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♠ 前編 「脱出」

■東京駅・新幹線ホーム■ 


挿絵(By みてみん)


けたたましく鳴り響く発車ベルの音。  

全速力でホームの階段を駆け登る直樹。

ベルが鳴り止むのと同時に発車間際の列車に飛び乗る。  


ドアが閉まり、ゆるやかにホームをすべり出す新幹線。


■新幹線・車内・デッキ■


ドアにもたれて胸をなでおろす。  

少し落着いてから客車内へ移動する。


■新幹線・車内■


車内はすいている。

中程の席に腰をおろす。


直樹「(額の汗をぬぐい、ぼやくように)…ったく嫌な次長だよな…」


新幹線内での職場風景の《回想》開始


■銀行の支店・外観(夕暮れ)■


情景(支店は繁華街にある都心店舗)


■銀行・店内■ 


融資課の案内標識。


無表情に机に向かい黙々と仕事をしている何人もの職員。


直樹「(腕時計を見ながらしきりに時間を気にしている様子)」

隣席の同僚「(怪訝そうに見ている)」

直樹「(更に落着かない様子)」

隣席の同僚「どうした?」

直樹「えっ?」

隣席の同僚「何そわそわしてんだ?さっきから」

直樹「?」

隣席の同僚「(腕時計を指差すしぐさで)何か約束か?こう毎週毎週休日出勤じゃあ約束もままならないよな」

直樹「(苦笑して)今週は明日の日曜も出だしな(再び、腕時計を見る)」


時計は午後四時前をさしている。 

引き出しから一枚の葉書を取り出し内容を確認する。



  《往復はがきの控え》始め。


第五十五回南東北大学暁寮同窓会のお知らせ(注.大学名及び寮名は仮称)

  

日時: 12月20日(土曜日)午後六時


場所: 於飯坂温泉山楽屋旅館


  《往復はがきの控え》終り。


《学生時代の追憶》始め。


■南東北大学(仮名)学生寮・表(昼)■


情景(昔ながらの古ぼけた木造の建物)

天気の良い穏やかな冬の午後。


周辺に十数名の老人達が集まり寮の建物を懐かしそうに眺めている。


寮生である木村直樹と田中伸一が寮の奥から玄関に出て来る。

テニスウエアを着てラケットを抱えてクラブ活動の練習へ行くところ。


玄関に並んで腰掛け、靴ひもを結び始める。

直樹の目に老人の一団が映る。

彼らを不思議そうに見ながら伸一に話しかける。


直樹「(老人達の素性がわからず)何だろう(あの老人達は…)?」

伸一「ああ、あれか…何でも随分昔の卒寮生の同窓会って話だぜ」


再び、老人達の面々。


直樹「そっか…そりゃ、さぞかし懐かしいんだろうな …」


改めて老人達の姿を目で追っていく。

穏やかに談笑している老人達の面々。 


とりわけ端正な一人の老人に目が止まる。 

感慨深そうに寮を見上げているその老人。


伸一「それもそうだけど、なんか侘しさも相当なもんだべ?」

直樹「?」

伸一「あの歳になって青春真っ只中の頃を思い起こすなんつーのは」

直樹「そうかもな…。自分もいずれはあの歳になって今の自分を懐かしむなんて夢にも思わんもんな」

伸一「(おどけた感じで)勉強に、恋に、遊びに、今は精一杯だってか!」

直樹「(笑いながら)全くだ!」


シューズを履き終えて、老人達を一瞥しながら、そのまま練習場の方へ走って行ってしまう二人。  


老人達の面々。


《学生時代の追憶》終り。


新幹線内での職場風景の《回想》に戻る。


■銀行・店内■ 


葉書をカバンにしまい上着をまとって鞄とコートをかかえて立ち上がる。


周りの職員が直樹に視線を向ける。


おずおずと次長席へ歩み寄る直樹。  

頭をかかえて書類をながめている次長。


直樹「次長…」

次長「?(怪訝そうに直樹の顔を上げる)」

直樹「御話ししてありますが…」

次長「?」

直樹「今日はこれで失礼したいのですが…」

次長「何だっけ?(唖然とした表情)」

直樹「ええ… 先日御願い致しましたとおり、これから福島での学生時代の同窓会に行かせて頂こうと思うのですが…」

次長「何! 本当に行くの…」

直樹「…」

次長「あれから何も言ってこないから、てっきり諦めたと思ってたよ」

直樹「…」

次長「仕事の方、大丈夫なの?高橋さんの案件まだとおってないし、光栄産業の件も月曜には決めなきゃならないだろう。田島工業の社長には例の件話しをつけたんだろな。期限までに間に合うの?だいたい今週の融資目標全然いってないよね」


一気にまくしたててくる次長。

かなり苛立っている感じ。


直樹「…はい、すべて手配済みです。それに明日も休日出勤ですから、それに間に合うように今日中に最終列車でとんぼ返りする予定ですので」


少し怯みながらも何とか訴えかける直樹。

今日は土曜日の休日出勤だが、この週末は翌日の日曜日も含めた連日の休日出勤が予定されている。


次長「今から福島くんだりまで行って今日中に帰ってくるなんて、ただ疲れにゆくようなもんだろう?」

直樹「…」

次長「叉の機会にしたら?」

直樹「いえ…その機会がなかなかなかありませんので今回は是非行って来たいんので…」

次長「…(憮然)」

直樹「…(困惑)」

次長「この後もう一度、全体会議で数字の詰めをやろうと思ってたのに…」

直樹「…」

次長「今月の目標数字に合うように再構築の数字を明日必ず提出してくれよ」

直樹「はい…」


■銀行の支店・表(夕暮れ)■


通用口から直樹が出てくる。


外は繁華街に夕方の喧騒の響き。

通りは混雑している。

 

直樹の憂鬱な表情が見る見るほころんでくる。


小走りに通りまで出ると、大げさな身振りでタクシーを拾う。

一台のタクシーが止まりドアが開く。


■タクシー車内■


直樹「(大声で)運転手さん、東京駅まで御願します、大々至急!」


夕暮れの街並みに消えて行くタクシー。


新幹線内での職場風景の《回想》終了。


■新幹線/車内/座席■


頬杖をつきながら、ぼんやりと夜の車窓の風景を眺めている直樹。


直樹「毎日毎日…何やってんだか…(吐き捨てるように)」


車窓の風景


挿絵(By みてみん)


直樹「(大学時代の)皆はどうなんだろう…」



《学生時代の回想》開始


□□□美しい福島の自然の風景□□□


□□□躍動的なテニス部の活動シーン□□□


□□□楽しそうな寮生活の日常の数コマ□□□


□□□お祭り騒ぎで盛り上がる学園祭風景□□□


最後に学生時代の恋人、純子との思い出が思い起こされる。


■阿武隈川・川岸■

 

初夏の夕暮れ。


挿絵(By みてみん)


投げるのに適当な石を探している直樹。  

傍らに腰掛けている純子。


純子「もう、卒業だね」

直樹「(石を探しながら)うん」

純子「就職どうするの?」

直樹「(石を拾いながら)まだわからないよ」

純子「何かあるでしょ」

直樹「(拾った石をながめながら)…何か…大きな事をやりたい」

純子「大きな事って?」

直樹「(投球フォームで)具体的には思いつかないけど… 」

純子「卒業は目の前だよ」

直樹「…(石を川へ投げ込む)」

純子「じゃー子供の頃何になりたかった?」

直樹「(振り返って)新幹線の車掌さん」

純子「何それ…普通、宇宙飛行士とか野球選手とか夢みたいなこと考えてるものじゃないの?」

直樹「(純子の方へ近づきながら)電車大好きでさ、本当になりたかった」

純子「おかしいけど…直樹らしい。ちょっと人と違うよね」

直樹「(傍らに腰をおろしながら)きみは?」

純子「決まってるじゃない」

直樹「なに?」

純子「素敵なお嫁さん」

直樹「(あきれた表情で)それこそ!」

純子「何よ?」

直樹「(苦笑して)単純!」

純子「そうかな」

直樹「…」

純子「…」

直樹「…今の自分にとってさ…」

純子「え?」

直樹「今の自分にとって… 人生なんて無限にあるような気がするし…」

純子「…」

直樹「やりたいこと山ほどある気がするし」

純子「うん」

直樹「何でもできそうな気もするし…」

純子「…」

直樹「…やっぱりわからないや…」

純子「フフフ…」

直樹「フフフ…」


すがすがしい夕暮れの風に吹かれながら川向こうを眺める直樹と純子。


直樹の語り「あの頃は、人生は無限に続くように思えていたし、やりたいことは何でもできるような気がしてた」


《学生時代の回想》終了


■新幹線車内■


挿絵(By みてみん)


回想が突然の車内放送に中断される。

音楽の終了と供に現実の新幹線車内のシーンに戻る。


けたたましいイントロの音楽とともに車内アナウンスが入る。


車内アナウンス「まもなく宇都宮、宇都宮に到着です。御降りの方は御忘れ物ございませんよう御支度下さい(東北出身の車掌さんらしくちょっと訛った感じ)」


新幹線が夜のホームに滑り込む。

数人の乗客が降りる。


発車ベルが鳴る。

ゆっくりとホームを離れる新幹線。


車内に残っている数人の乗客は皆、眠ったり雑誌を読んだりしていてシーンと静まりかえっている。


車窓から外を眺める直樹。

都会のイルミネーションとは対照的で暗く寒々とした風景。


■新幹線 車内■


真っ暗な車窓をながめている直樹。

車窓に思い浮かべられた懐かしい学生時代の友人達の面々。

皆と会える実感が着実に沸きはじめうれしくなり、心も和み顔がほころぶ。


■新幹線 外観■


夜の闇を突き進む新幹線。


挿絵(By みてみん)


■新幹線 車内■


車内には数人の乗客がいるが皆眠ったり   

本を読んだりして静まりかえっている。  


寒々とした車窓の風景。


直樹「ふーっ(大きな溜息)」


カバンから仕事の資料を取り出す。

それをテープルの上や隣の席にひろげている。


直樹「全く余裕…ないよな(つぶやく)」

  

《回想》最近の日常生活


■銀行の支店 店内■


店内の時計が夜十時を指している。  

黙々と仕事をしている行員達。


次長が直樹を呼びつける。

次長「木村君」

直樹「はい」

次長「ちょっと」

直樹「はい」


次長のもとへ歩み寄り対面の椅子に座る。


次長「田島工業は担保評価が甘いな。これでは追加融資無理だぞ」

直樹「しかし…これは事前に次長とも相談させて頂いて大丈夫だとのことだったので先方にはOKだしてしまっるんですよ」

次長「そうかもしれんが…本店の審査部でそう言ってきたんだ」

直樹「社長はもう期待してるんですが… 」

次長「本決済前に期待させるからだ(気色ばむ)」

直樹「…」

次長「とにかくもう一度検討しなおしてくれ」

直樹「…はあ」


不満そうに自分の席にもどる。


隣の同僚が『いつもながらの次長の強引な態度に辟易するよな』という風に直樹にめくばせする。

苦笑する直樹。


次長「高木君!例の融資案件だが…」


別の融資課員が次長に呼ばれる。


《次のような日々のドタバタシーンがショートカットで次々と入る》


■零細町工場 オフィス内■


ついたてで仕切られただけの質素な応接スペース。

社長と向かい合って座っている直樹。


直樹「社長、今年は当行創立100周年記念でございまして…」

社長「…(タバコを取り出す)」

直樹「記念キャンペーンを行っているのですが、是非一件御融資させて頂けないでしょうか」

社長「これまでも、なにかにつけ協力してきたけど肝心な時こそなかなか貸してくれないじゃない(タバコをくわえながら)」

直樹「(すかさず、社長のタバコに火をつける)…(困惑気味)」

社長「今借りてるのだって、全部十分すぎるほどの担保を差し入れてるものばかりじゃない」

直樹「(一生懸命愛想笑いを浮かべながら)そうおっしゃらずに…」

社長「こういうときばっかり頼まれてもねえ(チョット嫌味っぽく)」

直樹「そこを何とか…今後もっともっと頑張らせて頂きますので…」

社長「まあ…考えとくよ」

直樹「是非ともよろしくお願い致します」


■銀行 店内■


銀行の次長席の前に立って弁明している直樹。


次長「今月の融資目標まだ半分もいってないじゃないか」

直樹「はい…先月かなり強引にお願いし尽くしてしまいましたので…今月は宛が限られてしまいまして…」

次長「(語気を荒げて、机なんかを叩きながら)先月は先月だよ!みんなそれでも目標をクリアーしようとしてるんだから!(憤っている)」

直樹「(怯みながら)はい…」

次長「とにかく、今月はもう日がないんだからどうにかしてくれよ!」

直樹「はい…」


■クラブでの接待■


成金趣味のちょっとシャレたクラブで顧客接待している直樹。

両脇をホステスにはさまれて座っている顧客に、おべっかをつかっている。


直樹「社長は本当にお若いですね」

顧客「気だけがな」

直樹「何をおっしゃいます。よく勉強されてますし、考え方も柔軟ですし、われわれも顔負けですよ」

顧客「そうかなー(ちょっと嬉しそう)」

直樹「そうですよ。うちの上司なんてみんな融通のきかないガチガチ頭ばかりで息が詰まりそうですもの。社長のような方の下で働けたらどんなに幸せかわかりませんよ、本当に(一生懸命本当らしく話す)」

顧客「… フフフ、まあ、銀行を辞めたくなったらいつでも来なさい(まんざらでもない様子)」


■銀行支店内■


私服で休日出勤している行員達。

隣の席の同僚と話す直樹


同僚A「今月は週末、今日を含めて六日目の休日出勤だな」

直樹「毎日遅い上にな」

同僚A「高橋さん、ついにダウンだってさ」

直樹「五十五歳のあの年で毎日の深夜残業と休日出勤の生活はもう限界を超えてるよな」

同僚A「それでも医者に寄った後で出勤するって電話があったそうだ」

直樹「全く… 地獄だな…」


■ラーメン屋 店内■


店内の時計が十一時過ぎを指している。


直樹が同僚3人とラーメンや餃子を食べながらビールを飲んでいる。


直樹「まったく次長にはまいるよな…」

同僚A「いろいろ言うのは簡単だけど、お客の矢面に立たされるのは俺達だもんな」

同僚B「俺なんか五回も稟議出し直しだぜ」

同僚A「後からなんのかんの言ってくるなら最初に言えっつうの」

同僚C「しかし毎日毎日残業残業、その上に休日出勤の連続で、何してんのかね、俺達...」

同僚A「ホント、何のために生きてるんだか」

直樹「…」

同僚C「まともじゃないよな」

同僚B「逃れたいよ!こんな生活から」

直樹「(腕時計をみながら)おっと、もう十二時になる。終電なくなるぞ」


■電車(深夜)■


挿絵(By みてみん)


■電車の中■


つり革にぶら下がり目を閉じている直樹。 


他にもつり革にぶら下がったり、ドアにもたれかかったり、座席に腰掛けて居眠りをしている疲労困憊のサラリーマンの 顔、顔、顔。


■駅■


改札口を抜け、帰宅を急ぐ直樹。

途中コンビニエンスストアに寄る。


■コンビニエンスストア・店内■  


パンとか牛乳とかを買い、レジへ向かう。  

若い学生風のカップルがブックコーナーで楽しそうに立ち読みしながら話してる。


直樹「…(羨ましそうにその様子を伺う)」

  

《学生時代の回想》


■銭湯 外(夜)■


銭湯の外で洗面具を入れた桶を抱え、震えながら純子を待つ直樹(初冬という感じ)。

屈伸したりして寒さをしのいでる。  

程なく純子が出てくる。


純子「ごめんね」

直樹「おそーい!」

純子「そんなに待った?」

直樹「1時間くらいかな」

純子「またー!そうゆうこと言う」

直樹「凍え死ぬかと思ったよ」

純子「オーバーなんだから…でもごめんね」


手をつないで歩いて行く二人。  

コンビニエンスストアの前を通かかる。


■コンビニエンスストア 店内■


直樹「何飲む?」

純子「温かーい缶コーヒー!」

直樹「オッケー」


缶コーヒーの売り場へ行く直樹。  

ブックコーナーで雑誌を読み始める純子。  

やがて缶コーヒを手に直樹がやってくる。


直樹「ほれ!(缶コーヒーを渡しながら)」

純子「ねえ、見て見て。行きたいねー」


温泉の特集が載っている雑誌を見せる。


直樹「いいなあ。バイト代入ったら行こうか」

純子「うん。行こう、行こう、絶対行こうね!」


《学生時代の回想》終了


■コンビニエンスストア 店内■


前述の若いカップルの存在を気にしながら一人寂しそうに店を出る直樹。


■マンション■


エレベータに乗り、自分の部屋へ向かう。  

部屋の鍵を回しドアを開ける。  


暗闇。  


雑然とした室内に明かりがともる。  

寝室に向かい、そのままベッドに倒れこんでしまう。  

午前1時過ぎをさしている掛け時計。


直樹「つ.か.れ.た…」


つぶやきながらそのまま眠ってしまう。


■マンション(表)■  


朝の情景  

鳥の鳴き声。  

昨夜の背広姿のままうつぶせになって寝てしまっている直樹。  


突然ガバッと起き上がり、腕時計を見る。  

七時を過ぎている。


直樹「(大声で)やっばっ!」  


大急ぎでワイシャツだけ着替え、背広を着て、ネクタイを結びながらあたふたと家を飛び出す。


直樹の語り「つい今さっき寝たかなーと思う間もなくすぐに朝が来る。これは決してある特別な一日の話しではなく、毎日毎日がこんなことのくり返しなんだ。こんな生活を続けていたらいつか本当に死んでしまうんじゃないかと思う…」


■新幹線車内■


窓辺に寄りかかって眠っている直樹。

作業しかけた書類がテーブルや隣の座席に広げられたまま散在してる。

熟睡している様子。


イントロの音楽と共に車内アナウンス入る。


車内アナウンス「間もなく郡山、郡山でございます。盤越西線と盤越東線御利用の方お乗り換えです」


車内アナウンスの声に目覚める直樹。


目をこすりながら、腕時計を見る。

窓の外を眺める。

小雪がちらついて、幻想的な外の景色が夢を見ているように流れてゆく。


列車が郡山のホームに入ってくる。


挿絵(By みてみん)


ひっそりとした駅構内。

ホームの郡山駅名表示板。


《学生時代の回想 開始》


■郡山駅■


在来線の郡山駅名表示版。


列車を降りる直樹と純子。


直樹の語り「それは僕と彼女の何度目かのデートだった」


■在来線郡山駅ホーム■


直樹「天気が良くてよかったね」

純子「ほんとですね(付き合い始めなので言葉使いもまだ堅苦しい)」

直樹「磐梯高原なんて行くのは初めてなんだけど… 」

純子「わたしは行ったことあるわ」

直樹「そりゃ心強いや」

純子「でも方向音痴だしぜんぜんあてにならないですよ」

直樹「大丈夫、全くあてにしてないから」

純子「ひどいなー」

直樹「うそ、うそ、そこからバスに乗れば簡単に着けるよ。ほら、来てる、来てる。急がないと!」

純子「待ってー」


バスに向かって駆けてゆく直樹と純子。


■バスの車内■


二人並んで腰掛ける。

並んで座っているので純子との体の触れ合いにとてもナーバスになっている直樹。

直樹はあえて平静を装うが、ちょっと、手が触れてあわてて手を引いたりしている。


直樹「昨日はよく寝られた?」

純子「もうタップリ、今日に備えて十時には寝ちゃいましたよ」

直樹「ほんとー?僕なんか楽しみで楽しみでほとんど寝られなかったよ」 

純子「よく言う、うまいんだからー」

直樹「何でそう言うかなー、本当なんだってば」

純子「まあ、そういうことにしときましょう笑)」


バスは軽快に走りつづけ、遠く山々が美しく展開する。


純子「お腹空きませんか?」

直樹「そういえば、あさめし食べてないや」


カバンの中から弁当の包みを出し、中身をひろげる純子。


純子「ジャーン!」

直樹「うわー!すごい、すごい!これ、みんな手作り?」

純子「当然!(得意そうに)」


かなり凝った料理である。純子はそれを小皿に少しづつ盛り、直樹に差し出す。


純子「どうぞ」

直樹「ありがとう」


一口二口食べる直樹。


直樹「おいしい!」

純子「朝早く起きて作ったんだもん」

直樹「いやー、本当においしいよ。純子さんは料理上手だね(しみじみとうれしい)」


直樹の語り「女の子に弁当を作ってもらったことなんて初めてだった。感激した。実はこの日、僕はちょっと不埒なことを目論んでいた…っと言うほど大げさなモノでもないんだけれど。そう、ただ彼女の手に触れてみたかっただけなんだけど」


■五色沼(磐梯高原)■


挿絵(By みてみん)


五色沼に到着し、他の乗客とともにバスを降りる直樹と純子。

二人並んで沼のほうへ歩いてゆく。


直樹「疲れた?」

純子「全然!それより景色がきれいでしたね」


手をつないで歩いているいくつかのアベックがクローズアップされるとともに、そのアベックの手を直樹の目が追いかける(純子の手に全神経が集中してる)。


直樹「下まで降りてみようか」

純子「はい」

直樹「気をつけて!」


直樹「(チャンス!)」


すかさず手を差し出す直樹。


純子「まあーステキ!(景色に気をとられて差し出された手に気付かない)」


差しのべた手をぎこちなく引っ込めながら、ちょっと意気地をくじかれた思いの直樹。


純子「絵の具の色みたいなコバルトブルー」

直樹「…フフフ…」

純子「あっ、ボートだ」


沼にいくつものボートが浮かんでいる。


直樹「乗ってみようか?」

純子「大丈夫?」

直樹「まっかせなさい」


ボート乗り場へ向かって歩いて行く直樹と純子。

ボート乗り場に着く。

純子をそこに残し、チケット売り場へ駆け寄って行く直樹。

純子の目線で美しい五色沼の風景が何ショットか映し出される。

やがてチケットを買って戻ってくる直樹。

係員にチケットを渡して、ボートを引き寄せてもらう。


直樹「よーし、先に乗って」

純子「こわーい。ちゃんと押さえてて下さいね」


純子は上手く乗り込み、先方の席に腰掛ける。


直樹「よーし、僕の番だな。よっこらしょっと!」

純子「キャッ(ボートがゆれて、ちょっと悲鳴を上げたりしてる)」

直樹「ごめん、ごめん」


■ボート■


ボートの中で向かい合って腰掛けている二人。


純子「ちゃんと漕げるんですか?」

直樹「まあ見てなさいって!」


ボートをこぎ始める直樹。

かなり上手に漕ぐ。

ボートはスムーズに走りだし、スピードを上げてぐんぐんと進む。


純子「すごい、すごい!」

直樹「だから言ったでしょっ(得意そうに)」


沼の中をゆるやかに走るボートの中ではしゃいでいる二人のいくつかのショットが展開する。

しばらくしてボート乗り場に戻る。


直樹「じゃー先に降りるよー」

純子「はい」

直樹「気をつけて降りておいで」

純子「何かこわいー」

直樹「大丈夫、はい!」


再び手を差しのべる直樹。

素直に差し出された手につかまる純子。

しっかりと握り合った手と手がクローズアップ。


直樹「おっ、面白かったねえ!…ホント(緊張しながらも、平静を装っている)」


全神経が握った手に集中しており、かなり緊張している直樹。


純子「ほんと、楽しかった(あっけらかんと)」


ボートから降りた後も手を握ったままでいる。

純子は全く気にしていない様子。

一方純子の手のぬくもりを直接感じて幸せな気分で一杯の直樹。


直樹「何か飲もうか」

純子「喉乾いたね」

直樹「何がいい?」

純子「私買ってくる」


さらりと手を振りほどいて売店へ向かう純子。

こともなげに手を振りほどかれて、ちょっと悲しい直樹。

その後ろ姿を見守っている。

しばらくして缶ジュースを抱えて戻ってくる純子。

その顔がこちらに向いたので気を取り直し、すかさずニコッと微笑む直樹。


純子「はい!これでよかったかしら?」


缶ジュースを渡した後で純子は彼女の腕を直樹のそれにごくごく自然にすべり込ませる。

嬉しい直樹。

その後遊歩道を散歩する二人の楽しそうなショットが次々と展開。


■バス車内■


日が暮れて薄暗い帰りのバスの車内

直樹と純子、他の乗客と離れて後ろのほうのシートに座っている。


直樹「楽しかった?」

純子「もう、とーっても!ちょっと、はしゃぎすぎちゃった」

直樹「一日なんてあっという間だね」

純子「ほんとにねー。もっと居たーい」


ちょっと間があって、小さくあくびをする純子


直樹「朝早かったから眠いでしょ?」

純子「ううん、大丈夫」

直樹「無理しないでいいよ。ここに寄りかかっていいから少し寝たら?」

純子「(ちょっとらめらった後)有り難う。それじゃーちょっと眠らせてもらおっと…」


直樹の肩にに寄り掛かりながら眠る純子。


眠り顔がとても愛らしく美しい。

純子の寝顔を見つめる直樹。

直樹「―(しみじみと可愛いと思う)」


ちょっとためらって髪に触れてみる。

さらにその髪を(優しく)なでてみる。

目を閉じて眠ったままでいる純子。

純子の唇がクローズアップ。

それを見つめる直樹。

純子の唇がさらにクローズアップ。

その唇をさらにじっと見つめる直樹。

やがて、意を決して静かに自分の唇を重ねる直樹。

さらに優しく抱きしめる。


車窓から美しい星空が見える。 


《学生時代の回想 終了》


■新幹線車内のシーンに戻る■


小雪の降る暗闇を突き抜けるように走る新幹線。


三人掛のシートに横になっている直樹。

あお向けになりながら時計を見る。

すでに、七時になろうとしてる。


直樹「遅くなったな。五時から始まってるから、着く頃には終わっちゃうかな。間に合ってもほとんど居られないや…何とか一泊できないかな… 」


おもむろに、カバンから手帳を取り出し、しばらく考え込む。

ちょっとためらった後、意を決してカバンから携帯を取り出して電話をかけにデッキへ歩いて行く。


■新幹線デッキ■


直樹「もしもし… 木村です」

直樹「はい、新幹線の中なんですよ」

直樹「ええ」

直樹「はい」

直樹「ええ、次長をお願いできますか」

直樹「もしもし、木村です… はい」

直樹「…ええ?」

直樹「はい…はい…」

直樹「そうですか…」

直樹「はい…はい…はい」

直樹「…わかりました…明日必ず…」

直樹「はい、失礼します…」


大きなため息をつきながら携帯を切る。


直樹の語り「何とか明日の休日出勤を免れようと次長に電話してみたが、こちらがお願いする前に、あちらからわめきたててきた。出がけの件で懸念していたお客さんが支店に怒鳴り込んでき大変だったということで、とにかく明日一番でそのお客さんのところへ出向き、謝ってこいとのことだ。とても『一日休ませて下さい』どころではない。一気にに気分が重くなった」


首を振りながら重い気分で座席に戻り、ふてくされて気味にだらしなく席に座る直樹。

程なく車内アナウンスが入る。


車内アナウンス「お待たせ致しました。間もなく福島、福島でございます。奥羽線、山形方面 お乗り換えです。福島を出ますと、つぎは終点仙台です」


大急ぎで散らかした書類を片付ける直樹。

つづいて上着とコートをはおり、降りる準備をする。

カバンを手に、出口へと向かう。


■新幹線(外観)■


雪の舞う暗闇を突き進む新幹線。


■福島駅■ 


開くドアから真っ先に列車から降りてくる直樹。


大急ぎで階段を駆け降りる。

連絡通路を猛スピードで走り抜け、改札を慌ただしく通り抜けて行く。  

そのまま駅前のタクシーに飛び乗る。


■タクシー■


直樹「飯坂温泉まで大至急お願いします」

運転手「はい」


夜の通りを軽快に走るタクシー。  

外は相変わらず雪がちらついている。  

トンネルを抜け、川を渡り、真っ暗闇の田園地帯を走り抜ける。

温泉街に到着。


運転手「どちらの旅館ですか?」

直樹「『山楽屋』っていう旅館なんだけど…」

運転手「ああ、わかります」


旅館に到着する(ごく普通の旅館)。 

車を降り、腕時計を見る。 

七時過ぎである。


直樹「うわー、もう全然時間がないや!」


■旅館・外観(夜)■


ひっそりとした夜の雪景色。


■旅館・館内■


誰も居ないフロント。


直樹「すみません」


奥から仲居さんが出てくる。


直樹「暁寮同窓会に来たんだけど…」

仲居「はいはい、いらっしゃいませ。皆さん始められてらっしゃいますよ」


仲居さんに案内されて宴会場へ向かう。


■同窓会宴会場■


襖を開けると皆が一斉に直樹に注目する。  

すでに出来上がっている顔、顔、顔。


「ウオー!直樹が来たぞー」「おせーぞー」「何やってたんだー」「いよーっ、待ってましたー」等と叫び声が飛ぶ。


何人かが、直樹のもとに集まってくる。


直樹「ごめん、ごめん、今日も仕事で会社出るのに随分手間取っちまって…」

山本「まあいいから、こっちきて飲め」


腰を降ろし、皆と合流する直樹。


山本「ほれほれ、飲め、飲め」


ビールをつがれ、それを一気に飲み干す。


直樹「どうだ、みんな元気だったか?」

山本「ボチボチだ、おめえは忙しそうだな」

直樹「全くな。学生時代が懐かしいよ」

高田「今日は飲み明かそうな!」

直樹「それが…明日も仕事でさ…最終の新幹線で帰らなくちゃならないんだ」

山本「何、バカ言ってんの。冗談だろ?」

直樹「殺人的に忙しくてさ…」

高田「大変なもんだなお前のところは」

大橋「全くまともじゃねえな」


大橋が話しに割り込んでくる。


直樹「過労死寸前だよ」

山本「死んじまえ、死んじまえ、思い残すこ何も無いべ?」

直樹「何言ってんだよ。いま死んだら俺の人生一体何だったんだか(おどけて)」


(一同大笑いする)


大橋「直樹はまだ一人ケ?」

直樹「ああ、なかなか縁がなくてな」

高田「一人が絶対いいって!結婚すると自由なんてねえぞ。今日だって一日家空けるだけでカミさんとすったもんだよ」

山本「夫婦のグチこぼしてどうすんだよ」

大橋「そうそう、ただのおやじだよ」

高田「しかし、俺達ももう若くねーな」

直樹「ほんと、あっという間に歳くっちまう」

山本「この間まで学生だった気するけどな」

大橋「ほんと、ほんと、気持ちはまだ若いつもりだけど、体が確実にきてるよな!」

山本「もう徹夜とかできねーなー」

高田「よくやったな、試験前(笑い)」」

大橋「そういや、田中は試験最後の日寝坊して受験しそこなって留年したんだっけ?」


背を向けて別な相手と話していた田中に話しを振る。


田中「(こちらを向く)そうだよ、就職も決まってたのに、悲惨だったぞ」

大橋「ほんと、マヌケだったよな、おまえは」

田中「一歩間違えばおめも同じだったべ」

高田「今日、昼間に大学みてきたよ」

山本「おう、どうだった?」

高田「なんか、時代の流れを感じたよ。皆チャラチャラしちまって…今の若いのは覇気ねえしな」

大橋「『若いの』だなんてそれこそ完全におやじじゃねーか」

田中「全くだー」

高田「でも、寮はあの時のままだったなあ」

山本「古くてきったねえ寮だったど、あれはあれでよかったよなー」

直樹「ああ、四年目でアパート暮らしするまでの三年間、人生で最高に盛り上がってた時だったんだよな(しみじみと)」

山本「しかし、冬は寒かったな」

直樹「夏も暑かったしな(笑い)」

大橋「寮は八畳で三人暮らしてたんだっけか?」

田中「そう、そして6畳で二人」

山本「最初の先輩が野崎さんでさ、よく合コンにつれってもらたなー」

高田「俺も初めての部屋コン、野崎さんに連れってってもらたよ。緊張しちゃってさ、てんでさえないの」


直樹の語り「部屋コンというのは寮の部屋の先輩が知り合いの女子寮の学生に同じく新入生の後輩を連れて来て貰い、喫茶店などで引き合わせるという、いわばアルコール無しで一対一の簡便的な合コンとのいうべきもので、新入生にとってはとても刺激的で楽しみなものだった」


《学生時代の回想》開始


■『部屋コン』会場の喫茶店■


喫茶店で部屋コンに参加している直樹を始めとする寮生五人程と同数の女子学生。

それぞれペアになってテーブルに向かい合わせに座っている。

女子学生と向かい合ってものすごく緊張して座っている直樹。


直樹「あ…き、木村…直樹です…よろしく」

本田裕子「本田裕子です」


極めて地味なごく平凡な感じ。可愛くもない。


直樹「…あの、出身はどちらですか?」

本田裕子「県内の郡山です」

直樹「…」

本田裕子「…」

直樹「…趣味とかは?」

本田裕子「読書とか料理とかです」

直樹「ああ、料理が得意なんだ」

本田裕子「いえ、得意ではないです」

直樹「…」

本田裕子「…」

直樹「こういうのは何回か来たことあるんですか?なんか、緊張しますよね、フフフ …」

本田裕子「わたし、初めてなんです、こういうの」

直樹「ああ…そうなんだ…」

本田裕子「…」


直樹の語り「よくいるんだがこういう所へ来てもあまり話しをしようとしない女の子に当たった時は大変。間がもたなくって苦痛になってくる。気が向かないのなら来なけりゃいいのに」


直樹「兄弟は何人なんですか?」

本田裕子「二人です」

直樹「…二人っていうことは、お兄さんがいるとか」

本田裕子「妹です」

直樹「…」

本田裕子「…」


直樹の語り「面接をしてるんじゃないんだから少しは話しを発展させるとかこっちにも質問するとかして会話を楽しむ努力をしてくれればいいのに」


直樹「…」

本田裕子「…」


(沈黙)


直樹「あの…」

本田裕子「…」

直樹「趣味は何ですか?」

本田裕子「… 」


直樹の語り「しまった、さっき聞いたっけ!」


直樹「ああ、ごめんなさい…」

本田裕子「…」

直樹「さっき聞きいたよね、フフフ…(ばつが悪そうに)」

本田裕子「…」

直樹「…」

本田裕子「…(憮然とした感じ)」


直樹の語り「こんな調子で無駄な時間が過ぎて行くことになる。一方でほかのヤツが可愛い子と楽しそうに盛り上がっていたりするとくやしいし、気になるし、羨ましい」


他の寮生の一人とその相手の女子学生のやりとり。とてもチャーミングで可愛らしい。


女子学生A「ホント?知ってる、知ってる」

僚友A「なんだ、行ったことあるのか。奇遇だねー」

女子学生A「うん、他には?」

僚友A「あとー、北海道の根室とか」

女子学生A「ああ、いいですよねー。魚とかおいしいんでしょ?」

僚友A「蟹がめちゃくちゃ安くてうまかったー」

女子学生A「いいな、いいなー、行きたいなー」


直樹の語り「旅行の話しかなにかで盛り上がってとても楽しそう。ああ、俺も彼女と話したい!」


目の前には本田裕子。


直樹「旅行とか好きですか?」

本田裕子「(無表情に)あんまり」

直樹「…(絶望的な表情)」


直樹の語り「結局、合コンや部屋コンの類でステキな娘と縁ができたことは一度もなかった」


《学生時代の回想》終了



■旅館・外観■


情景(しんしんと雪がふっている)。 


■旅館・宴会場■


皆、酔って完全に出来上がっている。


直樹「(おもむろに腕時計を見る直樹)」


時刻は九時前をさしている。


直樹「おおっ!、ああ、もうこんな時間?」


かなり酔っている。


直樹「ごーめん… 帰るわ!」

山本「うそだべ、ホントに帰るってか?」

大橋「明日の朝帰っても同じだべー」

直樹「そうもいかねんだハー」

田中「しゃーねーなー」

山本「おーい、直樹が帰るんだとよー!」

A「なにー、今来たばかりだべー」

B「まだ、なんも話さねうちにー」

直樹「ごめーん、またなー」

D「このー、仕事中毒がー!」

直樹「ごめん!ごーめーん!」

大橋「それじゃ万歳三唱といくかー!」

E「おう、そうすべー、そうすべー」

F「やろう、やろう」

大橋「それでは…我々の出世頭であるゥ木村直樹のォ前途ー明るからんことを願ってぇ万歳!」

全員「万歳!」

大橋「万歳!」

全員「万歳!」

大橋「万歳!」

全員「万歳!」

直樹「あっりがとうなぁ、また会おうなー」


皆から「またなー」「元気でなー」「おたっしゃでー」等の声が飛んで来る


■暗い道■


雪が激しく降っている。  

一台のタクシーを拾い、乗り込む直樹。


■タクシー■


直樹「福島駅まで…」

運転手「はい」


そのまま眠ってしまう直樹。


運転手「いやー、かなり降ってきましたねー」


眠っている直樹に気づかない運転手。


直樹「…」

運転手「運転も危なっかしくていけないや」

直樹「…」


ルームミラーで寝込んでしまっている直樹に気づく運転手。


幻想的で美しい車窓の雪景色。


■福島駅・外観■


暗くひっそりとしている福島駅。


■タクシー車内■


運転手「お客さん、着きましたよ」

直樹「…(眠っている)」

運転手「三千八百五十円です」

直樹「…うん…(目をこすりながら)」


ポケットをまさぐり、財布を取り出す。  

無造作に千円札四枚を運転手に手渡し、  

ふらふらと車から降りて駅に向かう。


運転手「お客さんおつり、おつり!(窓を開け、身を乗り出して叫ぶ)」


気づかずに行ってしまう直樹。


■駅 構内■


朦朧とした足どりで駅構内へ入るが、立っていられずベンチへ座りこむ。  

改札口の前に掲示板に左記の案内が表示。


《掲示板》


『本日、大雪のため列車が大幅に遅れております』


構内アナウンス「お客様に申し上げます。本日大雪のため列車が大変遅れております。東京行き最終やまびこ号は大幅に遅れての到着となります。お急ぎのところ大変御迷惑をおかけ致します」


直樹はアナウンスを耳にするとベンチに倒れ込んで寝入ってしまう。

そのまま深い眠りに陥る。


安らかそうな直樹の寝顔。


<<後編へ続く>>


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