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短編「嘘が二つで、ちょうどいい」

作者: ニィギンヤ
掲載日:2026/04/07

 最初に言っておくと、俺とあいつは仲が悪い。


「遅い」

「お前が早すぎるんだよ」


 路地裏で顔を合わせるなり、そんなやり取りになるくらいには。


 名前はリク。

そして目の前にいるのが、ユナ。


 表向きは同じ街で活動する“回収屋”。

でも実際は——


「今日の依頼、被ってるらしいぞ」

「知ってる」


 敵同士だ。


 この街で“願いを叶える遺物”を巡って争っている二つの組織。

俺は片方、ユナはもう片方。


 だから本来、協力なんてあり得ない。


「で、どうする?」

「別に。先に見つけた方が持って帰る。それだけでしょ」


 淡々と言うユナに、ため息をつく。


「毎回それで面倒なことになるんだけどな」

「負けなければいいだけ」


 まあ、その通りだ。



「リクさん、遅いですよ」


 拠点に戻ると、カイが待っていた。


「悪い悪い」

「本当ですよ。あっちも動いてるみたいですし」


 カイは俺の相棒……ってことになってる。


 情報収集が得意で、気も利く。

正直、かなり助かってる。


「場所は?」

「北区の旧倉庫です。例のやつ、そこにあるみたいで」


「了解」


 軽く手を振って、そのまま向かう。


 後ろでカイが何か言いかけたけど、聞こえなかったことにした。



「ユナ様」


 別の場所。


「何」


「例の遺物、北区に」


「知ってる」


 ミオは、ユナの側にいる少女だ。


 無表情で、淡々としているけど、仕事は正確。


「先に動きますか?」

「当然でしょ」


 ユナは短く答えて、立ち上がる。


 その背中を、ミオは静かに見ていた。



 北区の旧倉庫。


「うわ、ベタだな」

「ほんとそれ」


 同時に着いた。


「帰れよ」

「そっちこそ」


 睨み合いながら、中に入る。


 埃っぽい空気。壊れた箱。

いかにも“ありそうな場所”。


「で、どれ?」

「知らないの?」


「お前こそ」

「ふざけんな」


 結局、二人で探す羽目になる。


 これがまた腹立つ。



「なあ」


 適当に箱を蹴りながら言う。


「なんで毎回こうなるんだろうな」

「さあ」


 ユナは興味なさそうに答える。


「普通、敵同士ならもっと殺伐とするだろ」

「してるでしょ、今」


「いや、なんか違うんだよな」


 言いながら、自分でもよく分からなくなる。



「……あった」


 ユナが小さく呟く。


 その手の中には、小さな球体。


 淡く光っている。


「それか」

「多分」


 一歩、距離を詰める。


「じゃあ、どうする?」

「決まってるでしょ」


 ユナが構える。


「奪う」

「だよな」


 剣を抜く。


 いつも通り。


 ここからは、いつも通りじゃないけど。



 数分後。


「はぁ……」


 お互いに距離を取る。


 決着はついていない。


「……めんどくさい」

「同感」


 息を整えながら、同時にため息。


 その時だった。



 パン、と乾いた音。



 手の中の球体が、砕けた。



「……は?」


 ユナが固まる。


 その背後に、ミオが立っていた。


「ご苦労様です」


 無表情のまま、そう言う。



「何してんだよ」


 思わず声が出る。


 同時に、後ろから足音。


「すみません、リクさん」


 振り返ると、カイがいた。


「時間、かかりすぎです」



「……は?」



「これ、もういらないんですよ」


 カイが砕けた破片を見て言う。


「条件は満たしましたし」


「条件……?」



 ミオが一歩前に出る。


「遺物は“対立する者同士が争うことで発動する”」


 淡々と説明する。


「そして、発動後はただの石になります」



「じゃあ、今のは——」


「ええ」


 カイが笑う。


「もう終わってます」



 頭が追いつかない。


 つまり、俺たちは。



「利用された、ってことか」


 ユナが低く言う。



「最初から、二人は敵として動くように配置されていました」


 ミオの声。


「私たちは、それを見届ける役目です」



「……はは」


 乾いた笑いが出る。


「で、お前らはどっちの味方だよ」



 一瞬の沈黙。



「両方です」


 カイとミオが、同時に答えた。



「は?」



「どちらの組織にも情報を流していました」


「均衡が崩れないように」



 意味が分からない。


 いや、分かりたくないだけかもしれない。



「じゃあ俺たち、何だったんだよ」



 カイが少しだけ考える素振りをする。



「駒、ですかね」



 軽く言った。


 いつもと同じ調子で。



 ユナが笑う。


「……ふざけてる」



「いえ、本気ですよ」



 その瞬間、空気が変わる。


 今までの軽さが、全部消える。



 でも。



「……まあいいか」


 リクが剣を下ろす。



「は?」


 ユナが振り返る。



「どうせ俺たち、敵なんだろ」


「……そうだけど」



「だったらさ」


 少しだけ笑う。



「最後くらい、協力してもいいんじゃないか?」



 ユナが、少しだけ目を細める。



「……馬鹿じゃないの」



「知ってる」



 少しの沈黙。



「——いいよ」



 その瞬間。



 後ろの二人の表情が、ほんの少しだけ変わった。



 初めて。


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