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袋のネズミ

 麗子(れいこ)橋口(はしぐち)は窓から小屋の外を監視していた。

 エミリーが小屋から逃げようとしないから、出られないのだ。

 麗子は、エミリーを向いて訊ねる。

「まだ?」

「邪魔シナイデ」

 彼女はソファーに座って、買ってこさせたハンバーガーとポテトを食べている。

 麗子は再び窓の外に視線を移した。

「私もお腹減ったんだケド」

「あんたまで止めてよ」

 小屋の中で、誰かの腹の音がなった。

「今のは間違いなく麗子の腹の音なんだケド」

「それがどうしたのよ。私だってお腹は減ってるわ。だけど食べてたら逃げられなくなる」

「だったら、こいつも強制的に連れ出すべきなんだケド」

 二人は同時にエミリーを見た。

 確かにただ食べたいだけなのだから、いい加減、強引に連れ出しても文句は言わないのではないだろうか。

 二人から向けられる視線の意味に、エミリーも気づいたようだった。

「マダ駄目!」

 そう言うと彼女はソファーの肘掛けにしがみつく。

 さっさと満足してもらえないだろうか、と麗子はエミリーに向かって願う。

 今は安心して昼ごはんを食べれる状況ではないのに……

 その時、扉のレバーが動いた。

 無警戒に男が入ってきた。

 その男は、さっき橋口が霊力を抜き取って地面に転がした男だった。

「かんな!」

 麗子が言うと、橋口はすぐにバラ鞭を取り出した。

「まだここに居やがったか! お前らは袋のネズミだぞ」

 そう言いながらも、男は後退りする。

 男は橋口の鞭に気づくと、小屋の外に逃げ出した。

 鞭の先端が素早く伸びて、扉を閉める前に男に触れた。

「しばらく寝てろ、なんだケド」

 男の体が震えると、そのままうつ伏せに倒れてしまった。

 麗子と橋口は男の体を小屋の中に引き入れた。

 麗子は小屋の中を物色して、男を拘束できそうなロープを手に取った。

「また起きたら厄介だから、手足口を縛っておこう」

 長い一本のロープを使って、二人の男の手足を縛る。

 助けを呼ばれる可能性があるため、口にもロープをかけておく。

「こんなことしてるより、いい加減、ここから逃げるんだケド」

 そう言うと橋口はエミリーの腕を引っ張った。

 エミリーはその手を払うように激しく揺すった。

「私ニ指示シナイデ」

 麗子はエミリーの額に指を置いた。

 エミリーの肩の力が抜け、目の輝きが失われた。

「命令します。立ち上がって。この場所から逃げます」

「日本語の命令(オーダー)が効くんだケド」

「初めからやっておけば良かった」

 麗子がエミリーに次の命令をかけようとする時、橋口が言った。

「この女性(ひと)に聞いておきたかったことがあるんだケド」

 橋口は麗子に耳打ちした。

 静かに頷くと、麗子はエミリーに問いかけた。



 様子を見ながら、三人は小屋をでた。

 柵の出入りがないと見ると、麗子が素早く駆け寄って扉を開く。

「早く、外に出て!」

 橋口、エミリーと外に出ると、麗子も二人を追って外に出た。

 柵の扉をゆっくり閉めて、振り返ると麗子はエミリーにぶつかってしまった。

「何してんのよ」

 麗子は、ようやく状況に気づいた。

 三人の前には、行手を塞ぐように、ずらりと並んでいた。

「塹壕ソンビ!?」

 整然と並び、動き一つ見せないため、一瞬、それと気づかなかった。

 すると、真正面のゾンビが後ろに下がり、道を開けた。

「あなたたちは袋のネズミというわけね」

 そう声がすると、白と青のギンガムチェックのオーバーオールを着た女性が現れた。

 横には長い髪の男と、メガネで短髪の男が付き添っている。

「雪音……」

 麗子は、手の指で拳銃のような形を作り、突き出した人差し指を雪音に向けた。

 霊力を集めて、霊弾を放とうというのである。

「言ったでしょ? あなたたちは袋のネズミだって。おとなしく柵の中に戻りなさい」

 メガネをかけた『鉄葉(てつは)』が握っていた鎖を引くと、雪音の前に鎖で縛られた女性が膝をついた。

 女性の喉に、鉄葉がナイフを向ける。

 膝をついた女性を認識すると、麗子は雪音に向けていた手を下ろしてしまった。

「な、永江(ながえ)所長なんだケド」

 橋口のその震える声を聞いて、雪音はニヤリと笑った。




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