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「君を愛することはない」
月刊淑女通信のコラムで新婚初夜に夫から告げられた言葉としてよく投稿されているその言葉を本当に言う人がいるんだぁ。
なんて、私はその時思ったのだった。
「はい、愛さなくて結構です。私もあなたを愛しませんので」
今日結婚した夫という立場の男、ルシアン・ヴァルフロスト公爵閣下に向かってニコリと笑みを向ける。
私の言葉に目を少し開いて驚いた様子の公爵閣下。
なんで驚いているのかしら?
もしかして愛さないと言い返されるなんて思ってなかったの?
そんな夫を背にして夫婦用の広いベッドに横になると、公爵閣下は部屋を出て行ったみたい。
すっきり眠った翌朝。侍女たちに身支度を整えてもらい、朝食を部屋でいただくと閣下の側近の方から呼び出しを告げられる。
昨夜の話の続きかしら。
今度は何を言われるのでしょう。
月刊淑女通信で覚えた内容からしてきっとあれね。
「君とは政略結婚だ。だが形式だけで構わない。お互いそれを理解しているだろう?」
「ええ、勿論です」
ヴァルフロスト公爵邸の執務室にて、夫と私は昨夜ぶりに対面していた。
私、セラフィナ・シルヴェイン伯爵令嬢とルシアン・ヴァンフロスト公爵様の結婚が約束されたのは三年前のこと。
先代のヴァンフロスト公爵夫妻が魔物の犠牲となり、ルシアン様が当主となられた。
ヴァンフロスト公爵家は代々氷魔法の使い手だが、ルシアン様は過去最高の魔力量と強さを持っていた。
魔物相手にはその強さを満遍なく発揮されていて、事件当日も領地内で討伐隊を率いていた。
先代当主夫妻は視察に出た先で被害に遭われてしまったのだという。
さらに彼の悲劇はここで終わらなかった。
彼の氷魔法が強すぎるせいか、領地の土を冷やしてしまい、作物が育ちにくくなってしまった。
王家はヴァンフロスト領の現状に危機感を覚えたのだという。
そこで白羽の矢がたったのが、セラフィナだった。
シルヴェイン伯爵は治癒魔法が得意な家だった。
その中でも私は生き物だけでなく、植物も治すほどの魔法を持っていた。
王命というほど強制力はないものの、王家が関わっての婚姻に先代当主とお父様が断るわけもなく。
ただ、ルシアン様と仲を深めるべく交流する前に例の不幸な事故があり、喪が開けるのを待ってからすぐに結婚となったのだ。
昨日の結婚式の時に初めてルシアン様のお姿を見たけれど、光に当たると少し青っぽく見える黒髪と、彼の持つ魔法と同じようなアイスブルーの瞳、端正な顔立ちはきっと女性人気が高いだろうに、冷たい眼差しが幻想を壊してしまってる。
もったいないと思いながらを見ていると、ルシアン様は書類を私に手渡した。
「君はそこで静かに暮らせ。公爵夫人としての義務は年に数度の公式行事だけで構わない」
結婚が決まってから読み込んだ月刊淑女通信。
契約結婚としてサインを書かせる夫の話や、愛人を屋敷内に入れて自分は離れに住むことになった話はあったけれど、まさか遠距離別居させられるとは予想外だった。
この公爵邸が領地の中心部にあるならば、彼に渡された別邸の場所は領地の端にあった。
「ひとつ質問をよろしいですか?」
「ああ、なんだ」
「ヴァンフロスト領の作物の成長促進のための結婚だと認識しているのですが、私の魔法に関してはどうお考えですか?」
ぴくりと彼の眉が動く。
しまった、と思った時には時すでに遅し。
「俺がここにいるだけで領地が冷えるように、君もいるだけで影響が出るだろう。だから俺が君を頼ることはない」
そうして公爵邸は一晩だけお世話になった。
公爵家の馬車で荷物と少しの使用人たちを共なって別邸へと出発したのだった。




