第十九話 「帝国の未来へ」
春が訪れた。
王都の桜が咲き、街は穏やかな陽光に包まれていた。
戴冠から一年。
セラフィア帝国は変わった。
貴族制度の見直しが進み、教育制度は拡充され、
新たな交易路は王妃レティシアの名のもとに築かれた。
政に生き、愛に触れた者たちは、静かに“今”を積み重ねている。
「……陛下、もう少しゆっくりお休みになっても」
「今日は大事な日だからな。寝てなどいられない」
カイゼルは鏡の前で軍服の襟を正す。
今日は“新政布告”の発表の日。
王と妃が、国の未来を言葉にして民に示す、帝国の新しい節目。
扉が開き、レティシアが現れる。
「おはよう。準備はできてる?」
「君こそ。今日も君は……美しい」
「またそんなこと言って。……でも、ありがとう」
二人は並んで、王宮の外へと歩き出した。
広場に集まった民衆は、ふたりの姿に静かに息を呑む。
カイゼルが第一声を上げた。
「この国は、変わりました」
「戦乱の歴史を越え、旧き制度を見直し、
私たちは今、“人が人として生きる国”を目指しています」
続いて、レティシアが言葉を継ぐ。
「私たちは、すべてを変えたわけではありません。
でも、“変わることを恐れない心”を得ました」
「そしてそれは、あなたたちが私たちを信じてくれたからこそ、実現できたのです」
ふたりの声は、揃っていた。
心も、言葉も、未来も。
式典後の王宮バルコニー。
風に揺れる花びらの中で、レティシアは小さくつぶやいた。
「……あんなふうに民の前に立つの、最初は嫌だったのよ」
「知ってる。でも、今の君は“この国の顔”だ」
「……あなたが私を諦めないでくれたからよ」
互いにとっての“未来”は、
“隣にいること”そのものだった。
静かに、手が重なる。
帝国は今日も動いている。
ふたりの歩幅で。




