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【完結】政略結婚なので愛は不要と告げた初夜に、妻は夫に愛人を紹介しました  作者: 一ノ宮ことね


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戴冠なき帝位


レティシア・フォン・グレイス。

その名がまだ“王妃候補”として表に出る前のこと。



カイゼルが“皇帝”として即位してから、まだ一月も経っていなかった。

帝都は静かだった。祝賀も演説もなかった。だが民は知っていた。

この国の形を作ってきたのは、壇上に立たぬその男だと。


そして今日、帝都に“王妃候補”が入る。


レティシア・フォン・グレイス。

古くからの名門グレイス公爵家の令嬢であり、

帝国旧派・中立派双方に“安定”と“正統性”をもたらす唯一の存在。


王宮・迎賓の間。


レティシアは薄布のドレスに身を包みながらも、その瞳は鋭かった。


「……なぜ、私にこの婚姻命令が来たのか、理解はしています」


「君にとっても、悪い取引ではないはずだ。

王妃となれば、帝政における発言権を得られる」


「私は、玉座を支える“飾り”になるつもりはありません。

条件があります」


「聞こう」


「政治に介入すること、軍事に対して監査権を持つこと、そして――

私が、あなたに“忠誠”を誓うことはないということ。私は帝国に仕える。それだけです」


しばしの沈黙の後、カイゼルは静かに言った。


「……よく分かった。

俺も、君に“従うこと”は求めない。

並んでくれるなら、それでいい」


式は行われない。記録と文書だけが進む。


だがその晩、帝国広報局が出した一報が国中に届いた。


《本日、皇帝カイゼルは、

グレイス公爵令嬢レティシアを正式に王妃と迎え入れた》


それは、政略という名の“同盟”だった。

氷のように冷たく、それゆえに揺るがぬ婚姻の、始まりだった。

帝都・王宮 執務棟 南棟応接室――


重厚な扉が静かに開いた。


カイゼルは執務机を離れ、部屋の中央で静かに立っていた。

彼の前に現れたのは、深い藍色のドレスに身を包んだ女――

レティシア・フォン・グレイス。


彼女は一礼もなく、無表情で歩み寄る。


「皇帝陛下。ご機嫌よう。私は、命によりこの帝都へ参りました」


「ようこそ、帝都へ。レティシア殿」


「本日より、“あなたの妻”となる契約に署名した者です。

ですが、心情的には、ただの政略上の人物として接していただいて構いません」


「了解した。私も、君に対して情愛を求めはしない。

必要なのは協力であり、信頼だ」


その言葉に、レティシアの眉がわずかに動く。


「信頼、ですか」


「君が帝国に仕えようとする意思を、私は歓迎する。

この国の形が崩れない限り、君を妃として遇する」


レティシアはゆっくりと一礼した。


「では、あなたに求めるのはひとつ。

私を“王妃”としてではなく、政治的同盟者として扱ってください」


「異論はない。妃ではなく、同志として、迎えよう」


ふたりの間に、微かな静寂が流れる。


「それでは、これより政務の概要をご説明いただけますか?」


「……君が望むなら、今すぐでも」


「私は時間を無駄にする趣味はありません」


こうして、政略婚として結ばれた二人の“初対面”は、

一切の情を交わさず、ただ機能と目的だけを確認する場となった。


だがその背中には、どちらも確かに“国家を背負う意志”があった。



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