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検問

 一台の小型トラックが、ここが都下とは思えない山中を走っていた。

 トラックは山を降りると、川を渡るために大きな道路にでた。

 少し走ると、酷い渋滞にはまってしまう。

「道を変えよう」

 乗っている二人は、どちらもマスクをつけていて、少し言葉がくぐもって聞こえる。

 助手席に乗っている男が、スマホで渋滞状況を調べて、回避する道を探し始めた。

「なんだ、どうしてどこも渋滞なんだ」

 必死に操作するが、画期的な抜け道を見つけられない。

 ドライバーは助手席の男がいつまでも答えを出さないのにイラついて、トラックのラジオをつけた。

『今日は都内で不発弾の処理が行われており、xx大橋、〇〇交差点付近は激しい渋滞となっており……』

「不発弾の処理だと」

 ドライバーはすぐにラジオを切ってしまう。

「それも三ヶ所だ」

 二人は黙り込んでしまった。

 どの道を通っても橋は渡らねばならない。

 あまり迂回を考えても疲れるだけだ。

 そう思ったのかもしれない。

 結果的には単純な諦めと同じだった。

 渋滞にはまりながらもトラックは進み、橋が近づいてきた。

「おい、電話だぞ」

 いつの間にか助手席の男は寝ていた。

「ん、はい。なんでしょう」

 相手の声を聞くと、すぐに表情が変わった。

「はい、渋滞にはまっていて、まだ橋の手前です」

 緊張した表情から、相手の方が立場が上なのだろう。ドライバーも電話の相手の想像はついているようだった。

「夕方には着きます。それは必ず」

「おいちょっと待て」

「なんだ、夕方には着くだろう?」

 助手席の男は、ドライバーのハンドルをもつ手の指が指し示す方向を見た。

「……検問」

 電話の相手に気づかれまいと、助手席の男は慌てて電話を切る。

「大丈夫です。では約束の場所で」

 通話を切って、ドライバーに言う。

「なんでこんなところで」

「何か別の事件だろう。別に俺たちを張ってる訳じゃないはずだ。とにかく表情を変えるな不審に思われないようにすればいい」

 検問の車が進んで、二人の乗っているトラックの順番がくる。

 警官はパイプのような道具と、スマホのようなカメラ・デバイスを持って、ドライバー側の窓を開けさせた。

「呼気を確かめるんでマスク外してもらっていいですか?」

 ドライバーは飲酒運転のチェックをするのか? と考えた。それにしても、こんな夕方にすらなっていない、こんな時間から?

 指示に従わないわけにもいかず、ドライバーはマスクを外した。

 警官の視線を追うと、パイプのような道具ではなく、スマホの側をチェックしているようだった。

 一瞬、ドライバーの脳裏に『顔認証』という言葉が浮かんだ。

「この先端に息を吹きかけてください」

 何かきっかけがあったかのように、周囲で待機していた警官が、一斉にトラックに近づいてくる。

「……」

 助手席の男も、それとなくこの異常を感じ取っていた。

「もっと強く」

 そう言ってパイプのような道具を、さらにドライバーの口に近づける。

「おかしいな。じゃあ、助手席の人かな? そちらの方、マスク外してもらえますか?」

「待ってください。助手席の者が飲酒していても違反ではないですよね?」

「この室内から検出されるアルコールのでどころだけ知りたいんですよ」

 飲酒運転の検問で、こんな会話になるはずがない。

 助手席側の窓を下ろすと、そちらに近づいた警察官が言う。

「後ろ開けて荷物見せて」

「ちょっと待って、どんな権利があって」

「荷台の鍵、渡してくれるかな? それとも何か事情があるのかな? 荷台に人を乗せることは禁じられているんだけど」

 ドライバーと助手席の男は顔を見合わせた。

「それじゃあ、開けますんで、一緒に荷台に……」

「おい、勝手に車から降りるな!」

 トラックの扉が同時に開き、それぞれ反対方向に走り出した。

 警察官は全く迷うことなく、各々の近い側の男を追いかけ、追いつき、捕まえてしまった。

 警察官が男から鍵を取り上げると、小型トラックの荷台を開けた。

 中には少女が二人、手足を縛られ、さるぐつわ(・・・・・)をされて横たわっていた。

 警官がさるぐつわを外し、彼女たちの名前を確認する。

冴島麗子(さえじまれいこ)

橋口(はしぐち)かんな、なんだケド」




 不発弾を処理していた河川敷で、アリスは柴田から電話を受けた。

「そう、よかったわ。我々が依頼した責任もあるし」

 アリスは通話を終えると、すぐに掛け直した。

「永江所長、麗子ちゃんたち、無事保護したわ」

『ありがとう。あの子たちには、ちゃんと言い聞かせておくから』

「けど、なぜ二人の危機がわかったんですか?」

 永江が答え始めるまでに間があり、エミリーを警護する関係から時間がないのに、無駄な質問をしてしまったと後悔した。

『本人には言わないで欲しいんだけど、私が渡している物理ボタン式の携帯電話にちょっとした仕掛けがあって……』

「そうだったんですね。内緒にしておきます」

 アリスは電話を切ると、エミリーの元に戻った。

 エミリーは爆弾処理班に、爆弾の外殻を『今すぐ』渡せと言っていた。

 最終的にエミリーに渡すことは決定していたのだが、今信管を抜いたばかりで外殻を外す処理はまだできないし、受け渡しの事務処理も全くされていない。

 エミリーにもそれは伝わっているはずだった。

「エミリー、まだこの外殻を外すことは出来ないの」

「ガイカクハ、私ノ、ヒイオジイサンノモノ。今スグ渡シテ」

 アリスはタブレットを取り出して、エミリーと日本政府が交わした覚書をみる。

 そして、しかるべき処置をおこなってから渡す、と書かれた部分を選択し、音声で読み上げさせた。

 彼女の母国語で発せられた言葉を聞いて、彼女はムッとした表情になり黙り込んでしまった。

「さあ、これ以上ここにいても彼らの邪魔になるだけよ。帰りましょう」

 エミリーはボソリと言った。

「車デ帰リタイ」

 アリスは彼女に見られないよう背中を向けると、小さくため息をつき、スマホで車両の手配をかけた。




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