第十八話 「王として、夫として」
帝国の冬が訪れようとしていた。
王都に冷たい風が吹き始める頃、カイゼルは決断を下していた。
「貴族税の改正を実施する。特権階級の過剰な免税を廃し、軍と教育に回す」
それは、帝国を根底から揺るがす政策だった。
これまで“平穏”の名の下に維持されてきた制度を、
今、彼は自らの手で崩そうとしている。
す
彼は“王”として、いよいよ「維持」ではなく「変革」を選んだ。
その夜、レティシアは彼の決意を聞いて、ただ一言こう返した。
「……いいじゃない。陛下らしい」
「怖くないか?」
「怖いわ。でも、“あなたの王政”を、私が誰より信じてる」
そう言って、彼の手を取った。
「……ありがとう。君がいるから、俺は“王”でいられる」
そのころ、別室のソファでワインを飲んでいたセリーヌが、ぽつりとこぼす。
「……あそこまで変わるとはねぇ」
隣で控えていた若い侍女が聞き返す。
「王妃殿下のことですか?」
「そう。変わったけど、“変わってない”部分もそのまま残してる。
……だから、私もずっと側にいられる」
「羨ましいです。あんなに強くて、優しくて、美しい方の友人なんて」
「羨ましい? ふふ、私ね……」
セリーヌはグラスを見つめながら言った。
「……私も、王妃にむかし助けられた1人なのよ」
侍女が驚いて言葉を詰まらせる。
セリーヌは笑う。
「自分じゃ冷酷だと思ってるんだから、可愛いわよね」
静かに、ワイングラスを揺らした。
「正妃が無自覚なだけで、恩を返したいと思ってる人間は、他にもいるはずよ」
*
翌日。
カイゼルは新税法案を自ら読み上げ、帝国議会に提出した。
反発の声もあった。
だが、もはや誰も“王の決意”に抗える者はいなかった。
なぜなら、その傍らには“信頼”と“実績”で成り立った王妃が立っていたから。
王が変われば国は揺れる。
だが――王と妃が手を携えたとき、国は“進む”のだ。
その夜。
書斎で報告書をまとめるレティシアの隣で、カイゼルが言う。
「君に、もっと楽をさせたいと思っていたけど……」
「でも、こうして隣で政務に関われるのが、一番幸せなの」
「……やっぱり君は、俺にとって“王妃”というより“相棒”だな」
「それ、“夫婦”よりも重い関係ね」
「そうかもしれない」
ふたりは笑った。
政を共にすることは、愛を育てる手段でもある。
互いを信じ、任せ、支え合う。
それが、ふたりの“夫婦の形”だった。
バルコニーに出て、冷たい夜風を受けながら、レティシアはつぶやいた。
「……ねえ、カイゼル」
「なんだ?」
「私たち、この国の未来をどこまで見られるかしら」
「君となら、どこまでも行ける」
その言葉は、まるで誓いのように響いた。




