幕間:いつだって皇帝は片想い
帝国歴817年・政務局執務棟――
まだ2人が結婚したてだった頃の話。
「……また、王妃の書類、陛下がチェックしてるのです?」
セリーヌは、呆れた声で尋ねた。
カイゼルは平然と机に向かったまま答える。
「彼女の書き方には傾向がある。
条項の折り返しが早くなるときは、内政に不満がある証拠だ」
「いや、書き方の癖を把握してどうするんですか」
「これは仕事の延長だ。
帝国の安定のためには、王妃の思考回路を読む必要がある」
「その王妃が、執務中にドアの前通ったとき、
あなた三度もペン落としたの、見てましたよ?」
「風圧だ。彼女のドレスが揺れたせいだ」
「風圧で心臓まで動揺する人、初めて見ましたよ」
そのとき、廊下の向こうからヒールの音が聞こえた。
カイゼルは一瞬で姿勢を正し、視線を自然に窓の外へ。
「……今明らかに待機姿勢になりましたよね?」
「なにを言っている。いつもこうだろう」
「片想いが長すぎて、もう“恋愛も日常業務”になってるの、
ちょっと哀れだけど面白いですわ」
レティシアが通り過ぎる。
何気なくカイゼルの視線が、彼女の背中――というか、若干“それより下”に落ちる。
セリーヌは黙ってメモ帳に書き込んだ。
「“本日:皇帝陛下、王妃の尻を三度見る”」
「記録を残すな。これは視認の範囲内に収まった偶然だ」
「ケツおっかけてるって言うんですのよ、世間では」
そしてレティシアがふと振り返り、視線が合う。
カイゼル、完璧に硬直。
セリーヌは溜息をついた。
「見てるこっちがもどかしい」




