短編「嘘が二つで、ちょうどいい」
最初に言っておくと、俺とあいつは仲が悪い。
「遅い」
「お前が早すぎるんだよ」
路地裏で顔を合わせるなり、そんなやり取りになるくらいには。
名前はリク。
そして目の前にいるのが、ユナ。
表向きは同じ街で活動する“回収屋”。
でも実際は——
「今日の依頼、被ってるらしいぞ」
「知ってる」
敵同士だ。
この街で“願いを叶える遺物”を巡って争っている二つの組織。
俺は片方、ユナはもう片方。
だから本来、協力なんてあり得ない。
「で、どうする?」
「別に。先に見つけた方が持って帰る。それだけでしょ」
淡々と言うユナに、ため息をつく。
「毎回それで面倒なことになるんだけどな」
「負けなければいいだけ」
まあ、その通りだ。
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「リクさん、遅いですよ」
拠点に戻ると、カイが待っていた。
「悪い悪い」
「本当ですよ。あっちも動いてるみたいですし」
カイは俺の相棒……ってことになってる。
情報収集が得意で、気も利く。
正直、かなり助かってる。
「場所は?」
「北区の旧倉庫です。例のやつ、そこにあるみたいで」
「了解」
軽く手を振って、そのまま向かう。
後ろでカイが何か言いかけたけど、聞こえなかったことにした。
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「ユナ様」
別の場所。
「何」
「例の遺物、北区に」
「知ってる」
ミオは、ユナの側にいる少女だ。
無表情で、淡々としているけど、仕事は正確。
「先に動きますか?」
「当然でしょ」
ユナは短く答えて、立ち上がる。
その背中を、ミオは静かに見ていた。
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北区の旧倉庫。
「うわ、ベタだな」
「ほんとそれ」
同時に着いた。
「帰れよ」
「そっちこそ」
睨み合いながら、中に入る。
埃っぽい空気。壊れた箱。
いかにも“ありそうな場所”。
「で、どれ?」
「知らないの?」
「お前こそ」
「ふざけんな」
結局、二人で探す羽目になる。
これがまた腹立つ。
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「なあ」
適当に箱を蹴りながら言う。
「なんで毎回こうなるんだろうな」
「さあ」
ユナは興味なさそうに答える。
「普通、敵同士ならもっと殺伐とするだろ」
「してるでしょ、今」
「いや、なんか違うんだよな」
言いながら、自分でもよく分からなくなる。
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「……あった」
ユナが小さく呟く。
その手の中には、小さな球体。
淡く光っている。
「それか」
「多分」
一歩、距離を詰める。
「じゃあ、どうする?」
「決まってるでしょ」
ユナが構える。
「奪う」
「だよな」
剣を抜く。
いつも通り。
ここからは、いつも通りじゃないけど。
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数分後。
「はぁ……」
お互いに距離を取る。
決着はついていない。
「……めんどくさい」
「同感」
息を整えながら、同時にため息。
その時だった。
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パン、と乾いた音。
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手の中の球体が、砕けた。
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「……は?」
ユナが固まる。
その背後に、ミオが立っていた。
「ご苦労様です」
無表情のまま、そう言う。
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「何してんだよ」
思わず声が出る。
同時に、後ろから足音。
「すみません、リクさん」
振り返ると、カイがいた。
「時間、かかりすぎです」
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「……は?」
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「これ、もういらないんですよ」
カイが砕けた破片を見て言う。
「条件は満たしましたし」
「条件……?」
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ミオが一歩前に出る。
「遺物は“対立する者同士が争うことで発動する”」
淡々と説明する。
「そして、発動後はただの石になります」
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「じゃあ、今のは——」
「ええ」
カイが笑う。
「もう終わってます」
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頭が追いつかない。
つまり、俺たちは。
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「利用された、ってことか」
ユナが低く言う。
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「最初から、二人は敵として動くように配置されていました」
ミオの声。
「私たちは、それを見届ける役目です」
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「……はは」
乾いた笑いが出る。
「で、お前らはどっちの味方だよ」
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一瞬の沈黙。
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「両方です」
カイとミオが、同時に答えた。
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「は?」
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「どちらの組織にも情報を流していました」
「均衡が崩れないように」
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意味が分からない。
いや、分かりたくないだけかもしれない。
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「じゃあ俺たち、何だったんだよ」
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カイが少しだけ考える素振りをする。
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「駒、ですかね」
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軽く言った。
いつもと同じ調子で。
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ユナが笑う。
「……ふざけてる」
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「いえ、本気ですよ」
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その瞬間、空気が変わる。
今までの軽さが、全部消える。
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でも。
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「……まあいいか」
リクが剣を下ろす。
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「は?」
ユナが振り返る。
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「どうせ俺たち、敵なんだろ」
「……そうだけど」
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「だったらさ」
少しだけ笑う。
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「最後くらい、協力してもいいんじゃないか?」
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ユナが、少しだけ目を細める。
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「……馬鹿じゃないの」
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「知ってる」
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少しの沈黙。
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「——いいよ」
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その瞬間。
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後ろの二人の表情が、ほんの少しだけ変わった。
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初めて。




