉しかったよ。

仕事、頑張れな。


直樹


  《メモ》終り


部屋をでるとドアに鍵をかけ、その鍵を  

メモにくるみ郵便受に投函する。


〓 福島駅 〓


窓口で切符を買う。  

改札口を抜けホームへ向かう。  

ホームで次の新幹線を待っている。

遠くにそびえて見える雄大な安達太良連峰。  

その光景の美しさに圧倒される直樹。  

頭をかすめる殺伐とした職場の情景。


駅のアナウンス「まもなく東京行き、やまびこxx号が到着いたします」


入線してくる新幹線。


挿絵(By みてみん)


直樹の姿は列車の陰に隠れてしまう。  


ゆるやかに走り始め、やがてホームを離れる新幹線。  


依然ホームにポツンと立ったままでいる(乗車したはずの)直樹。  

しばらくそこに立ちつくしたままでいる。  

やがて我にかえりホームを降りて行く。  

その表情は穏やかで、ほころんでいる。


〓 改札口 〓


直樹「すいません忘れ物しちまったんで、戻りたいんですけど」

駅員「はい、どうぞ」


改札口を抜け、駅前のロータリーを通り過ぎそのまま、商店街に行く。一軒の洋服店に入る。


〓 洋品店 〓


洋服店内カジュアルなシャツにセーター、ジーパンなんかを嬉々として選び始める。

女性店員がやってきてアドバイスされる。


女性店員「これなんか着やすくて温かいですよ」

直樹「あーほんとだ、色もいいよね、フフ」


女性店員と直樹とのやり取りがしばらく続き、いくつかの衣類の購入を決める。


直樹「これ着て帰ってもいいですか?」

女性店員「どうぞ、あちらでお着替え下さい」


趣味の良いシャツ、セーター及びジーパンに着替えて試着室から出てくる。

レジで支払を済ませた後、脱いだ背広やワイシャツを無造作にペーパーバッグに押し込み店を出る直樹。


革靴がクローズアップ(カジュアルな服装に不似合いである)


靴屋に入る直樹。


〓 靴店 〓


同じように店員とのやり取りの後、手頃なスニーカーを選び、購入する。

買ったばかりのスニーカーに履き変え、さらに履いていた革靴を押し込んだペーパーバッグを手に店を出てくる。


スニーカーにカジュアルな服装で今度は眼鏡店へ入る。


〓 眼鏡店 〓


ちょっと迷ったあげくにシンプルなサングラスを購入し、それをかけて店をでてくる。

センスの良いカジュアルな服装にサングラスをかけ、大きなペーパーバッグを下げた直樹。


店を出てから手にしているペーパーバッグをしげしげと眺め、それを通りのごみ箱に無造作に捨ててしまう。


身軽になったその足で今度は駅前のレンタカー営業所へ行く。


〓 レンタカー営業所 〓


直樹「一台すぐに借りれます?」

事務員「どんな車が御希望ですか」

直樹「小さいのでいいんだけど」

事務員「そこに止めてあるのでよろしければすぐに御手配できますが」


一台の真っ赤なロードスター。


挿絵(By みてみん)


直樹「ああ、それ、いいな」


手続きを終え、車に乗り込むとエンジンを掛け走り出す。  


軽快なエンジン音とともに、走り出す。

市街を走り抜けて行く。

その後姿をカメラが追い、やがてフェーズアウト。


〓 郊外の路上 〓


場面は郊外の丘の谷間から伸びる道路が映し出される。


直樹の運転する車が、丘の向こう側から少しづつ姿を現わしてくる。

遠目に小さく見えていた車体がこちらに向かって来る。

除々にはっきりととらえられてくる。

やがてサングラスをかけた直樹がリラックスした感じで軽やかに車を運転する姿が映し出される。


挿絵(By みてみん)


直樹「(カーステレオから流れる同じ音楽を口ずさみながら、或いは首を振るなどして音楽に合わせて調子を取りながら軽快に運転している)」


やがて小さな幼稚園の建物が見える。  


〓 幼稚園 〓


幼稚園の前で車をとめて降りる。  

園舎に近づくと、そっと中の様子を覗う。  

園児とたわむれている純子が見える。  

直樹の顔が目に止まり驚きの表情の純子。  

照れくさそうに軽く手を上げる直樹。


直樹「やあ(ゆっくりと口を動かす)」


純子も反射的に手を上げて返す。  

同僚が二人のやりとりに気づき、純子を手招きする.  

二人でしばらくひそひそ話している.  

不安そうにその様子を覗っている直樹。  

やがて同僚にせかされて、押し出されるように純子が外へでてくる。


直樹「よう…」

純子「…(半泣き)」


二人はそのまま連れ立って車へ向かう。  

ドアを開け、助手席に純子を乗せて、車は軽快に走り出す。  


遠くの美しい山々の風景に吸い込まれるように二人の車は消えて行ってしまう。


《オープニングシーンの再現》


古ぼけた寮の周辺に十数名の老人達が集まり寮の建物を懐かしそうに眺めている。


その中の一人の老人(老後の直樹)。


直樹のナレーション(若い時の声で)


挿絵(By みてみん)


♠「それから彼女とは色々あったけど」♥


♠「結局僕らは一緒になることもなく二人はそれぞれの道を選んだ」♥


♠「私は、結果的に生涯を独身で通すことになった」♥


♠「そして十年程前には、サラリーマンとしての慌しい現役時代を全うし、現在は引退後の生活をのんびり過してる」♥


♠「思えば、私の人生はそう悪いものではなかったと思う」♥


♠「サラリーマンとしてもそこそこ成功できた」♥


♠「何よりも多くの素晴らしい人々との出会いに恵まれた」♥


♠「そんな中でも、学生時代のあの頃はわたしにとって、人生の宝石箱だ」♥


♠「今日は、そんな仲間達との久し振りの同窓会だ」♥


〓 寮 〓


<<オープニングの場面が繰り返される>>


直樹と伸一が寮の奥から玄関に出て来る  

二人は玄関に並んで腰掛け、靴紐を結び始める。  

ふと外を見上げる直樹の目に老人達の一団が映る。  

不思議そうに彼らを見ながら伸一に話しかける。


直樹「(老人達の素性がわからず)何だろう(あの老人達は…)?」

伸一「ああ、あれか…何でも、四十年前の卒寮生の同窓会って話だぜ」


再び、老人達の面々。


直樹「そっか…そりゃ、さぞかし懐かしいんだろうな …」


改めて老人達の姿を順番に目で追う。  

穏やかに談笑している老人の面々。  

中でもとりわけ端正な一人の老人に目が止まる。  

感慨深そうに寮を見上げているその老人。


伸一「それもそうだけど、なんか侘しさも相当なもんだべ?あの歳になって青春真っ只中だった頃のことを思い起こすなつーのは」

直樹「そうかもな…。自分もいずれはあの歳になって今の自分を懐かしむなんて夢にも思わんもんな」

伸一「(おどけた感じで)勉強に、恋に、遊びに、今は精一杯だってか!」

直樹「(笑いながら)全くだ!」


靴を履き終えて、二人は連れだって練習場へ向かって走り始める。  


直樹はゆっくりと走り出しながら老人達の方へ今一度視線を向ける。


直樹(学生)はゆっくりと走りながら老人達の方へ今一度視線を向けて行く。

現在の直樹(老人)も寮の建物を見上げている視線をゆっくりと直樹(学生)へと向けて行く。


両者の視線がスローモーションで交じり合って行く。


音楽は両者の視線の合致に向けて徐々に高まって行く。


音楽のサビの部分で両者の視線が合致。


その瞬間、効果的な画像で一瞬ストップモーション。


この時、最高に強調されたされた音響で音楽が強調される。


やがて、少しづつ音楽のトーンが下がって行き、何事も無かったように両者の視線は離れて行く。

その後、カメラは引き続き学生の二人の後をテニスコート場まで追って行く。


〓 テニスコート場 〓  


他の仲間達。  

合流する二人。  

直樹はその中の一人の女の子に親しげに話しかける。  

純子。  

仲むつまじく楽しそうに語らっている直  

直樹と純子。


〓 学生寮・表 〓


懐かしそうに寮の建物を眺めている老人(老後の直樹)。  


美しい山々の風景。  


晴天の青空。


挿絵(By みてみん)


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