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EP[1]-2. サルベージ・シップ・エンカウント


『廃船星』

 船のスクラップや家庭の家電ゴミなど資源となる不燃物を捨てる星。

 捨てる者もいれば、拾う者もいる。廃船星に捨てられたスクラップを掘り起こし<サルベージ>、回収して売る者たちだ。


 タイロン星と呼ばれる惑星にも衛星として廃船星が回っている。


 「こちら、ジラフ・サルベージ・サービス。事前に申請した通り、これより廃船星へ航行する」

 サルベージ宇宙船ジラフ号 船長オーギンは、タイロン星の港湾局へ連絡する。相手から許可の返事が帰ってくる。


 「チロル、廃船星へ向けて自動航行モードに移行しろ」

 

 一隻のサルベージ船がタイロン星から廃船星へ向けて出発した。




 「タダヒロ、いつも言っているが前方に気を付けておけ。宇宙生物や小惑星に注意するんだ。避けないと船が粉々になるからな」


 ブリッジの中央に陣取っているオーギンさんは、ジラフ号の操縦席に座る僕に向かって小言が飛ぶ。オーギンさんは何事にも細かく行ってくる。


 「ちゃんと見てますよ。このあたりなら、宇宙生物や小惑星はほとんどいない宙域なので大丈夫です」


 タイロン星と廃船星の間は比較的安全な宙域だ。それに母艦AIのチロルが自動航行をしながら、周囲をレーダーで警戒してくれている。僕も目の前のパネルにあるレーダーとブリッジの窓を通して見張っている。


 「耳にイヤホンとは。またベースボールを聞いているのか。不安になるぞ。不注意で小惑星に当たるとかな」

 

 オーギンさんはベースボール中継をラジオで聞いているイヤホンに目を細める。

 「オーギンさん、大丈夫ですって。今まで当たらなかったから、ここにいるんです」


 母艦AIのチロルが僕に続けて発言する。

 「オーギン、大丈夫ですよ。タダヒロは信頼できるパイロットです。あなたは心配性しすぎるのですよ。私とタダヒロに任せてお昼寝でもしておいてくださいよ」


 この母艦AIは買ってもらったばかりのジャズを船内放送で流して、上機嫌だ。


 「チロルよ、船長と呼べと何度言ったら、わかるんだ。まぁ、あとは任せるからな」


 オーギンさんは目の前のテーブルに目線を落とし、宇宙船カタログを見る。手にはホットコーヒーだろう。


 このジラフ号は正規で購入したものではない。だから、公式のメンテナンスサービスを受けられない。自前でパーツを買い揃え、修理・交換する必要があるのだ。そのためのパーツ、それも格安でパーツが売っていないか、カタログの隅から隅まで険しい顔をしながら見ている。うちの会社は自転車操業でカツカツなんだ。


 (そら)を眺めながら、耳のイヤホンを通して、ナナイロホエールズ戦の恒星間宙域ラジオが流れている。


 ベースボールファンである僕は万年最下位のこのチームが好きだ。負けても負けても次の日は必ずマウンドに立ってくれる彼らが好きなのだ。

 「あっー!ナナイロホエールズ!4-5で敗れました!これで5連敗です!」

 

 また負けてしまったか…。敵チームのヒーローインタビューを聞きながら、首から下げたペンダントを指でいじる。

 父母からもらったペンダント。あれから会っていない。それどころか、どこへ行ったかもわからず、行方知らずらしい。

 

 目線を(そら)に戻す。(そら)にはキラキラと様々な輝きの明滅が目に写る。美しい……。それにとても落ち着く。チロルの自動操縦モードに頼って、目は宙を、耳はラジオに置き続ける。




 「船長、レーダーに反応はありませんが発光信号を発見しました」

 チロルの報告と同時に船内で流しているジャズが急に止まる。思わず耳にはめていたイヤホンを取り外し、僕の方も手元のメインモニタを指でタッチし、望遠カメラモードに切り替えて確認する。


 「僕の方からも発光信号を確認できました。なんでこんな近くまで気づかなかったんだ……」

 望遠カメラの光学観測では確認できるが、レーダーにはその姿が写っていない。ブリッジが静まり返る。


 「なんだ、こんなところで。奇妙だな。どこかの船が遭難しているのか。発光信号の内容はわかるか」

 オーギンさんが沈黙を破り、前のめりになっている。チロルが母艦AIのシステムで発光信号を解読する。

 

 「解読完了。発光信号は”オコシテ”です」

 ”オコシテ”。そんな内容は聞いたことがない。”タスケテ”ではないのか……。

 「”オコシテ”……いったい何でしょうか。オーギンさん」

 

 「わからん。聞いたことがない内容だな」

 オーギンさんも訳が分からないのか困惑している。


 相手の出方がわからない。どうすればよいのだろうか。

 「近づきますか。オーギンさん」

 

 「救難信号かもしれん。用心して近づこう。タダヒロ、近づいてくれ」

  救難信号か。確かにそんな相手かもしれない。宇宙海賊の罠ではないと良いのだが。

 

 「わかりました。チロル、自動航行モード解除してくれ」

 「タダヒロの要請により、自動航行モードを解除します。操縦権をパイロットモードに移行します」


手元のサブモニタが自動航行から手動航行モードの表示に切り替わり、操縦桿の重みがよみがえる。僕はしっかりとグリップを握り返す。メインモニタで微かな明滅を繰り返す発光信号に注意を向けながら、舵を傾けていく。物体の発光が徐々に大きくなっていく。発光物体の様相はブリッジからの目視ではまだわからない。 


 「発光物体を望遠カメラで捉えました」

 チロルからの報告に僕はグリップを握る手に汗がにじむ。


 「メインスクリーンに出してくれ」

 スクリーンにその姿が写し出される。それは宇宙船と思ったものとは違う姿だった。まるで……。


 「これは……宇宙生物……なのか……大きさは小型の宇宙船ぐらいでしょうか……」

 僕はメインスクリーンを凝視して目を細める。宇宙生物だとしたら、なぜ発光信号を……。いままでこの宙域でこんな宇宙生物は見たことがない。

 

 「チロル、今までに発光信号を出すような宇宙生物はいるのか」

 「少しお待ちを!データベース検索中。…………検索完了。発光信号を出す宇宙生物は見られますが、この形状の宇宙生物は確認されていません」

 チロルが艦内のサーバにあるデータベースから照合結果を報告すると、メインスクリーンに『UNKNOWN』の太い赤文字が浮かび上がる。

 

 「未知の宇宙生物かもしれないということか。しかし、”オコシテ”なんてメッセージを出すようなものがいるのか」

 オーギンさんは怪訝そうに眉間を寄せる。

 

 もし、未知だとしたら、新種の宇宙生物だということになる。だとすると、うまく捕まえることができたとして、宇宙生命体管理局に渡せば、賞金をもらえることができそうだ。彼は常に金に困っているようだから、危険がないことがわかれば、捕まえそうだな。

 

 「宇宙生物が出す発光信号は仲間同士のコミュニケーションとして利用されることがありますが、私たちの使用する発光信号のような明滅パターンはそれらに通常見られません」

 「だとすると……一体なんなんだ」

 オーギンさんは立ち上がった椅子へ座り直し、コーヒーを啜る。

 

 僕もそう思うが……宇宙生物でないとしたら……。

 「もしかして、宇宙船ではないですか」

 思わず口から出て、僕は喉が詰まる。

 

 「タダヒロが言った通り、姿は宇宙生物のようですが、発光信号の内容から宇宙船の可能性が高いと思われますぜ」

 やはり、宇宙船の可能性はあるのかも。だけど、悪意ある罠かもしれないという疑問がひっかかる。

 

 「今の情報ではどちらとも言えんな。タダヒロ、注意して接近してくれ。チロル、あちらが怪しい動きをしないか警戒しろ。それとビーム砲をチャージしておけ。いつでも撃てるようにな」

 

 「発光物体にさらに接近します」

 僕は心臓の鼓動があがりながら、グリップをもう一度強く握る。ブリッジの窓に写る点と光学機器の望遠カメラで拡大されて映るその姿に目を凝らしながら、船を近づけていく。窓から見える発光物体の姿が徐々に大きくなっていく。

 

 「発光物体は静止を続けています。怪しい気配は今のところありません」

 チロルが逐次異変がないことを報告してくれるが、心臓の鼓動が収まることはない。

 

ついにその姿がブリッジから僕の目にも見えた。その異様な姿は宇宙生物と見間違っても仕方がないほどの姿だった。飛翔する虫を思わせる骨格。その背中から4枚の半透明のはねのような器官が広がり、プリズムのように散乱した光が眩しく輝いている。先端には穴が開いており、まるで獲物を食べるような尖った口まであるかのように見える。だが、その外皮は宇宙船のように光を鈍く反射した無機物が垣間見える。本当に宇宙船の可能性があるのだろうか。

 

 「本当に姿は宇宙生物に見えるな。レーザーをあてて、音声通信を試してみよう。内容は”状況を教えられたし、所属と船名も教えられたし”とだ。チロル、頼むぞ」

 

 チロルは「了解だぜ、船長」と言うと、目の前の発光物体に向けてレーザー通信を開始する。どんな返事がもらえるのだろうか。あの物体の中はいったい……。チロルはジラフ号から未知の発光物体に向けてレーザー通信を送りつづけた。

 

 しかし何事もなく時間は過ぎていく。


 ―――レーザー通信の返事はついに来なかった……


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― 新着の感想 ―
オコシテ……オコシテ……ツーツーツー。 これインド人だったら "ナマステ"って信号入るのかな……?
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