表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】政略結婚なので愛は不要と告げた初夜に、妻は夫に愛人を紹介しました  作者: 一ノ宮ことね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/37

第十四話 「もう愛してはならないのか」

日が昇る少し前。

王宮の中庭に、露を含んだ薔薇の香りが満ちていた。


レティシアは、その中心に立っていた。


昨日――過去の記憶が繋がった。


彼が“カイ”だった。

彼女が“助けた少年”だった。

そして今は、皇帝と妃として、同じ場所にいる。


それは奇跡で、運命で、

でもそれを“愛”に結びつけてしまうのが怖かった。



「……優しさは弱さだと思ってた」


ぽつりと、呟いた。


そこに、声が重なる。


「君は優しかったよ。だから、あの日、俺は救われた」


振り返ると、そこにカイゼルがいた。


まるで、彼女の迷いをすべて読んでいたかのように。


「……どうしてそんなに、私を尊重できるの?」


「君が、俺にとっての“初めての灯”だったからだよ」


「……もう、愛してはならないのかもしれない。

私には帝国があって、責任があって――」


「俺は、君に“愛せ”なんて思っていないよ」


レティシアの喉が詰まりそうになる。


この人は、なぜいつも先回りしてしまうのか。

どうして、ここまで優しくされるのが、こんなに苦しいのか。


「……好きよ」


小さな声だった。


「……?」


「あなたが、好きよ。怖いけど。

自分が崩れてしまいそうで、怖いけど。

それでも――好きみたい、カイゼル」


カイゼルは、言葉を持たなかった。


ただ、そっと彼女の前に歩み寄り、

震えるその手を包み込む。


「ありがとう」


「……もっと何か言いなさいよ」


「言葉じゃ足りないから。君がくれたその気持ち、

大切に抱きしめることしかできない」


「もう、ほんとに……ずるい」


そう言いながらも、レティシアの声はどこまでも柔らかかった。


そしてふたりは、そのまましばらく言葉なく抱き合った。


初めて、心が重なった日。

それはどんな誓いよりも確かな“始まり”だった。


その夜、セリーヌがティーカップを指でなぞりながら尋ねた。


「で? 昼間は何か進展ありました?」


「……なんで知ってるの」


「何となく空気で」


「……そんなに顔に出てるの」


「思った以上にわかりやすいですよ?」


「……もう、外を歩けないわ」


レティシアは笑った。

これまでとは少し違う、柔らかな笑顔で。


その頃、カイゼルは政務室でペンを止めていた。


レティシアとの関係が変わっても、

政治の現実は止まってくれない。


だが、それでも。


“愛する者が、すぐそこにいる”という実感が――

すべてを乗り越える力になった。


「明日も、君と笑えるように。俺は帝国を護る」


その誓いは、決して声に出すものではなかった。


だが、その心は誰よりも強く、

そして、優しく在った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ