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【完結】政略結婚なので愛は不要と告げた初夜に、妻は夫に愛人を紹介しました  作者: 一ノ宮ことね


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第十五話 「初めての夜」

離宮の夜は、王都よりも静かだった。


虫の声すら遠く、風の音が緩やかに天幕を揺らしていた。


その夜、レティシアは眠れずにいた。


白のナイトドレスに身を包み、広い寝台の片隅で膝を抱えている。


これまでに何度も過ごしてきた夜のはずだった。

それでも、今夜は少しだけ、違う。


——今日は、“想いを言葉にした日”。


好きだと伝えた。

自分の声で、彼に気持ちを届けた。


だからこそ、胸の奥がずっと熱い。


「……レティシア」


不意に扉がノックされた。聞き慣れた声。


「……入って」


扉が静かに開き、カイゼルが入ってくる。


私服のまま、だが礼儀正しく姿勢を正していた。


「驚かせてしまったら、すまない」


「……ううん、むしろ、来てほしかった」


その言葉に、カイゼルの目が、やわらかく揺れた。


「……少しだけでいい。君と話がしたくて」


「うん」


彼はそっと寝台の端に腰を下ろす。

互いに手も伸ばさず、ただ、沈黙が流れた。


けれど、それは不安の沈黙ではない。


「……あのね、カイゼル」


「うん」


「今日、あなたの名前を呼んだとき……なんだか少し、泣きそうだったの」


「どうして?」


「貴方に失礼なことをたくさんしてしまったわ…なのに、隣にいていいのかって」


その言葉に、カイゼルの目が静かに細められる。


「ずっと、俺の隣は君の特等席だ」


「ありがとう」


その言葉と共に、ようやくレティシアは、彼の手を取った。


その指は少しひんやりとして、でもすぐに体温が伝わってくる。


彼の手が、そっと彼女の頬に添えられる。


「君を、抱いてもいい?」


問いかけは優しく、静かだった。


「……うん」


言葉の代わりに、彼女はそっと瞳を閉じた。


そして、ふたりの距離が、ゆっくりと埋まっていく。


唇が触れ合い、体温が重なり合う。

ただ、確かめるように。

ただ、深く愛おしむように。


それは、静かで穏やかで、

世界にふたりしかいないような夜だった。


翌朝。


陽光がカーテン越しに差し込む中、

レティシアは、カイゼルの腕の中で目を覚ました。


「……おはよう」


「おはよう。よく眠れた?」


「ええ。今までで一番……心地よかった」


彼女が微笑むと、カイゼルも笑う。


「君と朝を迎えられることが、こんなに幸せなんだなって、思ったよ」


「……私も。思ってたより、怖くなかった」


「それは、嬉しい」


「でも、ひとつだけ言わせて」


「うん?」


「あなた、寝てるときもずっと腕まくらしてくれてたでしょ?……正直、ちょっと重い」


「……すまない」


「ふふっ、冗談よ」



笑い合うふたりの間には、もう“遠慮”も“誤解”もなかった。


心から心へ、想いが伝わった夜。


それは、彼らの“新しい始まり”だった。

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