好きと言えない
あっ、もしかして今がチャンス、なのかも!
数少ないその時が、やっとやってきた。
視線の先には、一人の男の子。
ここで焦っちゃいけない。あたりを見渡して、はやる気持ちを抑えながら状況をしっかりと整理しないと。
時間。学校の放課後。よし。
予定。確か今日は彼の部活は休部だったはず。よし。
彼までの距離。私の右斜め前方向に席三つ分。うん、少し大きめの声を出せば通る。
そして肝心の……うん、本当に彼女には悪いけど、今はいない。
声一つかけるにも、ここまでやらなければいけないのには理由がある。なぜなら……
「よしっ。あの、ユウくー……!」
わたしが小さく気合いを入れてまで行動を起こそうとしても。
「やほー! ユウ、今日部活ないんでしょ? 帰るよー!」
教室の中隅々までに跳ね返すほどよく通る女の子の声が、わたしの声を遮るように開け放たれる教室のドアと共に飛び込んできたりするのだから。
不安的中。なぜかわたしは、ユウくんに一歩踏み出すためにがんばろうとすると、何かしらの……特に彼女の止めが入ってきてしまう。
偶然と言えば簡単だけど、本当にそれだけなのかな?
「ありゃ、カホもちょうどよかった! 一緒に帰ろ!」
そんなわたしの考えをよそに、彼女の視線もまた、彼を先に捕らえた後にわたしにも向けてくる。
「う、うん……そうしよっか」
せっかく声かけようとした気合いや勇気もどこかへ飛んでいってしまって、内心では泣きたいくらい落ち込んでいるわたしをよそに、彼女は明るく振る舞っている。
それに対して、ちょっと引いて答えてしまうわたし。
彼女だってわたしがこんな気持ちでいることはわからないかもしれないけど。
「おいカスミ、あんまり大きな声出して呼ぶなよな。目立つだろ」
「えへへ、ごめんごめん。でも目立って何がイヤなのかな? あ、もしかしてコ・イ・ビ・ト! だと思われるからだったりして。あはは!」
「ふざけんな、誰がおまえと! ただの幼なじみが勘違いすんな!」
「はいはい。どうせ私はただの幼なじみですよーだ。もう大声で声かけたりしないんだから。ねー、カホ?」
「え? あ、うん……」
普段から、ひとたび幼なじみの二人の話が始まってしまうとなかなかわたしはその話に入れないでいた。なのに、突然話を振られて驚く。
でも、驚いたのはそこだけじゃなくて。
まるで、わたしがさっきユウくんにしようとしていたことを見ていたようなセリフだよね、今の。
そういえばカスミ、胸に手を置いて息を整えているように見える。
まさか、やっぱりわたしが声をかけようとしたのをわざと止めてる?
「ん? どしたの、カホ」
「ううん、なんでもない! 二人とも、もうケンカなんてやめて、さっ、帰ろ?」
そんなわけない。カスミを疑うなんて、いくら自分がうまくいかないからってしちゃいけないことだ。
そんなわけで。わたしは、ユウくんにいつまでたっても。
好きと、言えない。
「それにしてもユウはあの時だけはカッコ良かったよね」
「またその話か。つーか『だけ』は余計だ」
結局三人でたどる学校の帰り道。
相変わらず二人の距離は幼なじみだけあって近い。もう少しで腕なんか簡単に組んでしまえそうなほどに、時折肩がぶつかったりしているのが、見たくないのに見えてしまう。そのたびにわたしの気持ちは揺れまくっている。
わたしだって、ユウくんと話したいのに。
ただ、今日の話題はまだわたしにも入り込む余地があったのは救いだった。
「でも、本当にあの時は助かったなあ。ありがとう、ユウくん」
「カホまでやめてくれよ」
それは、わたしとユウくんとの出会いの話だった。
カスミと久しぶりに大きな街まで買い物に出かけようという話になって、かなり頑張ってオシャレをして、待ち合わせ場所で待っていた時のこと。
その気合いが、少しばかり肌の露出を伴っていたのは今になって思うといけなかったのかもしれない。
変な人に絡まれてしまって、そこに助けを入れてくれたのがユウくんだったのだ。
それも、彼氏のフリをして。
今思うとすごくベタな話なんだけど、それでも助かったのは事実で、すごく頼りになって。
話を聞くとカスミが男の意見も参考にしようとわたしに内緒でユウくんを連れてきたらしく、その後もわたしのことを気遣ってくれて。
それは、ユウくんを好きになる理由に十分だった。
「ユウもカホのカレシ気分、まんざらじゃなかったでしょー」
「バカ、突然何を言いやがる」
「照れちゃってぇ。でもカホ可愛いからね、そう簡単にはカホもなびかないよ?」
わたしの方がまんざらじゃないわけで。せっかくのユウくんの反応を知るチャンスだというのに、その動揺を隠すのに精一杯で、顔が熱くなってくるのを止めることしかできない。
どうしてこう、最近のカスミはわたしが反応しにくい話ばかり振ってくるんだろう。
それに。
どうしてそこで話が止まっちゃうの?
カスミも話を先に進めればいいのに、こんな時に限って何も言わない。
気のせいか、カスミはわたしの方を向いてじっと言葉を待っているように見える。
え、わたし何か言わないとダメなの?
えっと、否定するのは誤解招きそうだし、肯定するのは今じゃない気が……いやでも今こそ好きって言えるチャンスなのかも? でもあまりに突然だし変に思われないかな。
頭の中でぐるぐる回る選択肢に迷って、答えにたどり着こうとしていると、カスミがまるでわたしに聞かせるように大きなため息をついた。
「はあ……どうやらユウ、脈なしだね。ざんねんだったねー」
「ええっ!?」
まったく逆の解釈をされたことに驚きすぎて、ユウくんより先にわたしの声が出てしまった。
下手すると気持ちがバレてしまう反応をしてしまった自分に気づいたわたしは、すぐに両手で口をふさぐ。けど、カスミは気づいてしまったようで。
「あれあれ? それともカホこそ、ユウのことまんざらじゃないのかな?」
え、しかもなんでカスミが追い打ちをかけてくるの?
どうしよう、このまま追い込まれていくと、とても二人に見せられない顔になりそうで怖い。どうしよう、とわたしが状況を打開できないでいると。
「おいカスミ、ちょっと待て。カホ困ってるだろ。それに……ほら、わかってるだろ」
「はいはい。わかってますよー」
また、ユウくんが助けてくれた。それは嬉しいんだけど、その反面、何か引っかかるものがある。今の感じ、二人だけの秘密みたいなものを持っているようで。
やっぱりこれが幼なじみの距離感なのかな。今もなんだか二人でわたしに聞こえないように何か話しているみたいだし。
なんだか、寂しい。
「そういえばさあ」
自分の気持ちが下がったことを実感して、顔の熱さもおさまりかけてきた頃、カスミが話し出した。
「今の話で思ったんだけど、最近あんまり買い物行ってないよね? そろそろどこか見に行かない?」
待ち合わせの場所、駅前の噴水広場にわたしは一人立って待っていた。
なんとなく落ち着かなくて、かかとを上げ下ろしして、早く来ないかなと遠くを見つめてみたり。
周りも気にしながら、腕時計をちらりと確認。
午前九時ちょっと過ぎ。
「早く着きすぎちゃったかな」
ちょっと過ぎなんて表現をすると、まるで自分が遅刻をしてしまっているような気がするから不思議。
待ち合わせ時間は、九時三十分。
隣の街にあるデパートまでは、電車で十五分ほどかかる。どうせだったら十時に開店した直後のすいているうちに行った方がいいよね、とカスミが提案してこの時間になった。
「わたしも懲りないなあ……」
両手を斜め下に下ろして、自分の身なりを確かめてみる。
とりあえず、ふとももはバッチリと出てしまっていた。他にもいろいろ危なくて、自分でも笑えてしまう。
いつも以上におしゃれに気をつかった結果がこれだ。以前もユウくんにこういう格好をしたせいで助けられたというのに、これじゃ……
「カホ、おはよ! ていうかさ、カホ危機感なさすぎ……いつか襲われるよ?」
こう言われてしまっても仕方ない。
それでも、気合いを入れなくちゃと思った理由は、もちろん……
「まあ、今回も参考のためってことでユウがいるから大丈夫だとか思ってるかもしれないけどね……ユウだっていつも助けられるとは限らないんだよ?」
今回はわたしも最初から、ユウくんが来ることを知っていたから。わたしは改めてユウくんを目の前にして声が裏返りそうになりながらも、おはよう、とあまり大きく声に出せなかったけれど挨拶の言葉を振り絞る。
「おはよう、カホ。ところでカスミがそう言うのはもっともだけどな、おまえはもうちょっとその無頓着さをなんとかしてくれ」
「うわすごく失礼な! ボーイッシュって言葉知らないの? 無頓着なのはユウの方なんじゃないの? それとも私にカホみたいな女の子っぽい格好をしてほしいって言うの? ヘンタイなの?」
「カスミ……なんだかわたし複雑な気分なんだけど……」
会うなり突然わたしが巻き込まれたわけだけど、まったく褒められているような気がしない。というかちょっとバカにされてる気が?
「あっ、違うってカホ! ユウって表向き紳士っぽくふるまってるけど、裏ではけっこうエッチなことばっか考えてるから、幼なじみに対してエロい視線で見ていることに気持ち悪さを感じただけ」
「自分が言い訳するためになんてこと口走ってるんだおまえは! 人を犠牲にするんじゃねーよ! そりゃ……カホの格好を見てかわいいとは思ったけど、カスミのそういう服着るところ見せられるのはこっちからお断りだね」
えっ、なんかまたカスミと相変わらずの口げんかが始まったなあと思ってたら、もしかして今わたしの格好がかわいいって言った?
そう言ってくれただけでも、思い切ってきた甲斐があった。見せている肌以上に、心がはだかにされてしまいそうな感じがむずがゆいけど。
ふいうちなユウくんの褒め言葉に、少し心を落ち着かせる時間が欲しい。幸い、といっていいのかわからないけど、今の流れだとカスミがさらにヒートアップして、しばらくユウくんとの言い合いが止まらなくなるところだ。ここはしばらく止めないでおこう。
と、思ったんだけど。
「ふーんだ、いい子ぶっちゃって」
意外にも、カスミは一歩引いて。
それどころか、なんだか嬉しそうにユウくんのことをひじで突っついている。
やっぱりこの二人、よくわからない。ここのところ何度も感じる、二人の関係への疑問。
そういえば、この待ち合わせにも二人で来ていたし……もちろん幼なじみだから、で済ませれば簡単なんだけど。
ちくりと、胸が痛んだ。
何度も喜んだり悲しんだり。わたしって単純だなと思う。
ついさっきもユウくんとカスミはどんな関係なんだろうって勝手に落ち込んでいたわけだけど。
買い物をするのは、やっぱり楽しい。もちろんカスミと一緒に思う存分できているからというのもあるけど、隣にユウくんがいるというのが嬉しい。
ユウくんが女の子の買い物に付き合って疲れないかな、と感じたりもしたけど、優しいからなのかそれともカスミにさんざん付き合って慣れているからなのか、そんな表情を見せることもなくて。
もちろん、それはそれでやっぱり複雑だけど、でもおかげでユウくんが思っている服装の好みもいっぱい収集できたし。えへへ。
カスミの悪ノリが始まったのは大変だったけど……
突然水着を見に行こう! なんて言われて、ユウくんの前でお披露目したり。さすがに恥ずかしかったけど、照れてるユウくんの顔を見るのはなかなかレアで、文字通り体を張った甲斐があったように思う。
わたしたちの隣でも同じように男の子一人に女の子二人で試着しているのを見て、ちょっと対抗心を燃やしてしまったかもしれない。
さすがに女の子二人でじゃれあっているのを見たときには、わたしにはできないなって思ったけど。というより、それを見たわたしがこんなことされたら困るだろうな、とその相手の男の人に同情してしまった。きっと同じことをやったらユウくんも困ってしまうだろうからやめた。どちらにしても恥ずかしいからやらないけど。
おにいちゃん、とか呼んでいたから、きっと家族だからこそできることなんだと言い聞かせてみる。
それにしても片方の女の子は胸が大きかったな、うらやましいなと思ってしまったのは別の話。
似たようなもので、カスミもユウくんに対しては「どう、わたしのカラダに見惚れちゃった?」とか容赦なくユウくんを追い詰めていた。「もっと魅力的なのはカホだけどねー」なんてフォローをもらったけれど……
こんな時にふと出てしまう、わたしの悪い部分。
本当は、少しでもいいからユウくんと二人だけで話してみたい、なんて思ってしまう。
思えばユウくんといる時は必ずカスミが中に入っていて、今までユウくんと二人でいられるようなことがなかった。
でも、それは仕方のないこと。だって幼なじみで、もともと仲の良い二人なんだから。むしろ割って入ったのはわたしの方なんだ。それに明るくて行動力のあるユウくんとはかけ離れたわたし。つりあう相手じゃないってのもわかってる。
あーあ、せっかく今、ちょっと休憩にと水面が宝石のように輝いてきれいな海辺の公園でひとやすみしてリフレッシュしようとしているのに、こんなこと考え込んでしまうなんて。
ユウくんにも、カスミにも悪い気がした。
「どうしたの、カホ。なんか元気ないよね?」
「え、そうかな」
そんな考えを隠そうにも、そこまでの余裕はなかったし、だから少なくともカスミにわたしの様子を悟られるのは仕方ないって思ってた。だからわたしはあまり動揺することなく答えられていた。
「恋の悩みだったりして!」
カスミは冗談っぽく言ったつもりなんだろうけど。
うん、正解なんだよね。そう言えるはずもなく。
「そんなことないよ。ちょっと疲れちゃったなーって思って」
結局今日も、ユウくんに話しかけようとしてもできなかったし。
そう、今日こそチャンスだと思っていたのに、やっぱりことごとくカスミがまるでわたしを止めるように入ってくるのだ。
それに対する疲れも、確かにあった。だから、ウソはついていない。ただの嫉妬で醜いことだって分かってるけど、そうして正当化してなんとか自分を落ち着けていた。なのに。
「もしかして、私が原因かな?」
まさかのまるでわたしの心を読んでいたかのようなカスミの発言が降りかかってきた。構えるまでの準備をしている間に、すかさず懐へ飛び込まれてきたような感覚だった。わたしは違う、と否定しようにも言葉が出てこなかった。
「ふーん……ねえ、私おじゃまかな?」
わたし自身が動揺しているのを自覚しているのだ。察しの良いカスミにはもう完全にわたしの気持ちなど手に取るようにわかるのだろう。
「カスミ、いい加減にカホも困って……」
「ユウ、あんたもあんたよ。しっかりしなさいよね」
前にもあったような、ユウくんの止めは途中でカスミにさえぎられる。
え、なんでここでユウくんが怒られてるの?
理解ができないこの状況に、わたしは二人のやりとりをしばらく黙ってみていることしかできなかった。
「な、何がだよ。第一、これ以上カホにそんなこと言ってたら約束が」
「あのね、もう約束守るのも限界なの。これ以上隠したままでいてどうするつもりなの?」
「いや、それはちゃんとタイミングが良い時に言うつもりでいるし」
「だ・か・ら! そのタイミングは今までいくらでもあったでしょ? いい加減さっさと言わないと後悔するよ?」
「く……確かにそうだけどさ」
今度こそ止められない二人の口げんかが始まったわけだけど、その会話からわかったことが一つ。
二人は、わたしに何かを隠してる。そして、その何かをわたしに言おうとしている。
すると、わたしの中で一つの結論が出た。
そっか、そういうことなんだ……
「あ、あのね!」
二人の中に、わたしが割り込む。それは勇気のいることだったけど、もっと勇気のいることを今からわたしはしようとしている。
あらかじめ二人の会話をしている間に覚悟を決めておいたわたしは、振り向いて何か言われてしまう前に、できる限りの声を振り絞って。
「ごめんね! わたし、気づかなくて。二人が……もうそんな関係だってこと、全然わからなくて。気をつかわせちゃったんだよね。じゃまだったのは本当はわたしだったんだよね。だ、だから……」
二人の顔がまともに見られない。これ以上続ける言葉も見つからない。どうしたらいいのかわからない。
だけど、この場所にいたらだめだ。それだけはかろうじて考えられた。
「わ、わたしもう帰るね!」
二人に顔を向けることなどできず、わたしは一刻も早くここを立ち去りたくて、来た道を戻るように走り出す。
「あ、ちょ、ちょっと待ってカホ! ちょっと、あんた追いかけなさいよ! 取り返しのつかないことになるわよ!」
後ろでカスミの声が聞こえる。
なんで? なんでユウくんを追いかけさせるの?
ユウくんとカスミが付き合っていること、そんなにわたしに知らせたいの?
カスミも意地悪だ。直接言ってはいないけど、わたしの気持ちなんてもうわかってるはずなのに。
これからは、カスミとも距離を置くことになるんだろうな。そんな、先の心配をしたのがいけなかったんだろうか。
わたしの手を振りほどくささいな抵抗などとてもかなわないような大きな力で、誰かに引き戻された。
それが誰かなんて、顔を見なくたってわかる。
あこがれだったはじめて手を取られるという経験がこんな辛い時になるだなんて、神様もとことんわたしに味方してくれない。
「は、はなして……」
力で勝てないことがわかっているわたしは、懇願することしかできない。
「ごめん、悪かった」
だけど力は弱まるどころか痛いくらいにつかまれたままだ。
「謝らないでいいよ……気づかなかったわたしが悪いだけだもん」
「違う、勘違いさせて悪かった」
「うん、わたしが勘違いしてしまったから……」
「だからそうじゃなくて……いや、カスミの言うとおりだ。タイミングはいくらでもあったのに勇気が足りなかった。だからカホを傷つけてしまったんだよな、ごめん」
言っている意味が、よくわからない。いったい何の話をしているの?
わたしはユウくんに何を謝られているの?
でも、その答えは次のユウくんの言葉で明らかになる。
「カホが、好きなんだ」
「え?」
それは、今の流れからして全く予測していなかった言葉だった。
今のわたしはどんな顔をしているだろう。目から涙は溢れてくるし、周りもきにせず走ったおかげで服は乱れているだろうし、とても見せられる顔じゃない。けど……
あまりの不意打ちな言葉に、ユウくんに目を向けてしまった。
「カスミに頼んだんだ。自分から気持ちを伝えたいから、カホの気持ちがわかるようなことがあったら止めてくれって。もしかしたらそれが誤解を生んだのかもしれない。本当にごめん」
ユウくんの言葉で、わたしの頭の中に今までの出来事がよぎる。
教室でユウくんをわたしが誘おうとした時にカスミが息を切らしながら入ってきた時も。
帰り道、二人で秘密を持っているように見えた時も。
買い物の待ち合わせでユウくんがわたしを褒めるようなことを言ってくれたタイミングでカスミが口げんかを止めた時も。
そして、ついさっきの出来事も。
わたしが今まで好きと言えるチャンスさえつかめなかったのは。
「自分がはっきりしなかったせいで。今まで勘違いさせてごめん」
すべて、このためだったんだ。
そうは言っても、すぐにユウくんの告白を受け入れられなかった。あまりにもどんでん返しすぎてついていけなかった。
だから、否定の言葉さえ出てきてしまう。
「わたし、顔もそんなよくないし」
「そんなことない。かわいい」
「うう……」
「だって、ムネも小さいし」
「そんなの今関係ないし、気にしてない」
「あう……」
「わたしじゃ、つりあわないし」
「こっちが好きなんだから、そんなこと気にするな」
「はう……」
こんな時に限って、わたしが言えない言葉を彼は簡単に言ってくれてしまう。
強引で、優しいユウくん。好きになりすぎて、困るくらいになる。彼の言葉に、わたしはだんだん言葉を返せなくなる。
「嫌なのか?」
「嫌じゃない! だって、わたしも」
迫ってくる彼の顔、そして唇に注がれるその優しいぬくもりに、わたしはついにそれ以上の言葉を声に出せなくなって。
ほらやっぱり。わたしは、あなたにかかると……
好きと、言えない。
「おふたりさん? 私のこと忘れてないかな?」
その言葉に、わたしだけでなくユウくんも気づいたようで、わたしが離れた以上の距離がユウくんとの間にできる。
「えー? 別にかまわず続けてくれてもいいのに」
やっぱり、カスミは意地悪。
違った意味で、カスミとは距離を置きそうかもしれなかった。