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ときどき、あなたにだけ
それは特別な夜ではなかった。
祝日でも、式典でも、記念日でもない。
ただの平日。政務に追われて疲れ果てた王と妃の夜。
カイゼルが書斎でペンを置いたのは、いつもより少し遅い時刻だった。
「……今日はもう終わりだな」
隣の席では、レティシアが目を閉じて眠っていた。
積み上がった資料に頬を預けたまま、静かに呼吸をしている。
そっと毛布を掛けてやろうと手を伸ばした瞬間――
「……寝たふりよ」
「……!」
「騙されたわね、カイゼル」
薄く笑いながら、レティシアが目を開ける。
「私の寝顔を見られるのは、あなただけよ。……光栄に思って?」
カイゼルはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ口元を緩める。
「はい、たいへん光栄です、妃殿下」
「ふふ……でも、こうして静かな夜に隣にいてくれるの、好きよ。たまには」
「四六時中ずっとそばに張り付いていたいけどね」
「たまにして」
レティシアはそっと彼の肩に寄りかかる。
「おやすみ、カイゼル」
「おやすみ、レティシア」
それは、帝国の中枢にいる王と妃が交わす、
最もささやかで、最も幸福な“ふたりだけの会話”だった。




