ゆいこのトライアングルレッスンU2〜たくみパイロット編〜
「2月14日14:45にここに来て。時間厳守な」
マップのピンと共にそんなメッセージがたくみから送られて来たのは2日前のこと。
たくみは高校卒業後、超難関と言われる防衛大学へと進学し、自衛隊のパイロットとなっていた。
地元を離れ自衛隊の基地にいるたくみに会える機会はほとんどなくなってしまっていた。
それでも会いたくて、たまにかけて来てくれる電話で「会いたい」とごねた結果のこのメッセージ。
送られて来たマップのピンは人里離れた辺鄙な山間で、不審に思いつつも、私はひろしに車を出してもらい、言われた時刻に間に合うようその場所に向かった。
「何もないところだね....」
2月14日14時35分
たくみに指定された場所で車を降りあたりを見回す。
そこは山間のちょっと開けた空き地で、東西南北全て山に囲まれた場所。
携帯の電波すら入らない辺鄙な場所で、たくみは一体何をしようとしているのか。
ちょっと不安になってひろしを見上げた。
「まぁ、ちょっと待ってみよう」
ひろしが口角を上げて私を見下ろした。
「ひろし、たくみに何か聞いてるの?」
意味ありげなひろしの視線に、ひろしを問いただそうとした時だった。
バラバラバラッ....と言う大きな音が聞こえて来たと思ったら、一機のヘリコプターが近づいてくるのが見えた。
何気なくその動きを目で追っていると、そのヘリコプターは私達の上を旋回し、ホバリングしながらゆっくりと目の前に着陸した。
と、ヘリコプターのドアが開き、ヘルメットを被り、サングラスをかけ、自衛隊のフライトスーツに身を包んだたくみが颯爽とこちらに走って来た。
「ゆいこ!」
満面の笑みを浮かべて手を上げる。
「たくみ....?」
突然の出来事に思考回路がうまく働かない。
たくみがパイロットになった事は知ってはいたけど....
実際にヘリコプターを操縦する姿に思わず目を見張った。
そんな私にしてやったりとイタズラっぽい微笑みを浮かべて、たくみはフライトスーツの胸ポケットから小さな包みと取り出し私に手渡した。
「ハッピーバレンタイン、ゆいこ」
「あ、え、ありがとう...」
「じゃぁ、おれ行くわ。じゃぁな、ゆいこ」
呆然と立ち尽くす私の頭にポンと優しく手を置いて、ひろしと意味ありげに目配せを交わして、たくみが踵を返してヘリコプターに走り寄り、乗り込んだ。
現れた時と同じように、バラバラバラッと大きなプロペラ音と共にヘリコプターは飛び去って行く。
私はたくみがくれた小さな包みを握りしめてそれを見送った。