深い深い夜。
月の静かな夜。
龍が飛び、精霊たちが囁く美しくも強い国、エンバー。
そのエンバーの王城の王の私室に二人の人影があった。
「こうして二人で飲むのはいつぶりだろうな?」
「徹夜で飲み明かして、おまえの奥方に最初に怒られたのは数十年前と言うのは間違いないな」
「懐かしいな」
「あぁ」
そうして、どのくらいの時が過ぎたのだろう。
「なぁ、グレンディウス。ひとつ頼んでもいいか?」
「何だ?俺が出来る範囲でなら、聞いてやる。お前には世話になってるからな」
「もちろんだ。お前の即位の時のいざこざの時に手を貸してやっただろう?今度は俺の方に手を貸せ」
「・・・」
「俺は近いうちに死ぬ。こう見えても死病の末期でな。あのゼノスにお手上げと言われた」
そう言って男は笑った。
「俺が死んだら、間違いなく後継者争いが起きる。内乱付きのな。しかも侵略のおまけ付きかもしれんな。情けないことに俺には止める術がなく、こうしてお前を頼りに先手を打つくらいしか出来ん」
「具体的には・・・?」
「俺には7人の子供、しかも全員男がいるだろう?既に2人、3番目と5番目がいない。恐らく暗殺された。長男か次男の仕業のようだ。長男には母親の出身国であるウイスタリア国が、次男には母親であるセイドリード公爵家の後ろ盾がありやっかいだ。現在のところ、俺の跡目の最有力とされているのが、長男だが、あれは母親に似て、狡猾で残忍な上にわがままだ。俺は4番目に継がせたい。もちろん、遺言も用意してあるが・・・」
「なるほど。最愛の女で正室の子を跡目に、か。確かにエルリアの息子は他に比べて素質は抜きん出ているから適任だが・・・」
「そこで問題なのは、俺が死ねば、ルイスには後ろ盾がないことだ。さすがに後ろ盾がないと侵略戦争や内乱になった時に最悪、兵が0と言うことになりかねん。だから、おまえの最愛の娘を嫁にくれ」
「・・・」
「お前の奥方とエルリアがした約束を知っているだろう?それを果たすだけの話だ。ちなみにおまえの奥方、ジェーレには了承を貰ったぞ?」
そう言って彼はニヤリと旧友である相手を見た。
「おまえも知っていると思うが、アレは・・・」
「適任だろうが。血塗られた惨劇と戦場を共に駆け、民を導くにはその辺の姫ではだめだ。お前の娘がルイスを気に入らなかったら切り捨ててくれてかまわん。頼む」
「わかった。但し、娘に聞いてからだ。それで良いか?」
「あぁ」
一人は上機嫌にもう一人は不機嫌に酒を飲む。
そうして、しばらくすると、深夜にも関わらずもう一人、加わった。
ローシェンナに国王崩御の知らせが駆け巡った。
これが、大国ローシェンナ史上最大の、隣国、国内を巻き込んでの後継者争いの幕開けである。
国内の内乱を沈め、隣国の侵略から民を守ったものがあった。
いつでも先陣を切って駆けた。
彼らの周りには自然と多くが集った。
そんな彼らは、英雄王と銀の女王と謳われる。
ー ローシェンナ戦記 一部抜粋 -