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【完結】政略結婚なので愛は不要と告げた初夜に、妻は夫に愛人を紹介しました  作者: 一ノ宮ことね


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帝国に必要なのは、血統ではない

帝国歴833年・収穫祭――

第一皇子の誕生。

帝都では、王妃レティシアと皇子のお披露目を祝う行列が執り行われていた。


群衆は歓声をあげ、花を投げ、帝国の未来を称える……はずだった。


だが、その中に微かな声が紛れていた。


「王妃様は立派なご出自だけどな」

「皇帝は血筋がねえって話だぜ?」

「昔はもっと、血の誇りってもんがあったろうによ」


馬車の中。レティシアはそれを聞いた。


最初は、無視しようとした。

無知な言葉など、いくらでもある。

だが、その次の一言で、彼女の血管が吹き飛んだ。


「赤子は王妃様の血があるから、なんとかなってるけどな」

「じゃなきゃ、あんなの“帝位の器”じゃないだろうよ」


その瞬間、レティシアは手綱を止めさせた。


「止まりなさい」


護衛が戸惑う間もなく、彼女はひとりで馬車を降りた。


群衆がざわめく中、王妃は一歩一歩、階段を下り、地に足をつける。


その場の空気が、凍りついた。


「今、言ったのは誰?」


沈黙。


「出てきなさい。顔を晒せとは言わない。

ただ、あなたの言葉に――私が応える」


その声は、震えていなかった。

むしろ、火よりも冷たかった。


「この帝国を作ったのは、“血”かしら?」


「違うわ。形よ。設計よ。

誰が構造を築いたのか。誰が泥に手を突っ込んで未来を描いたのか」


「それが、“あの人”。私の夫。皇帝カイゼルよ」


「あなたは血筋がないとおっしゃった。

なら、問います」


「血があるだけで、民を守れますか?

血があるだけで、飢えた民の皿にパンを載せられますか?」


「できません。

血だけでは、帝国の未来は作れない」


「私の夫は、泥にまみれて国を動かした。

一度も壇上に立たず、それでも帝都の底から、道を通した」


「民が知らない間に、夜を徹して国境を繋ぎ、戦を回避し、

子どもが眠る布団の暖かさを守ったのよ」


「それが“血筋がねえ”? 上等じゃない」


「その血の、どこが恥だというの」


「私は貴族の娘。

“名門”として育てられ、“帝国を変える”ために王妃になった」


「でも、いざ帝国の形を描こうとしたとき、

私が背中を預けられたのは、“血統”ではなく、“実力”だった」


「私の子に、皇帝の名を継がせるのは――あの人の血ではない」


「その背中、その手、その意思よ。

私が、世界で最も尊敬する“男”のすべてを、私は子に託す」


群衆は、誰ひとり言葉を発せなかった。

その日、王妃の言葉が帝都の石畳に深く染み込んだ。


その場にいた者は皆、思い知ったのだ。


「帝国に必要なのは、血統ではない」

「皇帝そのものが、“帝国”だったのだ」と――。






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