EP11. 覚醒
(1)
シルツー号のコクピットから宇宙へ放り出されたシルエ。そのコクピットから見上げる僕。売り出された後、シルエが光り輝きだした。まばゆい光に包まれている。
「シルエから光が……。」
「何が起きているの?」
僕もアンナさんも何が怒っているかわからない。光に目が慣れて、徐々にシルエの姿が見えてくる。
「姿が変わっていく……。」
光の中でシルエの姿が変わり始める。シルエの背中から何かが生えてくる。体のラインに合わせた宇宙服の背中を突き破って、生えてきたたそれは羽ばたく。
「羽だ、羽が生えてくる。」
6枚の羽がシルエの背中から生え出る。そして、他の部分も姿が変わっていく。細目が大きく開かれ、その大きな黒目が見開かれる。髪が、手足が、垂れさがった耳が伸びていく……。
その姿をより大きく見せるように変わっていく。
「髪も手足も耳も変わってしまった……」
全身の羽毛さえも伸びていく。
「すごい。なんてきれいなんだ。」
変わった姿はまさに妖精そのものだ。まるで、蚕の妖精だ……美しい姿に僕は彼女から目を離すことができなかった。
「彼女は一体何者なにものなんですか。」
アンナさんも驚いている。シルエは生えた3対6枚の羽を大きく羽ばたき始める。羽ばたいた羽からは何か粉のような鱗粉が出てきて、広がり始める。鱗粉はキラキラと光りながら、外へ外へと広がり、空間を、シルツー号を、僕を、そして自分自身をも包んでいく。
「羽から鱗粉みたいなものが広がっていく。なんなんだろう、あれは一体。」
僕はただシルエの姿が変わっていくのを見ていた。
「なんて虫女なの!イワノフ様をこんなにして。ノーズ、とどめを刺しなさい。」
ソフィアは何が起きているかわからず、戸惑っている。しかし、ソフィアにとって、イワノフをやられたという事実のみが彼女を駆り立てる。ソフィアはノーズにとどめを命ずる。
「ミス ソフィア、わかりました。虫女にビーム砲を撃ち込みます。」
レッドバルーン号からシルエに向けてビームが解き放たれていく。
「やめろぉー!」
僕は叫ぶが、解き放たれたビームはシルエへ直撃する。やめてくれ……。
その刹那、ビームが直撃する、否、シルエを包んでいる鱗粉にビームが当たると、ビームは拡散し、花火が散るように消えていく。それは鱗粉自体の光とビームの散りゆく光が合わさり、幻想的な景色を彩っていた。
「なんで……ビームが拡散していく。美しい光が拡散していくように見える。まるで星空のように美しい。」
その光景に目が吸い込まれていくように僕は見続ける。
「一体なんなの、あれは!」
ソフィアは放たれたビームが効かず、困惑する。
「ミス ソフィア、私にもわかりかねます。データベースにない現象です。」
ノーズも困惑している。誰にもなぜ、そのようなことが起こったのかわからなかった。
そこへアンナのサンセット号がシルツー号のところに到着する。
「これ以上、シルエをやらせませんわ。」
サンセット号がこれ以上ビームを撃たせないためにレッドバルーン号に向かう。
「まずい、加勢がくる。ノーズ、撤退よ。私たちを収容した後、とっとと引きなさい。」
ソフィアがレッドバルーン号だけでは分が悪いと感じると、ノーズに引くように命じる。
「わかりました。ミス ソフィア。」
ノーズはレッドバルーン号をこの場から離脱するように向けて去っていく。
レッドバルーン号は去っていった。脅威は去った。僕はコクピットから出て、宇宙へ放り出されたシルエに向かう。
「シルエ!シルエ!」
姿が変わったシルエを抱きしめる。
「……タダヒロ。アレ……ワタシ……ナニヲ。」
シルエはタダヒロの方へ力なく顔を向ける。
「シルエ!大丈夫かい?痛いところはないかい。」
「ウン、ドコモ イタクナイヨ。タダヒロ、不思議ナ 感ジガスルノ。」
「無事で良かった……。シルエ。」
「タダヒロ……ネムイ……。」
タダヒロに向けた顔をそむき、シルエは気を失う。
「シルエ!」
僕は気を失ったシルエに声をかけ続けた。その後、アンナさんのサンセット号により、僕とシルエ、そしてシルツー号は回収され、ジラフ号へと戻った。