EP2-3. 仲間 ~シルエのおつかい~
「んーおいしい!」
虫型宇宙人の女の子が目の前の料理を次から次へと平らげている。
「おい、シルエ、みんなの分も残しておいてくれよ……」
薄緑色の肌をしたゲマン人の男が彼女に文句を言う。
「あ……オーギン、ごめんなさい!ついおいしくって。」
虫型宇宙人であるシルエは頭の触覚をピンと張りながら、笑顔で答える。彼女は腕が4本あるが、スプーンは一つしかもっていない。それなのにすごい勢いで料理が減っていく。彼女の胃は無尽蔵なのだろうか、
好みらしくシチューやスープ、デザートにゼリーばかり食べる。揚げ物など固いものは残している。
中年のオーギンは油物を食べるばかりになり、最近胃もたれが頻繁になっている。
「シルエはいつも楽しそうに食べるから、作り甲斐があるよ。」
料理した人間の青年が嬉しそうにシルエの食べっぷりを見ている。
「うん、タダヒロの作る料理はいつもおいしい!」
シルエは青年であるタダヒロに向けて、かわいらしいあどけない笑顔を向ける。
「はぁ、おまえの食べっぷりには感心するが、たまには食い扶持分働いてほしいもんだ。」
オーギンはため息をつく。シルエは毎日、大量の食べ物を食べる大食漢だ。その食費もばかにならないが、その食費代は経費から落ちている。彼らは宇宙生命体管理局の職員なのだ。
宇宙生命体管理局は危険な宇宙生物の監視や未知の宇宙人の保護をしている銀河国家間をまたにかける機関である。
実はシルエは未知の宇宙人として管理局に登録されており保護されている。しかし訳あって職員の一人として働いている。そういう事情もあり、保護されているシルエは食費も経費として落ちるため、オーギンは食費代については気にしていない。ただ大量に食べる分だから、少しはまじめに働いてほしいと思っている。
彼女は高身長の見た目のわりに精神年齢が低いのか、じっとした仕事、事務仕事が苦手で活発的だ。何も問題が起きてないときは事務仕事ぐらいしか仕事がないため、シルエは食事の楽しみや外で遊びながら暇を持て余している。
オーギンについては青年であるタダヒロと保護されているシルエのお目付け役でもあり、親のような保護者でもある。
「そうだ、シルエ。食料の買い出しに行ったら、どうだ。どうせ暇だろう。」
オーギンは名案でも思い付いたような顔をしている。
シルエは新しい遊びでも見つけたかのようにうきうきしている。
「シルエに買い出しですか。できるかなぁ。僕もついていきましょうか。」
タダヒロは心配症だ。
「いつも外でふらふらと遊びに行っているんだ。大丈夫だろう。これも社会勉強だ。おまえは事務仕事があるし、夕食の準備もしてもらわなにゃいかん。シルエが行くんであれば、護衛にアンナさんもお供してくれるだろう。」
「ええ、もちろん護衛としてシルエさんにお供しますわ。」
赤髪のフラク人であるアンナが答える。フラク人は皆美形であり、彼女も美女であるのだ。ただ彼女は片腕と片足が機械の義肢となっているサイボーグでもある。彼女はオーギンたち3人が宇宙生命体管理局に入る前から所属している古株で、保護されているシルエの護衛役として彼らチームの一員となっている。
そういったことがあり、シルエとアンナは午後から食料の買い出しに行ったのだった。
彼らがいる都市、ニュークーロンシティはタイロン星の政府の干渉を受け付けず、独自の文化を形成している。建物は無造作に改築・増築され、つぎはぎだらけ、区画は整備されておらず、ビルやマンション、一軒家が入り乱れる景観となっている。
そんな都市の中にあるスーパーへと彼女らは車で向かっていた。
「シルエさん、どんな食料を買うかわかっていますか。」
「うん!大丈夫。タダヒロから買い物リストを預かってきた!買い出し楽しみ!」
シルエは服のポケットから紙きれ一枚を出す。そこには1週間分の食料リストが書いてあった。どうやらシルエの食べっぷりを反映してかビッシリとリストが載っている。これは荷物が多そうだとアンナは思った。
「余計な物は買わないようにしないといけませんわ。」
「えーだめなの。」
「あなたの分だけの食糧でいっぱいですもの。他に買ってのせる分もありませんせんし、タダヒロに怒られますわよ。」
「うぅ、タダヒロに怒られるのは嫌だ。我慢する。」
「ええ、そうするといいですわ。それに帰ってきたら、またおいしい夕ご飯が食べれるでしょ。」
「そうだ!タダヒロのご飯が待ってる!」
タダヒロのご飯が待っていると思うと、もうお腹が空いてくる。
「ほんとにタダヒロのご飯が好きなのね。シルエさんはタダヒロに感謝しないといけませんわ。」
「うん、おいしい!でも、シルエ、タダヒロに何も返せていない。」
「あの子はあなたの食べっぷりを見るだけで嬉しそうにしていますけどね。でも、そうね、何かお礼を考えましょう。知っていますか。来月、タダヒロは誕生日ですのよ。贈り物をするにはぴったりでしてよ。」
「そうだ!タダヒロの誕生日だ!」
「思い出しましたか。贈り物を送ってあげましょうね。」
みんなの誕生日はいつもタダヒロがおいしい料理をたくさん作ってくれるだけの会だった。今回は自分もタダヒロに喜んでもらえるように贈り物を送ろうと思うシルエだった。
スーパーに着いた。シルエは買い物カートを押しながら、買い物リストにあるものをいれていく。
シルエは買い物をしているが、ぼんやりとしている。
「シルエ、ぼっーと歩いているとこけますわよ。」
「うん……。アンナ、タダヒロは何が欲しいんだろ。」
シルエはタダヒロの欲しいものが何か悩んでいた。どんなものが欲しいのか。そういえば、彼のことをなんでも知っているわけではない。いつも何かくれるのに、自分はなにもあげたことが無い気がする。
「そうですわね、確かにタダヒロが欲しいものって分からないですわね。年頃の男の子が欲しそうなものをあげたらどうですか。」
「年頃の男の子が欲しいものって何?」
「それは……。分からないですわね。」
アンナはくすっと笑う。
「だったら、自分がもらって嬉しいものはどうでしょうか。」
「自分がもらって嬉しいもの……。」
シルエは買い物カートに入っている食べ物を見る。シチューやスープの食材、ゼリーなど自分が好きなものばかり入っている気がする。いつも料理を作ってくれる。その料理が私は嬉しい。タダヒロは料理をもらって嬉しいだろうか。でも、いつも自分で作っているものをもらって嬉しいだろうか。私が料理を作ったらタダヒロは喜んでくれるだろうか。タダヒロが喜ぶ顔を思い浮かべて、胸が暖かくなる。
結局、シルエはタダヒロが欲しそうなものを思いつくことができないまま、買い物が終わってしまった。買ったものを車に積み込み、帰路につく。アンナが運転する車の助手席に座って、窓の外を眺めながら、ぼんやりと、タダヒロの誕生日プレゼントを何にするか考えていた。
信号で車が停止し、外を見ると屋台が並んでいた。シルエはその屋台の一つに目がとまる。
果汁ジュースの屋台だ。いろんなフルーツが並んでおり、絞り機でその場で果汁100%のジュースを作っている。果汁ジュースはシルエの大好物だ。悩んでいても好きなものは好きなのだ。
「アンナ、屋台寄ってもいい?」
「良いですわよ。」
アンナはずっと悩んでいるシルエにみかねて寄り道をする。
車を最寄りの駐車場に停め、二人は果汁ジュースの屋台へと行く。屋台でシルエは果汁ジュースを4つも買い、4本の腕でそれぞれ持って、好きな味をそれぞれ楽しむ。シルエのお気に入りの飲み方だ。
「あの……少しよろしいでしょうか。」
いきなり短く刈り込んだ金髪で丸眼鏡をかけた男が屋台のそばにいたシルエたちに話しかけてきた
アンナが警戒してシルエの前にそっと出る。シルエは保護対象だ。護衛役として安易に近づかれるようなことにはしない。
「実はこの都市に来るのが初めてで迷っているのです。探している場所がありまして、ひょっとしたらと思い、お声を掛けさせてもらいました。」
このニュークーロンシティでは住所というものが良い加減なのである。タイロン政府が関与せず、住民たちが勝手に作り上げた都市なので、住所の管理もだいぶ適当で番地さえないのである。
「それで用はなんでしょうか。」
「もしかして、あなた方は宇宙生命体管理局の方ではないでしょうか。管理局の制服を来ていますから。」
アンナたちは仕事の日でもあるので、管理局の制服を着ている。アンナの制服はジャケットにパンツスタイルだが、シルエのそれは少し服装が異なっている。4本の腕のために肩口は広く、背中はパックリと空いたトップスの制服でパンツスタイルは同じだ。
「そうですが、どんな理由でしょうか。」
「私も宇宙生命体管理局の者でして、これがその証拠です。」
そう言うと男は首ストラップにかけたカードを掲げた。アンナは注意深くそれを見ると、この男が同じ管理局のものであると理解した。
「あら、同じ管理局の方でしたの。失礼しましたわ。もしかして、ミハエルさんですか。支部長から問題が発生して、一人こちらに来られると事前に聞いておりましたわ。」
「あーよかった。その通りです。ある問題がおきまして、タイロン星支部を探しておりました。なにぶん住所が曖昧で……。とにかく、ここでお会いできたのは幸運でした。」
「それでしたら、ちょうど私たちは支部まで帰りますのでご案内いたしますわ。」
「それはありがたい。」
「はじめまして、シルエと言います!あなたのお名前は?」
横からいきなりシルエが無邪気に挨拶した。アンナの態度が和らいだので安全だと判断したらしい。
金髪の男は少しびっくりして答える。
「私の名前はミハエルと言います。監視担当官です。よろしくお願いします。」
アンナたちはミハエルを連れ、タイロン星支部まで帰るのであった。
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