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別邸で生活し始めて半年が経過した。

寂しかった庭は今は緑が豊かになっている。

種まきをしてから毎日魔法をかけていたら、きちんと芽を出した植物たちに、使用人たちはとても驚いていた。

時折、別邸の様子を見にくる側近のロニーが、徐々に緑を増やしていくこの別邸を見て目を丸くして、閣下に報告していることは知っている。

けれど結婚式の翌日から今日まで閣下が私に会うことも、手紙が届くこともなかった。



「奥様、本日もお出かけされますか?」


「ええ、もちろんよ」



公爵夫人らしくない膝丈のワンピースにエプロンをつけて別邸を出る。

この半年の間に私はこの土地の再生に貢献してきた。

最初は貴族令嬢が畑に来るなんてと冷めた目で見ていた領民たち。

彼らの前で作物に魔法をかけて、育ちが悪かった作物たちが他領と同じように育ってるのを見て、人から人に噂が広まって今は〝緑の公爵夫人様〟としてありがたいことに慕われている。

最初は作物に魔法をかけていたけれど、農家の方から土に魔法をかけてみたらどうかと提案され土に治癒魔法をかけたら、苗に直接かけるよりも効率的だとわかった。

そのこともロニーは伝えてるはずだけれども、あの人はどう思ってるのかしら。






ルシアンはロニーの報告書を見て眉を顰めた。

セラフィナ・シルヴェインとの婚約は王家からの打診。

断ることの出来ないものだった。

セラフィナ嬢の魔法が、この土地にとって有益だからだ。

俺の魔力が多く、冷気が漏れ出てしまう。

そのことで領地の作物の育ちが悪い。

わかっている。わかっているが、生まれ持った時からのものだ。

生まれた時から俺は屋敷を凍り付かせてしまうほどだった。

制御を覚えても少し漏れ出てしまう冷気。

それが領民を苦しめることはわかっているが、理不尽だと感じていた。

俺は生まれた時から罪深い。だから領地は親に任せ、後任は親戚から選べばいい。

この強すぎる力は魔物退治に使おうと自分の存在意義を決めていた。

両親が魔物に襲われて命を失った。

親戚は俺のそばにいることを恐れて後任を辞退した。

俺が公爵家を継ぐしかなかった。

作物が育たない代わりになる領地の特産品に力を注ぎ、領民に負担がかからないようにと努力した。

セラフィナ嬢は、俺の罪を思い知らせる存在だった。

彼女の力で領地が潤えば、俺はやはり不要だと思われてしまうのだろう。

だから遠ざけた。

なのに彼女はこの半年間、何一つ文句を言わない。

事情をわかって嫁いできたのに、翌日には遠くに追いやられた令嬢。

万が一がないように監視させていたが逃げもしない。絶望して命を断とうともしない。

俺に対し怒りもせず、これ幸いに男を連れ込むわけでもない。

開き直って散財するくらいは気にしないのにそれもせず、自ら農民に混ざって魔法を使い、今では作物が普通に育つくらいには土が蘇った。



「……なんだこの不快感は」



楽しそうに日々を過ごしてるセラフィナ嬢の様子の報告書が、手に力が入ったせいでくしゃりと皺がよる。

俺に対して腹を立てもしない。そんな感情を持つほどでもないということなのか。

あんなところに追いやった罪悪感から監視していた。

それなのに彼女は問題を起こすこともなく、俺の出来ないことで領民を救っている。

それが余計に俺のこの立場が相応しくないと思い知らせるようで。


執務室に霜ができていた。

精神統一しようと深呼吸をすると次第に霜が消えていく。

その時ノックの音が響いた。



「ルシアン様、御報告です」


「入れ」



皺のついたセラフィナ嬢についての報告書を手で伸ばし、デスクの引き出しに仕舞った。

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