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警察への協力

 アリスは多数見つかった不発弾の監視カメラ映像を確認した。

 どこかに侵入した映像が残っていないか、どれだけ確認しても見つからなかった。

 ただ、アリスたちがゾンビを目撃した時間帯に、『不発弾』から光が放たれていることはわかった。

「これがゾンビが出てくる前兆なのね」

「けれど、この場所はどこからも出てこなかった。我々がいたところにはゾンビが出て来ました。違いがわかりません」

「たとえば」

 アリスは言葉を続けた。

「お札に目のような印をつけておき、どこかに貼っておく。十分に霊力を操れるものなら、そのお札から見えるものを、遠く離れた地で確認することができるわ」

「けどお札は貼ってませんでしたよ」

「だから、そもそも不発弾に描かれているこの図柄を利用しているのよ」

 柴田の頭の中で、不発弾同士が広域ネットワークで結ばれたような図が描かれた。

「不発弾の周辺を覗き放題ということですか?」

「見えるかは別として、特定のところにゾンビを送り込んだりすることができるのかもね」

「例のホテルのエレベータにも『不発弾』が持ち込まれたということですか?」

 映像にははっきり映っていないが、雪音が主催したイベントでゾンビを踊らせていた時に彼らが『不発弾のようなもの』を持ち歩いていた。

 もし、あれが手元にあればゾンビを作ったり送ったりすることができるのなら……

「やっぱり雪音たちを捕まえましょう。行動を監視して怪しければその場で」

「人員も割けないですし、そもそもアリスさんがしているエミリーの警護はどうするんですか?」

「……民間に任せるか」

 そう言うとアリスはスマホで電話をかけた。




 麗子(れいこ)橋口(はしぐち)は普段通り、宝仙院(ほうせんいん)女子高等学校で勉強をしていた。

 授業中、スマホに連絡が入っていたので、休み時間になった瞬間に確認する。

「かんな、事務所から指示入ってる。すぐに行かないと」

「また先生に説明するのメンドイんだけど。こういう警察案件の時は、警察(れんちゅう)から学校に連絡入れて欲しいんだケド」

「そんなことここで言っても仕方ないでしょ。とにかくこの『関東ローム大』ってところに向かいましょう」

 橋口はブツブツ文句を言いながらも帰る支度をする。

「例の『ユキネェ』のいる学校なんだケド」

「顔覚えとかなきゃ」

「そんなことより、この学校、教団が運営する大学なんだケド」

 麗子は思った。

 それならばユキネェも『教団』の信者に違いない。

 さらにアリスからの詳細情報を読み進める。教団が不発弾を通報していること。通報された不発弾からゾンビが現れたこと。おそらくそのゾンビの出現の鍵を握っているのが、ユキネェだと言うことだ。

 アリスの見立てだと、不発弾を出入り口にしてゾンビを送り込んでいる。

 そこで麗子たちにユキネェを見張らせ、ゾンビを送り込む証拠を見つけてほしいと言うことだ。

「これは時間が掛かりそうね」

「こっちだって学業で忙しいんだケド」

「その通りだわ。状況を見てアリスに援護を頼みましょう」

 二人はそう言うと職員室に入った。

 担任教師に説明すると、くれぐれも危険のないようにと言われた。

 麗子は黙って頷いた。

 職員室を出ると、橋口が言った。

「普通にやったら危険だから、こう言うのを除霊士に依頼してくるんだケド」

「しかも除霊士見習いにね」

 二人が学校のバス乗り場に着くと、そこには幼稚舎の生徒が大勢(バス)を待っていた。

 バスは宝仙院の生徒なら利用できるので、そこは問題ないのだが、生徒の数からすぐに乗れる状況ではない。

 麗子は言った。

「駅まで歩こう」

「ついてないんだケド」




 二人は電車を乗り換えた末、最後に乗ったモノレールの駅を出るとそこは山だった。

 その駅を降り乗りするのは、大学の生徒と思われる若者だけ。

 高校の制服を着たままの二人は、ちょっと変な目で見られている。

 駅周りに人がいなくなると、自然は豊かだが、とても寂しい雰囲気になった。

「ここ、本当に都下なんだケド」

 それより制服のままで尾行するわけにはいかない。

 大学生に紛れる必要がある。

「かんな、私服は持ってきてる?」

 彼女は頷いた。

 あとは着替える場所か。麗子はあたりを見回すと公衆トイレを見つけた。

「あ、あそこで着替え……」

 いつ作られたのだろう。蔦で覆われたいかにも汚らしいトイレだった。

「本当にここ、都下なんだケド」

「どこで見つかるかもしれない大学で着替える訳にいかないでしょ」

「これなら、乗り換えの途中の駅のデパートとかで着替えたかったんだケド」

 麗子が怒った顔を見せると、橋口は口を尖らせながらも黙って従った。




 私服に着替えた二人は大学内の教務課の前で、どこの教室でなんの授業をやっているか調べていた。

 橋口はヘソのでるようなTシャツを着て、ダメージジーンズを履いていた。

「気になってたんだけど、それジーンズの役目を果たしてないよね」

 確かに、デニム生地と穴の部分の面積を比較すると、穴の方が多いようだ。

「別にいいでしょ。麗子のゴス調黒ずくめよりはマシなんだケド」

「つーか、ヘソだしといい、いつの時代のファッションなの」

「体型の関係でヘソが見えがちになってしまうだけなんだケド」

 麗子より橋口の方がずっと背は低いが、胸は橋口の方が大きい。

 大きめのシャツを着てしまうと襟が開いてしまうし、丁度いいものを買うと上に引っ張られて腹が開いてしまう。

 以前から分かっていた話だった。

「ごめん。服装の事はお互い触れないようにしようか」

 二人は、背後に気配を感じて振り返った。

「ねぇ、こんなところで掲示板見てるけど、暇なの? 暇ならさ……」

 髪の短い男子学生が、そう声をかけてきた。

 少し後ろにも、二人を見ている男子学生が一人いる。

 その男子学生の方は、髪が長く、サングラスを頭にのせていた。

「ウチら別に暇じゃないから」

 麗子がそう言って、横をすり抜けようとしたが、袖を引っ張られた。

「ちょっとかんな!」

「そっちの子、かんなちゃんて言うの」

 麗子は口を手で押さえた。

 橋口は、声をかけてきた髪の短い男に言った。

「あんたら、ここ、案内して欲しいんだケド」

 手前にいた男子学生の目の色が変わった。

「この場所分からないって、もしかして、君たち……」

「何も言わずに案内するのがお約束なんだケド」

「いいけど、それなりの見返りを期待するよ!?」

 橋口は不器用なウィンクをして返した。

「そんじゃ、決まり。行こうぜ」

 四人は固まって歩き出し、学内を雪音が受けるであろう授業がある教室へと向かった。

 歩いている間、橋口と髪の短い男はくだらない会話を続けながら、互いの連絡先も交換していた。

 逆に麗子は髪の長い男に何度も話しかけられていたが、口を開かなかった。

 目的の場所に着いた。

 そこは教室というより、講堂だった。

 確かにこの場所を知らないというのは、大した推察力がなくとも、この大学の学生ではないとすぐにわかるだろう。

 白土は『オズの魔法使い』のドロシーの格好をしているため、講堂どこに彼女がいるのかはすぐに分かった。

 麗子は長い髪の生徒に言った。

「ありがとう。助かったわ」

 暗い顔になっていた男子生徒は、麗子の言葉を聞いて微笑み返した。

「良かった、(はなし)してくれて」

 好みの男ではなかったが、その様子を見て麗子は顔が熱くなるのを感じた。

 事前に橋口が事情を話していたので二人を案内した生徒は、そのまま教室を出ていった。

 二人は講堂の一番後ろに座って、白土の見張りを始めた。




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