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エミリー救出2

 エミリー・サンダースは大戦時、この国に落とした自国の爆弾、その外殻を持ち帰る為にやってきた。

 爆弾の外殻に、曽祖父が描いた図柄が描かれていたのだ。

 爆弾なのだから、通常破裂しておしまいだと思っていた。

 大国が落とした爆弾の内、今も地中に埋まっているものがある。いわゆる不発弾だ。

 この国で見つかった不発弾に曽祖父の絵柄が描かれている情報を耳にし、彼女は興奮した。

 なぜなら彼女は曽祖父が描いたものを集めていたからだ。

 大戦の終戦からの節目に当たる今年、大国との親交の一環として、彼女の来日になったのだ。

 だが、彼女はその不発弾の処理に、自分達の税金を費やしていることに腹を立てた連中に捕まってしまった。

 捕まえた連中は『大国に不発弾処理費用を負担させる会』という政治団体だった。

 彼女は今、不発弾処理の現場で、そいつらにリンチを受けていた。

「民間に対しても爆弾を投下しやがって」

「大国のしたことは戦争犯罪だぞ」

 エミリーは列をなして並んでいる政治団体員に、罵られ、頭を下げさせられた。

 構成員の中には、彼女の頭を強く地面に押し付けてきたり、踏みつけたり、蹴ったり、頬を叩くような者がいた。

 気の強い女性で初めは抵抗していたが、繰り返される暴行に次第に無抵抗になっていった。

「偉そうに記者会見してんじゃねぇ」

 団体員はそう言ってエミリーの頬を叩いた。

 何十年もの以前の戦争であり、エミリーには何の関わりもないことなのだ。

 次の団体員が、彼女の前に立ち、大きく足を振り上げる。

「不発弾の費用を、大国が負担しろ!」

「その女性(ひと)、無関係なんだから、やめんだケド」

 振り上げた足を蹴り出すことが出来ない。

 見ると、足にはバラ鞭から伸びた光る房が絡まっていた。

「いつの間に抜け出した」

「あの程度で拘束できるなんて、考えが甘いんだケド」

 橋口は鞭を振り上げる。

 男はバランスを崩してひっくり返った。

 エミリーの前に並んでいた団体員が橋口を取り囲む。

「それなら、今度はもっとキツイ拘束をしてやろう」

「言い方がキッショいんだケド」

 処理場の底で橋口が騒ぎを起こすと、すぐに雪音(ゆきね)たちも気がついた。

「なんの騒ぎだ」

「雪音、除霊士が逃げたぞ」

 案山(あんやま)はそう言うと、立っている場所を飛び出し、蹴り崩した砂と共に崖を降りていく。

「バカは慌てるな!」

 鉄葉(てつは)が引き止めるように声をかけるが、聴こえないのか、勢いを止めれないのか案山はずるずると坂を下り続けていく。

 鉄葉は誰に言うでもなく、言葉を続ける。

「こっちにはもう一人、人質がいるんだ」

「……」

 雪音が鉄葉の方を見ると、彼が言ったその人質の姿が見えない。

 代わりに、そこには麗子(れいこ)が立っていた。

 雪音の視線に気づいて鉄葉が左に目を向ける。

「またお前か」

 そう言うと鉄葉は亀のようにガードを固める。

 その視線の先に立つ麗子は、オープンフィンガーのグローブをはめ、ボクサースタイルで立っていた。

 麗子の中の(きつね)は考える。

 以前戦った時には、麗子がガードの上から強引に蹴り抜いて、気絶させている。

 体重の軽い女子の蹴りならガードできると考えていたに違いない。

 今度はそうはいかない。奴は可能な限り、ウィービング、ダッキングやスウェイでかわしてくるだろう。特に『蹴り』は警戒してくるはずだ。

 麗子は山側によって、ゆっくり間合いを詰めた。

 崖を上るように数歩移動して、崖を蹴って飛んだ。

「そんな大振りの蹴りを喰らうかよ!」

 体を回転させながら、麗子の蹴りが鉄葉へと伸びる。

 上体をのけ反らせながら、その蹴りを避けた。

 避けた体勢を戻そうとした時、麗子の手が鉄葉の頭を弾くように押した。

「!」

 体のバランスを崩した鉄葉はそのまま崖下に転がり落ちていった。

 麗子の中の狐は思った。

『俺が乗り移る必要もなかったな』

 麗子の相手は、目の前の雪音一人となった。

「ゾンビを出してるだけなら、犯罪じゃなかった。人を監禁したり脅したりしたら」

 麗子が言い切る前に、雪音が言う。

「私が何をしようが、どうでもいいでしょ」

「どうでも良くないわ。同じ力を持つ者として」

「これ以上うるさくするなら……」

 雪音は膝をつき、地面に手をついた。

「こいつで潰してあげる」

「地震!?」

 麗子は雪音の笑みに、この大地の振動が地震ではないことを知った。

 見ていると雪音が手をついている土が、勢いよく盛り上がる。

 崖の土砂が、ザラザラと落ちていく。

 麗子と永江(ながえ)所長は、慌てて雪音から距離をとる。

 茶色い土色の球体が現れ、さらに上がっていくとそれに肩や腕のような分岐が見え始めた。

「潰すって言ってたけど、もしかして……」

 麗子の問いに、所長が答えた。

泥人形(ゴーレム)を作り出すつもりだわ。彼女、塹壕ゾンビといい、何かを作り出す能力に長けているのね」

 茶色い巨体は、そろそろ膝が出てくるところだった。

「ど、どうしたらいいんですか?」

「もし彼女の足元にある巨体が『ゴーレム』なら、額に書かれた『EMETH(真理)』の『E』を消して『METH(死)』とすれば良いのだけれど」

「額?」

 雪音が乗っている大きな泥人形の額には何も書いていない。

 いや何か書かれている気がするが、少なくとも『EMETH』ではない。

「そんなもの書かれていないです」

「危ない!」

 所長が麗子の腕を引っ張る。

 麗子は泥人形(ゴーレム)に踏み潰されそうになるところを、間一髪免れた。

 泥人形は、強く踏みつけたせいで足を形作っていた部分が砕けてしまった。

 しかし、再び土を集めて修復してしまう。

 処理場の底にいた連中は、落ちてくる土砂や、泥人形(ゴーレム)の登場に驚いて各々、散り散りに逃げ出していった。

 橋口も、エミリーを連れて必死で崖を登っていた。

 所長と麗子は二人で逃げ回りながら、雪音の操る泥人形を観察する。

「額の文字って『土』じゃないかしら」

「土? 土と読むには変な形ですね。けど、あれが『土』なら、この泥人形(ゴーレム)そのものを指しているみたい」

「『土』だとして何を消せば『死』になるっていうの!?」

 麗子は考える。『(つち)』、確かに土のような字ではあるが、上の横棒が中心から右にずれている。縦の線がしたの横棒の中心に付いているのとは対照的だ。そこに何かあるのかもしれいない。

「所長、『EMETH』から『E』を消すときって、どうしたんですか?」

「よく覚えてないけど、打ち消すようにバツを上書きしたり、土に書いた字を消すように拭ったりしたんじゃないかしら?」

「消すというか、書き加えても良いわけですね」

 確信が持てない所長は少し首を傾げている。

 再び動き出した泥人形(ゴーレム)はあっという間に、二人に追いついた。

 そして大きく足を上げた。

「所長は逃げてください!」

「麗子!」

 所長と別れ、麗子は泥人形(ゴーレム)の足元に向かって走り出した。

 泥人形(ゴーレム)は慌てて真下を強く踏みつける。

 強く踏みつけたために、足が砕けて動きが止まった。

 麗子は崖を駆け上る。

「左手で潰せ!」

 雪音の言葉に応じて、ゴーレムは左手を使って、斜面を上る麗子を叩きにいった。

 必死に横っ飛びすると、麗子は泥人形(ゴーレム)の手のひらから逃れた。

 砕けた手のひらを再生する為、泥人形(ゴーレム)の左腕が固まった。

 麗子は素早く左腕に飛びのると、頭に向かってかけていく。

「右手、右手を使って!」

 雪音の言葉に泥人形(ゴーレム)が反応する。

「遅い!」

 そう口にする麗子の指には、霊光が光っていた。




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