表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】政略結婚なので愛は不要と告げた初夜に、妻は夫に愛人を紹介しました  作者: 一ノ宮ことね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/37

第十二話 「政敵の一手、妃の排除案」

王宮――宰相執務棟の地下階。

帝国の影の中枢とも呼ばれる、貴族会議室で密談が行われていた。


「……やはり、レティシア王妃の存在は危険すぎる」


「そうだ。皇帝の傀儡ではない。彼女は独自に政を動かせる。

まるで、もう一人の“王”が存在するようなものだ。皇帝一人でも厄介なのに、同じくらい帝王学を持った人間がいては我々の時代は来ない」


「今ならまだ、手は打てる。

あの女を排除しさえすれば、皇帝も失速するはずだ」


彼らが口々に語るその対象――レティシア・フォン・グレイス。

今や帝国議会の重鎮にまで一目置かれる存在となっていた。


「……だが、誘拐事件の件で世論は完全に王妃に傾いた。

このタイミングで手を下せば、反感を買う」


「それなら、“自ら辞任させる”形に持ち込めばよい」


「……どうやって?」


「弱みを握る。王妃の実家――グレイス公爵家の資金運用の不正を摘発するのだ。

彼女が関与していた証拠を捏造できれば、政治的に葬る口実になる」


会議室には、重苦しい沈黙が流れた。


やがて一人の男が立ち上がる。


「……やれ」


それは、かつて王の重臣だった老宰相バルデン。


「皇妃の知性と意志は尊重すべきだが、

帝国において“女が王を超える”という前例など言語道断」


誰も反論はしなかった。


密かに、王妃排除計画が始まった。


一方、王妃自身はその動きに、すでに薄々気づいていた。


「グレイス公爵家の財務監査……? ずいぶん急ね」


レティシアは書類を見つめながら眉をひそめた。


「形式上は“定期監査”だと?」


「ええ。ですが明らかに動きが不自然です」


セリーヌが冷静に告げる。


「“王妃の政治的立場を揺らがせるための外堀”を埋めに来てるってことね」


「……まさにその通り」


カイゼルが応接室に入ってきた。


「俺の耳にも入った。動いているのは旧貴族連合の残党。

表向きは“会計検査”だが、目的は明白だ」


「私を“自分で辞任させる”ように仕向ける。

まるで政界の古典劇ね」


レティシアは苦笑し、すっと立ち上がる。


「いいでしょう。正面から受けて立ちます」


「……それでいいのか?」


「陛下、

私は“政治の中”で生きると決めた。誰にも傷つけずに、この席に座ろうとは思っていません。逃げるつもりもありません」


「……ああ。わかった。君に任せよう」


その言葉に、レティシアはほんの一瞬、目を細めた。


彼の言葉が、いちいち心に染みる。

それが煩わしくて、でも少しだけ嬉しくて。


「セリーヌ、調査をお願い。

“証拠のねつ造”に関わる動きがあれば、即座に報告を」


「了解」


その夜、レティシアは父であるグレイス公爵と面会した。


「……父上、最近資金の不自然な動きはありませんか?」


「まさか。すべて帝室に提出する書式に則って処理している。

あの旧貴族どもが騒いでるだけだ」


「でも、書類一枚の“捏造”が命取りになる。

どうか、過去十年分の財務を精査して」


「……わかった。王妃としてのお前を信じよう」



父娘の間に、静かな敬意が流れる。


翌日、議会では“王妃への問責”の動きが始まっていた。


「グレイス家に対する資金調査の結果、

数件の“処理の曖昧な資産移動”が確認された」


「王妃殿下はその責任をどうお考えか?」


質問に立ったのは、あの老宰相バルデンだった。


議場にざわつきが広がる中、レティシアはゆっくりと立ち上がる。


「……その処理が行われたのは、十二年前。

私がまだ十四歳だった頃のものです」


「しかし、王妃の名が補助署名に記録されております」


「ええ。私が“初めて書類に触れた”ときですね。

父の指導のもと、形式上の署名として残されたものです。

ですが――」


彼女は懐から、一枚の証書を取り出す。


「その記録が改竄されている証拠を、私は掴んでおります。

セリーヌ」


「はい」


セリーヌが壇上に進み、証拠資料を掲示する。


「こちらは元帳の複製に、旧式の“魔力印字”が用いられていた証拠です。

近年使用されたインクとは性質が異なり、明らかに後日挿入されたものだと鑑定されています」


沈黙。


ざわめき。


「……バルデン殿。

私に罪を着せたいなら、せめて“証拠の質”を整えてからになさってください」


その言葉に、議場が沸く。


そして、カイゼルが立ち上がる。


「王妃は、帝国のためにその才を尽くしてくれている。

それを貶める者は、“帝位そのもの”への敵対と見なす」


それは、宣戦布告だった。


老宰相は何も言えず、ただ席を退いた。


その夜、レティシアは一人、書斎にいた。


「……疲れた」


深く息を吐き、額に手をやる。


けれど、その肩にそっと羽織られたのは、カイゼルのマントだった。


「……?」


「君が無防備な背中を見せるなんて、珍しい」


「……今日は、少しだけ心が折れかけたの」


「そんなときは、俺に寄りかかればいい」


レティシアは、ふっと笑った。


「あなたって、本当に……甘やかすのが上手い」


「そうかな?」


「でも、今だけは…あなたの“妻”でいさせて」


「いつだって、君は俺の愛する妻だ」


静かな夜に、ふたりの呼吸が重なっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ