裏切り
キリシカ聖国に転移してきた俺。
「懐かしいな」
王城の門の前でつぶやく。俺の勇者としての生活が始まった城。
「お待ちしておりましたトウマ様」
門が開き中から初老の男性が出てくる。聖国最強の魔術師、スベルタ・デクセラ。
「スベルタさん、久しぶりです」
スベルタに向かって頭を下げる。
「お久しぶりです。ささ、こちらにどうぞ」
スベルタに案内されて歩いて召喚の間まで行く。
数十分歩いて一つの部屋につく。召喚の間。
「まっておったぞ、勇者トウマよ」
いかにも偉いですよという衣装の教主様。
「トウマ様こちらへ」
俺がこの世界で初めて会った巫女さん。
「ああ、みんなさよなら」
召喚人の上に乗り周りを見回す。
「え?」
全員がこちらを向いて武器を構えていた。
光が俺を包み込む。だんだんと俺はこの世界に来た時と同じ年齢そして格好になる。
「この時を待っていたぞ!」
教主が叫んだと同時に俺は槍や剣で串刺しにされた。
「ガハッ」
口から血を吐き出す。
「なん、で?」
意味が分からない、と視線でみんなに問いかける。
「なんで? か」
教主が下卑た笑いを浮かべている。
「それはですねえ、私たちがほしかったのは平和じゃなくて資源だったんですよ。し・げ・ん♪わかりました?あなたは邪魔なので消しますね」
巫女さんが馬鹿にしながら教えてくれた。げらげらと室内に笑い声が聞こえる。
………ふざけるなよ。
俺の内側からいろいろな感情が漏れ出てくる。
「ひっ」
部屋全体に満ちる殺気。
「こいつは呼び出したときと同じ状態だビビるな!殺せ!」
教主が怒声を飛ばす。
スバババババ!と音を立てながら切り裂かれ、引き裂かれる俺の体。
………畜生。
俺は心の中でつぶやいた。
この世界の平和を願ってやってきたことで殺される。
やりきれない気持ちが俺の中で渦巻く。
召喚陣の光が高まり俺がこの世界と別れるころには元勇者は肉塊になっていた。