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EP2-5. 群れ ~シルエの交渉~


 オーギンたち一行の宇宙船はジラフ号をニュークーロンシティから出航し、タイロン星を出ていた。

 探しているジュエルホーンの群れがいる宙域まで数日かかる。


 タダヒロはジラフ号のキッチンルームで御飯を作っていた。かけているラジオからベースボールのナナイロホエールズ戦が流れている。

 

 「さぁ、ナナイロホエールズ、今シーズンは2位に浮上、今日勝てば首位に立ちます!」

 ナナイロホエールズのファンである僕は好きなチームが首位に立つかもしれないということに嬉しさを感じているはず。はずなんだか。なぜか気持ちは上がらない。なぜだろう。

 

 出発前のシルエの浮かない顔を思い出すと、うきうきした気分にはなれない。

 

 「よぉー、晩御飯作っているか。」

 オーギンがキッチンルームに入ってくる。

 

 「あれ、オーギンさん、どうしたんですか。」

 「コーヒーのおかわりにな。どうした、顔が暗いぞ。何かあったのか。」

 何かあった。確かにあったんだろう。自分のことじゃない。シルエのことだ。買い物から帰ってきた時のあの顔、なんであんな顔をしていたんだろうか。シルエはいつも笑顔で楽しそうにしている。そんなシルエを見るのが好きだ。それなのになんでだろう。何か嫌なことがあったんだろうか。あんな顔を見るのは初めてのことだった。

 

 「もしかして、シルエのことか。」

 「えっ、どうして……。」

 オーギンさんに言い当てられたことにびっくりする。

 

 「そりゃあ、おまえが暗くなる時にはいつもあの子のこと絡みが多いからな。なんだ、喧嘩でもしたのか。」

 「いえ、喧嘩じゃありませんけど。」

 タダヒロは目の前の大鍋をかき混ぜながら、何と言おうか考える。

 「そうなのか、喧嘩したところを見たことないしな。考えすぎるなよ。あの子ならおまえを嫌うような真似をしないよ。」

 「はい…。」

 嫌われているなんて思ってもいなかった。このもやもやした気持ちを相談できずにオーギンはコーヒーのおかわりを入れるとキッチンを出て行った。

 

 

 

 ジラフ号は目的のジュエルホーンの群れがいる宙域に到着した。すでにそれらしき群れはレーダーで補足している。

 

 「さて、ジュエルホーンたちに挨拶をしにいくが、どうやって接触したらいいんだ。ミハエルさん。」

 オーギンはジュエルホーンに詳しいミハエルに聞く。

 

 「そうですね。彼らは知能が高いですから、いつもならただ近寄っても友好的に接触できます。しかし、今は子供をさらわれていますから、気が立っていてとても警戒していることでしょう。容易に近づくのは危ないと思います。」

 「なるほど、そしたらどうする。」

 

 「必要最低限の接触で行きましょう。ジラフ号は彼らより大きいのでより警戒を強めるだけです。シルエさんが乗った小型宇宙船一隻だけで近づきましょう。」

 

 「そうすると、あの子の出番だね!」

 シルエが声をあげる。

 

 「そうだな、タダヒロ。シルツー号で出てくれるか。」

 シルエがあの子と言うシルツー号とは、シルエを発見したときに乗っていた小型宇宙船のことだ。見た目が宇宙生物に似ているし、それに有機体と無機物の複合体でシエルと同じ未知のものだ。

 

 「わかりました。シルエとシルツー号で出ます。」

 シルツー号のパイロットはタダヒロだ。シルエ1人だとシルツー号のすべてを引き出すことはできない。 

 「説得はシルエ頼んだぞ。誘拐したやつらの特徴を聞き出し、人の住む宙域に進んでこないようにお願いするんだ。」

 「うん、わかった。任せてよ!無事にやってみせるんだから。」

 シルエは腕を振りながら答える。買い物をしたときのような浮かばない顔はそのとき以来あまり見ていなかった。

 

 シルエとタダヒロは格納庫に行き、シルツー号に乗り込む。宇宙船の顔の目に当たる部分に左右1つずつコクピットが隣り合わせになっている。シルエが乗り込むと操縦席から糸が伸びてきて繭のようにシルエを取り囲む。こうしてシルエはこの宇宙船と一体になって、宇宙船を自分の体と同じように動かすことができる。

 そして、僕は操縦桿をつかむと、手だけが繭のように包まれる。これでシルエと神経がつないだように意思疎通することができる。僕が動きの思考を伝えるだけでシルエはそのイメージそのままにシルツー号を動かす。こうして二人1組でシルツー号を動かすのだ。

 「シルツー号、準備完了。発進します。」

 シルツー号はジラフ号の格納庫を飛び出し、ジュエルホーンの群れへと向かった。

 

 

 

 「こちら、シルツー号。ジュエルホーンの群れに接近します。」

 シルツー号はジュエルホーンの群れが目視で見えるところまで来ている。群れは20頭ぐらいだろうか。密集して泳いでいる。どうやら子供をさらわれてから、随分と警戒しているようだ。

 

 どんどん迫っていく。

 「あの子たち、とても気が立ってるよ…。」

 シルエがつぶやく。どうやら、彼女にはもう彼らの声が聞こえているようだ。

 

 「タダヒロ、ここで停まって。ここから宇宙服で行くから。」

 シルエは繭から出て、宇宙船の目から宇宙空間へ出ようとする。

 「まって。それは危なくないかい?襲われたらどうするの。」

 

 「大丈夫、彼らは賢いよ。攻撃はしてこないはず。行ってくるね。」

 「あ、シルエ!」

 シルエは宇宙空間へと飛び出した。腰には宇宙船の操縦席から伸びている糸でつながっている。

 何かあってもすぐに戻れるということか。

 

 シルエが群れに近づくと、群れの中でも大きな個体のジュエルホーンの一体が群れの中から出てきた。

 おそらく群れのリーダーである長老だろう。ミハエルから話し合いをするのはおそらくその地位のものだと聞いていた。

 

 「お前は何者だ。」

 大きな個体のジュエルホーンが音を出す。もちろん、タダヒロにはただの鳴き声にしかわらかず、その意味はわからない。しかし、シルエにはわかるのだ。そして、シルエは特殊な周波数が混じった声で語りかける。この特殊な周波数で宇宙生物と会話することができる。

 

 「私はシルエ。敵じゃないの。お願いがあって来たの。どうか私の話を聞いてほしい。」

 「なぜ、お主の声がわかるかはワシにはわからん。まぁいい。話とはなんだ。我らは今、大事な時だ。」 

 ジュエルホーンの長老は大きな目をシルエに向ける。人サイズと比べれば、そのサイズはまさにクジラサイズと同じだ。

 

 「ありがとう。もしかして、あなたの群れから子供が誘拐されていない?私は子供を取り返すお手伝いをしたいの。」

 「おぉ、知っておるのか。そうだ。われらの大事な子供がさらわれたのだ。人がさらったことはわかっておる。われらはこれから人がいる宙域にでて、子供を探すのだ。」

 長老は時に大きな声を出して、感情的になる。

 

 「それは待ってほしいの。あなた達が人のいる宙域に出れば、宇宙船とトラブルになってお互いに攻撃を始めるかもしれない。」

 「そうすれば、人どもは子供を返さざるに得ないことに気づくであろう。われらはなんとしても子供を取り返す。なんせ、このワシの孫じゃからな。人どもめ、許さぬ。」

 怒りをこもった声で鳴いている。

 

 「どうか、私を信じて。子供を取り返してみせるから。」

 シルエは長老のクジラの目近くまで接近し、そっと手を触れてお願いする。

 

 「お主たちをどう信じればよい。子供を盗んだ人と同じではないのか。」

 「いいえ、こうしてここまで来たことが証拠なの。嘘をつきにどうしてここまで来るの。私たちは味方よ。子供をさらった人たちがどんな姿だったのか、教えてほしいの。どうか、お願い。」

 

 「ふーむ、確かに言われてみればその通りか。では教えようか。われらの子供を盗んだ輩がどんなやつだったかを。」

 「ありがとう。絶対に子供を見つけて返すわ。それまでどうか待っててほしいの。」

 

 「わかった。しかし、長くは待たんぞ。良いな。」

 

 そう言って、長老は子供を盗んだ輩の特徴をシルエに教えるのだった。

 

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