EP9-2. 襲撃
(4)
僕とシルエはバイクを降りて、ジラフハウスに入る。何ともなく無事に帰れたようだ。
「オーギンさん、今帰りました。」
「おう、無事に帰れたか。チロルから状況は聞いている。シルエの正体がバレたかもしれねぇな。」
オーギンさんは僕らを心配してくれていたようだ。
「そうですね。やっかいな事になりました。すみません、油断していました。」
これから、どうするか。シルエを厄介なことに巻き込ませたくない。
「チロルを連れて正解だったな。おそらく、シルエの正体をスキャンしてまで情報を掴もうとしている奴らだ。一体どんな奴ら何だ。」
「やっぱり犯罪組織ですか。」
シルエのことがより心配になってくる何としても守らないと。
「用心に越したことはねぇ。この街には警察がいないからな。自分で自分を守るしかない。」
そうだ、この街では”自分たちのことは自分立ちで”がモットーだ。
「便利な街ですが、そういうところが辛いですね。」
こういうときに警察がいればと都合の良いことを考えてしまう。
「文句言っても仕方ねぇ。俺たちにできることをしよう。とりあえず、シルエは3階に寝かして、俺は2階で寝る。おまえはシルエについててやれ。」
このハウスは3階建てだ。最上階にシルエを避難させる。
「わかりました。シルエにつくようにします。」
シルエには指一本触れさせてたまるか。
「チロル、お前には悪いが、明日ジラフ号が出発できるようになるまで夜通し外を見張っててくれ。」
「シルエの一大事、お任せください。」
チロルも気合が入っているようだ。
「船の補給は明日にならないと終わらないらしい。後、タダヒロとチロルも武装しておけよ。」
オーギンさんは一刻も早くジラフで街を脱出させた方が安全だと考えているようだ。しかし、船の補給が終わるには1日かかってしまう。
「わかりました。銃を持つようにします。」
シルエは守ってみせる。
(5)
イワノフ達一行はジラフハウスを見渡せる近場に隠れている。どうやら、ジラフハウスにシルエたちが入ったことを、繁華街から後をつけて確認したようだ。
「ノーズ、あの家の状況はつかめたか。」
「あの家には私と同様にドローンが1機います。近づくとこちらがバレてしまいます。」
チロルがハウスの周りをパトロールしているようだ。安易に近づけば、ばれて警戒される。
「そうか、難しいか。」
「ただ、遠距離スキャンにより人数はわかりました。3人程と思われます。」
ノーズのドローンはハウスの中を遠距離スキャンで探り、中にいる人数を確認する。
「ほぉ、3人か。それならば、充分俺たちでだけでやれそうだな。」
思ったより、人が少ない。虫女を含めて3人なら、守りは2人だろう。
「イワノフ様、それでは。」
ソフィアもイワノフの考えを察したようだ。
「ああ、今日の深夜に仕掛けるぞ。あの虫女をつかまえる。頼りにしてるぞ、ソフィア。」
「あぁ、イワノフ様、このソフィアにお任せ下さい。」
ソフィアはイワノフの役に立てるときがくると思うと、いてもったてもいられないのであった。
(6)
ジラフハウスの階下で音がしたのをシルエが感じたようだ。
「ナニカ、音ガ シタ?」
シルエの垂れさがったうさぎのような耳がピンと立ち、聞き耳をそば立てているようだ。
「何か物音がしたのかい?」
まさか、犯罪組織のやつらがきたのか。僕は緊張して体がこわばる。
「ウン。」
どうやら、そうかもしれない。近くの引き出しから銃を出し、手に取る。
「もしかして誰か来たのか。」
シルエは耳が良いらしい。どんな音がしているかシルエに確認してみる。
「誰カガ 争ッテイル 音ガスル。」
2階で争っている音が聞こえるようだ。僕にはあまり聞こえない。どうやら、相手はあまり物音を立てずに、侵入してきているようだ。プロかもしれない……。
「なんだって、あまり良くない状況だ。シルエ、あの押し入れの中に隠れてて。」
とりあえず、シルエを隠さないといけない。
「タダヒロ、ドコカ イクノ? ヒトリハ ヤダ。」
シルエは不安な顔で何が起きたのか、そわそわしている。どうやら、一人残されると思っているようだ。
「大丈夫だよ。どこにもいかないから。危なくなるかもしれないから隠れてて。」
シルエを安心させないと。
「キケンナノ?タダヒロ、アブナイノ?」
「そうじゃないよ、シルエが危ないかもしれないんだ。大丈夫。オーギンさんやチロルが守ってくれるよ。いいから隠れてて。」
シルエが僕の心配をしてくれている。でも、僕らが彼女を守るんだ。
「ウン、ワカッタ。カクレル。」
シルエが安心したような顔になった気がして、押し入れの中に隠れてくれた。
「よし、後は誰もこないと良いんだけど。」
(7)
誰かが3階へ上がってくる音がする。やつらが来たのか。ドアを誰かが開ける。そこにはプロレスラーのような大男<イワノフ>と大きい帽子をかぶっている女<ソフィア>が立っている。
「おい、ここに虫女はいるか?」
虫女?シルエのことが?やはり、あの子を狙っていたのか。。
「どうやって、ここへ?それにおまえは誰だ!」
2階にいたオーギンさんと外で見張りをしていたチロルはどうなったんだ。大丈夫なのだろうか。
「静かにしろ!こいつがどうなっても良いのか。」
よく見ると大男がオーギンさんを捕まえて銃を突きつけている。腕を後ろで捕まえて、身動きがとれないようだ。
「オーギンさん!」
「こいつの命が惜しければ、虫女を出せ!」
くそっ!どうすれば!
「虫女ってだれですか。ここにそのような人はいません。」
とにかく、時間を稼がないと…。
「タダヒロ、スマン、捕まってしまった。こいつ強いぞ。」
力が強いオーギンさんでもかなわないとは……。銃があるけど、オーギンさんを人質にとらえられては銃が使えない。
「知らばってくれると思うなよ。ソフィア、奴を少し痛めつけてやれ。」
大男は帽子の女に目を配り、命令をする。
「イワノフ様、お任せください。悪い坊やにはお仕置きが必要ね。」
ソフィアは鞭を出し、僕に向けて打ち始めてきた。
「うわっ。」
痛い。鞭がこれほど痛いとは知らなかった。
「いいかげんに言わないと今度はこいつが撃たれることになるぞ。」
大男がオーギンさんに銃を向ける。万時休すだ。一体どうすればいいんだ……。
「ヤメテ、コノ人タチヲ イジメナイデ!」
シルエが隠れていた押し入れから飛び出してきた。この状況にたまらず、出てしまったようだ。
「おっと、やっと出てきたな、虫女。ソフィア、そいつを捕まえろ!」
シルエが奴らにばれてしまった。
「はい、イワノフ様。」
帽子の女が鞭でシルエを捕まえる。
「シルエ!」
「タダヒロ!イヤ、ハナシテ!」
シルエは逃れようと暴れるが、帽子の女の鞭で巻かれて身動きがとれない。シルエを取り戻そうと、帽子の女に銃を向ける。
「おい、動くなよ!」
「くっ!」
大男はオーギンさんに銃口をおしつけ、僕に忠告する。
その時!窓が割れ、誰かが3階に押し入ってきた。
「頭を下げて、目をつむりなさい!」
窓から入ってきた刹那、人とともに閃光手榴弾が投げ込まれ、部屋一面を激しく、まぶしい光が照らし出す。大男は頭を下げ遅れ、もろに目で光を見てしまう。
「何だ、これは!目が……。」
「イワノフ様!おまえ、何をする!」
帽子の女は目をつむっていたのか平気なようだ。うろたえながら、大男の方へ近寄る。しかし、手に持った鞭がほどけ、シルエを解放してしまう。
「突入しなさい!」
部屋に押し入ってきた女が叫んだ。他にも誰かがいるのか?突入の声に大男は踵を返す。
「新手か。ソフィア、撤退だ!囲まれる前に引くぞ。」
「はい、イワノフ様。お体は大丈夫でしょうか。」
大男は帽子の女に支えながら、その場を走り去ろうとする。
「ああ、体は問題ないが、目を少しやられた。回復までに時間がかかる。」
あれだけの光を浴びたのにもう回復してきたのか、恐ろしい奴だ。大男と帽子の女はこの建屋からもう逃げ出したようだ。
「いたた……。助かったのか。」
頭を下げていた僕は立ち上がる。それにしても鞭は痛かった。
「ダイジョウブ? タダヒロ。」
シルエが心配そうに僕に駆け寄る。
「大丈夫だよ。ありがとう、シルエ。君こそ大丈夫かい?」
幸い、痣にはなっているが骨は折れてなさそうだ。シルエの方も気がかりだ。
「ワタシモ 大丈夫ダヨ。」
シルエも無事なようだ。良かった。
「いってぇなぁ、あの大男、次はこうはいかねぇ。それにしても、あんた、助かったよ。ありがとう。」
大男たちが逃げるときに突き飛ばされたオーギンさんが起きながら、窓を突き破ってきた女に礼を言っている。
「どういたしましてですわ。みなさん、無事のようですわね。」
窓を突き破ってきてから閃光手榴弾を使ったので、軍人のイメージがあったが、堅苦しいことはなく言葉が上品な人だと思った。育ちが良いのだろうか。
「あなたは一体……?」
僕はその女性に何者かを尋ねる。
「私は宇宙生命体管理局からきたアンナと申しますわ。」